なんか光と闇も使えるらしい
次の日、母さんは俺を外へ連れていった。
家の裏。
火が移るものが少なく、父さんも近くにいる場所だった。
母さんは、小さな木皿を地面に置く。
その上に、乾いた葉を一枚。
「今日は見るだけじゃない。でも、勝手にはしない」
俺は頷いた。
母さんは俺の手を取る。
指は小さい。
母さんの手に包まれると、ほとんど隠れる。
「まず、火」
母さんの指先に、小さな赤い点が灯った。
昨日よりずっと小さい。
乾いた葉の端に近づけると、じわりと色が変わる。
燃える前に、母さんは火を消した。
「これくらいでも、葉は焦げる」
俺は焦げた葉を見る。
黒い。
小さいけれど、確かに焦げている。
「ヨウカは、まだ火はだめ」
「だめ」
「そう」
母さんは頷いた。
俺は少しだけ肩を落とした。
火は分かりやすい。
でも、分かりやすい分、危ない。
「次は光」
母さんは俺の手を支えたまま、ゆっくり呼吸した。
「昨日、あなたが出したのはこっちに近いと思う」
昨日の白い光。
まぶしくて、すぐ気持ち悪くなった。
俺は手の中を見る。
胸の奥から、細いものを引く。
でも、昨日のように一気に出さない。
母さんの手が、俺の手を押さえている。
「少しだけ」
小さな白い点が、指先に浮かんだ。
本当に小さい。
虫の光よりも弱い。
それでも、出た。
「ひかり」
声が漏れた。
母さんは少しだけ笑った。
「そう。光」
嬉しかった。
でも、すぐに頭が重くなる。
母さんは光を見て、すぐに俺の手を包んだ。
「止める」
光が消える。
胸の奥に引っ張られていた感じも消えた。
「今ので終わり」
「おわり?」
「終わり」
早い。
あまりにも早い。
でも、さっきの頭の重さを考えると、これでいいのだろう。
父さんが近くで見ていた。
「疲れたか」
俺は少し迷って、頷いた。
「うん」
父さんも頷く。
「なら終わりだ」
判断が早い。
「次は闇」
母さんが言った。
終わりではなかった。
俺は母さんを見る。
「これは、光より分かりにくいわ」
母さんは木皿の横に小さな石を置く。
「暗くする。隠す。吸う。そういう性質がある」
吸う。
言葉だけだと少し怖い。
母さんは自分の指先に、黒い薄い影を作った。
火や光のように光らない。
でも、そこだけ少し暗い。
日差しがあるのに、影が濃くなったように見える。
「これも、使い方を間違えると危ない」
俺は頷いた。
母さんは俺の手を支える。
さっきよりもさらに慎重だ。
胸の奥を探る。
光とは違う。
前へ押し出すのではなく、手の中に小さな穴を作るような感覚。
黒い点が、指先に滲んだ。
すぐに消えた。
「今ので十分」
母さんが止める。
俺は息を吐いた。
たったそれだけなのに、体が重い。
光も闇も出た。
でも、出ただけだ。
灯りにもならない。
何かを隠せるほどでもない。
火のように使えるわけでもない。
母さんが俺の額に手を当てる。
「熱はないわね」
父さんが聞く。
「どう見る」
母さんは少し考えた。
「光と闇に反応はある。火も、たぶんいずれ出る。でも、今は出力が小さい。体も追いついてない」
父さんは頷いた。
「なら、訓練ではなく確認だな」
「そうね」
俺は二人を見る。
訓練ではない。
確認。
その言い方で、少し分かった。
今の俺は、魔法を鍛える段階ではない。
どこに反応するのか。
どれくらいで疲れるのか。
どこから危ないのか。
それを知る段階だ。
母さんが俺を抱き上げる。
「今日はここまで」
今度こそ終わりだった。
俺は母さんの肩に額を預ける。
庭の光が少し眩しい。
指先には、さっきの白い点と黒い点の感覚が残っている。
使える。
でも、使い物になるとは言えない。
そして、危ない。
それくらいで、今は十分だった。
どうやら、俺は光と闇も使えるらしい。




