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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第五章 アレクシア学園入学編
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なんか投げる感覚は残っているらしい

低学年用の訓練場は、昨日の実技場より狭かった。


白線の向こうに、藁を巻いた的が並んでいる。


教師が木箱を置くと、中の木球がごろりと音を立てた。


「結構重そうだな」


レオスが身を乗り出す。


マリベルも箱を覗き込んだ。


「当たったら痛そう」


「当てる授業ですよね」


エレシアが首を傾げる。


レオスは笑った。


「そう言われると、そうなんだけどさ」


教師が木球を一つ持ち上げた。


「今日は投擲を見る。遠くへ飛ばすだけなら、力のある者が有利だ。だが、それだけでは実戦で使えない」


木球が、教師の手の中で止まる。


「狙え。投げた後に止まれ。味方の前へ投げるな。危ないと思ったら投げるな。そこまで見ます」


箱が回ってきた。


俺は木球を一つ受け取る。


見た目より重い。


表面はざらついていて、指に引っかかった。


丸くて、硬くて、手の中で重い。


甲子園に憧れていた時期があった。


もう、遠い話である。


俺は白線の前を見た。


今の手は小さい。


指も短い。


覚えのある動きを、そのまま使えばずれる。


「まず一人ずつ。力いっぱいでなくていい。線の手前で止まること」


最初はレオスだった。


彼は白線の前に立ち、軽く肩を回す。


「よし」


木球が飛ぶ。


藁の端に当たり、乾いた音が鳴った。


ただ、投げ終えた足は線ぎりぎりまで出ている。


教師が記録板に目を落とした。


「力はある。次は止まれ」


「はい」


レオスは悔しそうに笑った。


次の生徒は、的の手前で落とした。


その次は右へ外れる。


外した子が顔を赤くした時、後ろで小さな笑い声がした。


俺は振り向く。


笑った男子は、すぐに口を閉じた。


外した子は何も言わずに木球を拾いに行く。


背中が固かった。


「次、ヨウカ」


白線の前に立つ。


的までの距離を見る。


遠くはない。


雑に投げれば外れる距離だ。


腕だけでは足りない。


強くいけば、体が持っていかれる。


俺は足の位置を決めた。


肩に力を入れすぎない。


握りすぎない。


投げる。


木球は的の左下を叩いて落ちた。


当たった。


狙いより早く手を離していた。


「端だね」


マリベルの声がした。


「端でも当たっています」


エレシアが返す。


リーナも胸の前で手を握って頷いていた。


教師が近づいてくる。


「離すのが早い。力で押していないのは悪くない。もう一度」


「はい」


二投目。


足から動かす。


腕を急がせない。


投げ終えて、白線の手前に残る。


今度は、さっきより中央に近いところへ当たった。


音も変わった。


「いい」


教師が短く言う。


「力は強くないが、修正が早い」


列へ戻ると、レオスがこちらを見た。


「二回目、急に良くなったな」


「一回目がずれたから」


「ずれたら直せるものなのか?」


「いつもは無理」


「今はできた顔してる」


マリベルが笑う。


「それは分かる」


「分からなくていい」


次はリーナだった。


白線の前で、肩が上がっている。


木球を握る指も白い。


「リーナ」


呼ぶと、リーナがこちらを向いた。


「手、痛くない?」


「え?」


「握りすぎると、投げる前に疲れる」


リーナは自分の手を見る。


「……本当だ」


「落とさないくらいでいいと思う」


「はい」


リーナは握りを直した。


教師はこちらを見たが、何も言わない。


木球は的の手前で落ちた。


それでも、最初に構えた時より腕は振れていた。


リーナは戻ってきて、胸の前で手を握る。


「さっきより怖くなかったです」


「ならよかった」


「ありがとうございます」


「投げたのはリーナだから」


リーナは照れたように笑った。


その後も順番は進む。


力のある子は音が大きい。


慎重な子は届かない。


怖がる子は、手から離す前に体が引ける。


同じ道具でも、動きは全然違った。


さっき笑った男子の番になった。


彼は勢いよく腕を振る。


木球は的を越え、後ろの柵に跳ねた。


近くの生徒が身を引く。


「止まれ」


教師の声が落ちた。


訓練場が静かになる。


「周りを見ていない。謝るなら、まず近くにいた者へ」


男子は顔を赤くした。


「す、すみません」


避けた生徒は困った顔で頷く。


俺は柵の近くまで転がった木球を拾い、箱へ戻した。


男子と目が合う。


彼はすぐ下を向いた。


「当たらなくてよかった」


そう言うと、男子は顔を上げた。


責められると思っていた顔だった。


「……うん」


「次は、投げる前に後ろを見るだけでも違うと思う」


男子は唇を結び、小さく頷いた。


「分かった」


教師がこちらを見る。


「ヨウカ。声かけは悪くない。ただし、危ない時は自分で動くな。教師に知らせろ」


「はい」


それで終わった。


最後に、もう一度だけ投げる時間があった。


木球を握る。


さっきより、指の置き場が分かる。


的を見る。


白線を見る。


周りを見る。


投げる。


中央より少し右。


大きな音ではなかったが、狙いには近かった。


教師が記録板に書き込む。


「ヨウカは投擲に向いている。力は足りないが、見て直すのが早い」


「はい」


「続けるかどうかは自分で決めろ。こちらは向いているものを伝えるだけだ」


「分かりました」


「それと、周りを見すぎて自分の順番を忘れるな」


後ろでマリベルが笑った。


俺は返事をするしかない。


「はい」


授業が終わる頃、手のひらには木のざらつきが残っていた。


投げる動きには覚えがある。


けれど、今の体で同じようにできるわけではない。


教室へ戻る途中、リーナが隣に来た。


「ヨウカさん、ありがとうございました」


「少し見ただけ」


「でも、怖くなくなりました」


それなら、声をかけてよかった。


そう思ったが、口にすると大きくなりそうだった。


俺は笑うだけにした。


「次は届くと思う」


「はい」


リーナの返事は明るかった。


マリベルが後ろから言う。


「ヨウカさん、面倒見いいね」


「そう?」


「うん」


レオスも頷く。


「俺もそう思う」


「二人で言わなくていい」


笑われた。


嫌ではなかった。


寮へ戻る前、仮希望の札が返された。


投擲の横に、教師の短い書き込みがある。


適性あり。


短剣の欄は空いたままだった。


俺は手のひらを開く。


その時、視界の端に薄い文字が浮かんだ。




【条件を満たしました】


【ノーマルスキル:投擲 LV1 を獲得しました】




すぐに消える。


俺は指を握り直した。


なんか投げる感覚は残っているらしい。


ただし、この体で投げるには、練習がいる。

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