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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第一章 フィル村幼児期編
5/105

なんか魔法が普通にあるらしい

この世界には、魔法がある。


それを知ったのは、特別な儀式でも、神託でも、怪しい老人からの説明でもなかった。


母さんが、台所で火をつけたからだ。


指先に、小さな赤い光が灯る。


それが薪の端に触れると、ぱち、と音がして火が移った。


俺は、母さんの腕の中で固まった。


今、火を出した。


ライターも、火打ち石もない。


母さんは当然のように鍋を火にかけ、木べらで中をかき混ぜている。


「どうしたの?」


母さんが俺を見た。


俺は火を見る。


母さんを見る。


もう一度、火を見る。


「ひ」


口から出たのは、それだけだった。


母さんは少し笑った。


「火よ。危ないから触っちゃだめ」


知っている。


火が危ないことくらいは知っている。


ただ、指から出るとは思っていなかった。


その日から、俺は家の中を少し違う目で見るようになった。


母さんは水瓶から水を動かす時、ほんの少し指を揺らす。


灯りをつける時、火を大きくしすぎない。


薬草を乾かす時は、熱を近づけすぎない。


父さんは、外から帰ってきた時、手についた泥を水で流す。


それも、ただ水をかけているだけではない。


水が手の表面をなぞるように動いている。


生活の中に、魔法がある。


でも、誰も驚かない。


母さんも父さんも、それを特別なことのようには扱わない。


鍋をかける。


水を流す。


灯りをつける。


その中に、魔法が混ざっている。


俺はしばらく、それを見るだけにしていた。


見るだけ。


それなら危なくない。


そう思っていた。


けれど、見ていると、どうしても試したくなる。


前世の俺なら、自分で立って、手を動かして、真似をしたかもしれない。


今の俺は、布の上に座るだけで精一杯だ。


それでも、手は動く。


小さい指を、母さんの真似で少し曲げる。


火ではなく、光。


火は危ない。


光なら、まだましだと思った。


目の前に、薄い何かが集まる。


胸の奥から、細い糸が引っ張られるような感覚があった。


あ、と思った時には遅かった。


白い光が、ぱっと弾けた。


まぶしい。


それだけではなかった。


頭がぐらりと揺れる。


体から力が抜ける。


「ヨウカ!」


母さんの声が近づいた。


抱き上げられる。


顔を覗き込まれる。


俺は返事をしようとした。


でも、声が出る前に目が閉じた。


次に起きた時、俺は母さんの膝の上にいた。


父さんもいた。


二人とも、怖い顔をしている。


怒っている、とは少し違う。


もっと静かで、怖い。


「ヨウカ」


母さんが俺の名前を呼ぶ。


「いまの、なにをしたか、分かる?」


分かる。


魔法を真似した。


少しだけ。


そのつもりだった。


俺は母さんの服を掴んだ。


「ま、ほ」


母さんは目を細めた。


「そう。魔法」


父さんが静かに言う。


「勝手に使うな」


声は大きくない。


でも、逃げ場がなかった。


俺は小さく頷いた。


「魔法は便利よ」


母さんが俺の頭を撫でる。


「でも、体の中の力を使うの。小さい体で無理に使えば、倒れる」


倒れた。


それは、もう分かっている。


「火なら、家が燃える。水なら、溺れる。光でも、目を傷めることがある」


母さんの言葉が、ひとつずつ落ちてくる。


魔法は夢みたいな力ではない。


火は火だ。


水は水だ。


光は光だ。


出したものには、ちゃんと危険がある。


父さんが俺の前に手を出した。


「見るのはいい」


俺は父さんを見る。


「だが、真似るなら、俺たちがいる時だ」


俺は頷いた。


母さんも頷く。


「明日から、少しだけ教えるわ。勝手にやるより、その方が安全だから」


教えてくれる。


少し嬉しい。


でも、今はそれより眠かった。


体が重い。


まぶたも重い。


母さんが俺を抱き直す。


「今日はもう終わり」


それには逆らえなかった。


俺は母さんの腕の中で、目を閉じる。


魔法はある。


でも、ただの便利な力ではない。


それだけは、倒れた頭でも分かった。


どうやら、この世界には魔法が普通にあるらしい。

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