なんか止める練習が一番大事らしい
魔法の練習は、思っていたものと違った。
もっと、火を出すとか。
光を飛ばすとか。
闇を広げるとか。
そういうものを想像していた。
実際に母さんが始めたのは、消す練習だった。
「出すより、止める方が大事」
母さんはそう言って、小さな皿を地面に置いた。
昨日と同じ、家の裏。
父さんもいる。
カリンもいた。
どうしているのかと思ったら、母さんが呼んだらしい。
「ヨウカが魔法するの?」
カリンは目を丸くしている。
「少しだけね」
母さんが答える。
「見るだけ。近づきすぎない」
「うん」
カリンは真剣に頷いた。
俺は母さんの膝の上に座る。
逃げられない位置だ。
いや、逃げる気はない。
ただ、かなり管理されている。
「まず光」
母さんが俺の手を支える。
俺は昨日の感覚を探す。
胸の奥から、細いものを引く。
指先に白い点が浮かぶ。
「はい、止める」
早い。
でも、母さんの声に合わせて、手の中の力をほどく。
光が消える。
「もう一回」
光を出す。
止める。
出す。
止める。
三回目で、頭が少し重くなった。
母さんはすぐに俺の手を下ろした。
「終わり」
「まだ」
言いかけた瞬間、母さんの目が細くなった。
俺は口を閉じた。
「まだ、じゃない」
母さんの声は静かだった。
「頭が重くなったでしょう」
ばれている。
俺は頷く。
「うん」
「なら終わり」
父さんが横から言う。
「疲れたと気づいた時には、もう少し遅い」
言葉は短い。
でも、覚えておいた方がいい言葉だった。
母さんは俺の手を撫でる。
「次は、出す練習じゃなくて、出さない練習」
出さない練習。
それは、練習なのか。
母さんは俺の指を軽く握った。
「今から、光を出そうとして、出さない」
かなり難しいことを言われた。
俺は胸の奥に意識を向ける。
昨日と同じ場所。
光を出す感覚。
そこへ手を伸ばしかけて、止める。
何も出ない。
でも、胸の奥だけが少しざわついた。
「そう。それ」
母さんが頷いた。
「魔法は、出す前に分かることがある。そこで止められるようになりなさい」
出す前に止める。
それができれば、昨日みたいに弾けることは少なくなる。
たぶん、事故も減る。
俺はもう一度やる。
出しかける。
止める。
今度は少しだけ光が漏れた。
「漏れた」
母さんが言う。
「はい」
「でも、止めた」
父さんが言う。
「はい」
カリンが横でじっと見ていた。
「ヨウカ、疲れてる?」
「少し」
「なら、終わり?」
カリンは母さんを見る。
母さんは頷いた。
「そう。終わり」
カリンは俺を見る。
「おわり」
なぜかカリンにも言われた。
俺は頷いた。
「はい」
反論しようと思えばできたかもしれない。
でも、カリンの顔が真剣だった。
母さんも、父さんも、同じ顔をしている。
ここで続ける理由はなかった。
母さんは皿を片付ける。
「今日できたことは、光を少し出したことじゃないわ」
俺は母さんを見る。
「止めたこと」
母さんはそう言った。
「出しかけて、止めた。疲れたと分かって、終わった。それが今日の練習」
地味だ。
とても地味だ。
でも、大事なのは分かる。
魔法は、出せばすごいものではない。
出さないこと。
止めること。
疲れる前に終わること。
その方が、今の俺には必要だった。
カリンが俺の隣に来る。
「ヨウカ」
「はい」
「かってに、だめ」
「はい」
「つかれたら、ねる」
「はい」
母さんが笑った。
「先生が増えたわね」
父さんは少しだけ口元を緩めた。
カリンは真面目な顔のままだ。
俺は、もう一度頷いた。
魔法はある。
光も闇もある。
でも、今の俺が一番覚えるべきなのは、強く出すことではない。
止めることだった。
どうやら、止める練習が一番大事らしい。




