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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第一章 フィル村幼児期編
7/34

なんか火は向いていないらしい

生活魔法を覚えた。


といっても、できることはかなり地味だ。


小さな火花を出す。

魔力を少しだけ手元に集める。

火に近い現象を、ほんの一瞬だけ起こす。


それだけ。


前世の感覚で言えば、ライターを使えるようになったというより、火打石で一回だけ火花を散らせたくらいである。


しかも、ものすごく疲れる。


自分を鑑定してみると、昨日の表示はこうだった。


【ヨウカ】

状態:疲労


MP:12 / 20


〈ノーマルスキル〉

観察 LV2

魔法操作 LV1

生活魔法 LV1


〈レアスキル〉

鑑定 LV1

精霊魔法 LV1


〈エクストラスキル〉

医学 LV1

叡智 LV-

?? LV-


MPが8も減っている。


小さな火花で8。


燃費が悪すぎる。


前世で言うなら、近所のコンビニに行くのに大型バスを一台動かしたようなものだ。

いや、たぶんもっと悪い。


「今日は練習なし」


アンナは朝からきっぱり言った。


俺は寝床の中で抗議した。


「あー」


「駄目」


即答だった。


正論である。


昨日、勝手に火に関わる生活魔法を使った赤ん坊に、翌日また練習させる親がいたら、その方がどうかしている。


なので俺は大人しく寝かされた。


ただ、頭の中は大人しくなかった。


生活魔法。


火花。


魔力消費。


適性。


昨日アンナが言っていた。


生活魔法は、適性が弱くても少しなら使えることがある。

でも、向いていない現象を無理に起こすと疲れる。


つまり、俺が火花を出せたのは、火に向いているからではない可能性が高い。


魔力が多い。

魔法操作を覚えた。

目の前に火があった。

危ないと思って、無理やり火の動きに干渉した。


それだけ。


できたことと、向いていることは別。


これは大事だ。


前世でもそうだった。


少しバットに当たるからといって、打撃が得意とは限らない。

一回いい球が投げられたからといって、投手向きとは限らない。

できること、続けられること、伸びることはそれぞれ違う。


魔法も同じなのだろう。


俺は布団の中で小さく息を吐いた。


どうやら、火は向いていない気がする。



午後、アンナが小さな石を持ってきた。


透明な、水晶のような石だった。


「あう?」


俺が声を出すと、アンナは椅子に座った。


「気になる?」


気になる。


かなり気になる。


アンナは石を俺の前にかざした。


「これは適性石。魔法の適性を簡単に見る道具よ」


適性石。


かなり重要そうな道具が出てきた。


アンナは続ける。


「本当は、もう少し大きくなってから使うものなんだけどね」


そう言って、俺をじっと見た。


「昨日みたいなことがあると、見ないわけにもいかないでしょう?」


完全に俺のせいである。


俺は大人しく手を差し出した。


いや、差し出したというより、アンナに手を持たれた。


一歳児なので、自主性には限界がある。


アンナは俺の小さな手を、適性石に触れさせた。


ひんやりしている。


「ヨウカは何もしなくていいわ。魔力を動かさない。石が勝手に反応するから」


何もしない。


これが意外と難しい。


気になると、つい見ようとする。

分かろうとする。

触ろうとする。


前世からの悪癖である。


でも昨日学んだ。


勝手にやるな。


まず止めろ。


俺は息を吸って、吐いた。


魔力を動かさない。


ただ、石に触れている。


すると、適性石の中に光が灯った。


最初は白。


淡く、しかしはっきりした白い光。


アンナの目が少し大きくなる。


「光……」


白い光は、石の中で静かに広がった。


暖かい。

でも火とは違う。


熱ではなく、見えるようになる感じ。


次に、石の奥に黒い色が広がった。


ただの黒ではない。


夜の底のような、深く静かな影。


アンナが息を呑んだ。


「……闇」


白と黒。


光と闇。


石の中で、二つの色が重なるように揺れている。


俺はそれを見つめた。


怖いというより、不思議だった。


正反対に見えるものが、同じ俺の魔力に反応している。


アンナはしばらく黙っていた。


それから、少しだけ難しい顔で石を見た。


「光と闇。両方が強いわね」


そうらしい。


今さら驚くべきなのか、もう何が出ても驚くべきではないのか、自分でも分からない。


すると、石の端にほんの少しだけ赤い点が浮かんだ。


火の色。


しかし、白や黒に比べるとかなり弱い。


小さい。


本当に小さい。


蚊のような赤だった。


アンナはそれを見て、納得したように頷いた。


「やっぱり、昨日の火花は火の適性で出したわけじゃないわね」


ああ。


やっぱりか。


アンナは説明するように、俺の手を包んだ。


「ヨウカには、火の適性はほとんどない。まったくゼロではないけれど、強くはないわ」


ないのか。


火花は出たのに。


いや、だからこそ昨日あれだけ疲れたのか。


アンナは続ける。


「生活魔法なら、小さな火花くらいは起こせる。でも本格的な火魔法は別。火の適性がない子が無理にやると、魔力をたくさん使うし、危ない」


正論だった。


できるからやっていい、ではない。


少しできるから向いている、でもない。


俺は石の中の赤い点を見た。


小さい。


かなり小さい。


どうやら、火は向いてないらしい。



夜、ヨシュアにも結果が伝えられた。


「光と闇か」


ヨシュアは腕を組み、低い声で言った。


「珍しいのか?」


「珍しいわ」


アンナは即答した。


「光だけでも珍しい。闇も珍しい。その二つがはっきり出る子なんて、私は見たことがない」


「危険なのか?」


「適性そのものは危険じゃない」


アンナはきっぱり言った。


「光だから善い、闇だから悪い、なんて単純な話ではないわ」


俺は少し安心した。


闇と聞いた瞬間、悪だの呪いだの言われたら面倒だと思っていた。


でもアンナは、そういう雑な見方をしないらしい。


「光は照らす。癒やす。祓う。導く。でも、強すぎる光は目を焼く」


アンナは暖炉を見た。


「闇は隠す。包む。鎮める。影に触れる。でも、深すぎる闇は人を飲む」


ヨシュアは静かに頷いた。


「剣と同じだな。使い手次第か」


「そう。力は力。善悪は使い方と目的にある」


かなり大事な話だった。


光と闇。


もしそれが本当に俺の適性なら、きっとこの先、何度も向き合うことになる。


光で見えるもの。

闇でしか見えないもの。


たぶん、人を救うにはどちらも必要なのだろう。


綺麗なところだけ見ていても、人は救えない。


傷も、弱さも、隠したいことも、見なければならない。


赤ん坊が考えることではない。


だが、俺は赤ん坊であって赤ん坊ではない。


ややこしい。


「それで、どうする?」


ヨシュアが聞いた。


アンナは少し考えた。


「しばらくは魔法操作と生活魔法だけ。属性魔法は触らせない」


ですよね。


それが正しい。


「ただ、光と闇の適性があるなら、成長した時にちゃんと教えないといけない。知らないまま暴発する方が危ない」


「村では難しいな」


「ええ。私だけでは限界があると思う」


二人の会話が重くなっていく。


俺のせいである。


申し訳ない。


だが、同時に少し怖くもあった。


自分にある力が、アンナ一人では教えきれないほど特殊。


それは、普通から少し離れているということだ。


普通に暮らしたい。


そう思っても、普通でいられるかどうかは分からない。


そもそも、加護が二つある時点で普通ではない。


しかも片方は伏せ字だ。


〈???の加護〉


見ようとすると頭が熱くなる。


だからまだ見ない。


分からないものを、無理に見るな。


これも大事な正論である。



翌日、カリンが来た。


彼女は俺の顔を見るなり、言った。


「よーか、ひ、へた?」


誰が言った。


いや、たぶんアンナだ。


アンナは後ろで笑いをこらえている。


やはりアンナだ。


俺は抗議の声を上げた。


「あー!」


カリンは真剣だった。


「へたなら、だめ」


刺さる。


かなり刺さる。


しかも正しい。


俺は視線を逸らした。


カリンは俺の頬を両手で挟んだ。


「よーか、きく」


聞いています。


「できること、する。できないこと、しない」


三歳児とは思えない正論で殴ってくる。


いや、もう少し成長しているが、それでも幼い子どもである。


なぜそんなに的確なのか。


カリンは続けた。


「でも、こまったら、いう」


言えない。


赤ん坊だから。


俺がそう思っていると、カリンは少し悩んでから言い直した。


「なく」


泣く。


「よーか、こまったら、なく。わたし、くる」


その言葉に、少し胸が詰まった。


困ったら泣けば来る。


赤ん坊としては当たり前のことだ。


でも、前世の俺はそれがあまり得意ではなかった。


困った時に、素直に助けを求める。


無理だと言う。

怖いと言う。

分からないと言う。


そういうことを、どこかで苦手にしていた気がする。


カリンは真面目な顔で俺を見ている。


俺は小さく声を出した。


「あう」


分かった。


困ったら泣く。


たぶん、それは今の俺に必要な能力だ。


魔法より先に覚えるべきかもしれない。


カリンは満足そうに頷いた。


「よし」


また「よし」である。


俺は完全に見守られている。


しかし、不思議と嫌ではなかった。



数日後、アンナは俺に小さな光を見せてくれた。


火ではない。


指先に灯る、白い光。


熱はほとんどない。

眩しすぎもしない。


暗い部屋を、ほんの少しだけ明るくする程度の光だった。


「光の初歩。灯明」


アンナはそう言った。


暖炉の火とは違う。


火は温める。

光は照らす。


同じ明るさでも、性質が違う。


俺はその光をじっと見た。


白い光の中に、細い糸のような魔力の流れが見える。


火の時とは違った。


分かりやすい。


いや、分かりやすいというより、体の中の何かが自然に反応している。


これなら、できそうだ。


そう思った。


だが、俺は手を伸ばさなかった。


昨日までの俺なら、たぶん勝手に試そうとした。


しかし、今は違う。


アンナがいる。

ヨシュアがいる。

カリンが心配する。


勝手にやるな。


まず聞け。


俺はアンナを見て、声を出した。


「あー」


アンナは俺の顔を見て、少し驚いた。


「やりたいの?」


「あう」


やりたい。


でも、勝手にはやらない。


そういうつもりで見つめた。


アンナはしばらく俺を見て、それから柔らかく笑った。


「……偉いわね。ちゃんと聞けた」


伝わったらしい。


かなり嬉しかった。


アンナは俺の手を取った。


「今日は、本当に少しだけ。光を出すんじゃなくて、光の魔力を感じるだけ」


俺は頷く代わりに声を出した。


「あう」


アンナの光に、俺の魔力をほんの少し近づける。


火の時とは違う。


熱くない。

暴れない。

無理に押し出す感じもない。


静かに、前に広がる感じ。


暗い部屋に窓が開くような感覚だった。


指先が、ほんの少し白く光った。


本当に少しだけ。


火花よりも弱い。


けれど、疲れは少なかった。


MPが削られる感覚もかなり軽い。


これが適性か。


向いているというのは、こういうことか。


俺は小さな光を見つめた。


すぐにアンナが止める。


「そこまで」


俺は魔力を引っ込めた。


今度はちゃんと止められた。


頭の奥に文字が浮かぶ。


〈光魔法 LV1 を習得しました〉


火の時より、ずっと静かな表示だった。


俺は息を吐いた。


どうやら、光は向いているらしい。


いや、少しではないのかもしれない。


でも、調子に乗らない。


火で学んだ。


力は、出せた時より、止められた時の方が大事だ。


アンナは俺を抱きしめた。


「よくできました」


その声が、胸の中にすっと入ってきた。


褒められるのは嬉しい。


でも、それ以上に。


ちゃんと見てくれている人がいることが嬉しかった。


火は向いてないらしい。

光は向いているらしい。

闇も、たぶんいつか向き合うことになるらしい。


けれど今は、まず一つ。


俺は勝手に無茶をしないことを、少しだけ覚えたらしい。

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