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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第一章 フィル村幼児期編
4/34

なんかスキルがあるらしい

赤ん坊というものは、暇である。


いや、正確に言えば、体は忙しい。


寝る。

飲む。

泣く。

おむつを替えられる。

また寝る。


体の都合に生活を完全に支配されている。


だが、頭だけは妙に起きている。


これがなかなか厄介だった。


前世の俺は、寺原丈賀という大学生だった。


野球をして、教師を目指して、なんだかんだ学校という場所が好きだった。

家庭に恵まれていたかと言われると、かなり微妙だったが、それでも二十二年は男として生きていた。


それが今は、ヨウカという女の赤ん坊である。


普通なら発狂してもおかしくない。


……のかもしれない。


ただ、正直なところ、俺はそこまで悲観していなかった。


理由は単純だ。


今の家が、温かいからだ。


アンナは俺を雑に扱わない。

ヨシュアは大きな手で、壊さないように抱いてくれる。

カリンはなぜか毎回「まもる」と言ってくる。


女になったことへの違和感はある。

もちろんある。


でも、前世の性別にしがみつくよりも、今ここで大事にされていることの方が、ずっと大きかった。


人間、安心できる場所があると、案外いろんなことを後回しにできるらしい。


とはいえ、後回しにできない問題もあった。


それが、俺の目に見える妙な文字である。



最初に気づいたのは、壁だった。


【家の壁】

木製の家の壁。そこそこの耐久力がある。火に弱い。

〈素材〉

ブガの木


次に、椅子。


【木の椅子】

座るための家具。少し古い。脚の一本に傷がある。


薬草瓶。


【薬草瓶】

乾燥薬草が入った瓶。湿気に注意。


暖炉。


【暖炉】

火を扱う場所。近づきすぎると危険。


ここまでは、まあ分かる。


いや、分かるわけではないが、少なくとも「物の情報が見える能力」なのだろうと整理はできた。


問題は、人や自分を見た時だった。


アンナをじっと見る。


【アンナ】

状態:健康

詳細不明。


ヨシュアを見る。


【ヨシュア】

状態:健康

詳細不明。


カリンを見る。


【カリン】

状態:健康

詳細不明。


人間相手だと、あまり情報は出ない。


たぶん、俺の力が弱いのか、相手の情報量が多すぎるのか、その両方だ。


そしてある日、俺はふと思った。


では、自分を見たらどうなるのか。


赤ん坊なので鏡を自由に見ることはできない。

だが、アンナの部屋には小さな手鏡があった。


アンナが髪を整えている時、俺はその膝の上にいた。


鏡に映ったのは、小さな女の子だった。


柔らかい髪。

丸い頬。

まだ焦点の定まりきらない目。


これが俺か。


いや、俺というより、ヨウカか。


鏡の中の自分をじっと見つめる。


すると、文字が浮かんだ。


【ヨウカ】

種族:人族

年齢:一歳

状態:健康


そこまではいい。


問題はその下だった。


ヨウカ 女 1歳

レベル1


攻撃 3

防御 4

敏捷 5

器用 9

幸運 39

魔力 35

MP 20


状態 健康



……数字が出た。


出てしまった。


ゲームか。


いや、だからそんな雑な話があるか。


だが、現実に見えている。


さらに視線を向けると、別の項目が浮かんだ。

〈ノーマルスキル〉

観察 LV1

〈レアスキル〉

鑑定 LV1

精霊魔法 LV1

〈エクストラスキル〉

医学 LV1

叡智 LV-

?? LV-


〈加護〉

光と知恵の神の加護

???の加護


俺は鏡の中の自分を見たまま、しばらく固まった。


アンナが首をかしげる。


「ヨウカ? 鏡が気になるの?」


気になる。


かなり気になる。


いや、気になるどころではない。


まず、スキルがある。

次に、加護が二つある。

さらに、エクストラスキルという明らかに不穏なものまである。


そして何より、


???加護。


なんだそれは。



俺はじっと文字を見た。


光と知恵。

これはまだ分かる。


叡智というスキルもある。

記憶や思考がやけにはっきりしている理由は、たぶんこれだ。


医学。

これも、傷や体の状態を見た時に妙に判断が浮かぶ理由だろう。


精霊魔法。

これはまだよく分からない。


鑑定。

これは今まさに使っている。


問題は、最後の「??」だ。


見ようとしても、文字が揺れる。


頭の奥が、少し熱くなった。


まずい。


直感的にそう思った。


これは、今の俺が見ていいものではない。


赤ん坊の脳に無理やり情報を押し込もうとしている感じがある。


俺は慌てて目を逸らした。


その瞬間、ふっと文字が消えた。


「……あー」


思わず声が漏れた。


アンナは微笑んだ。


「自分の顔、面白かった?」


面白くはない。


かなり深刻である。


しかし、赤ん坊なので説明できない。


俺はアンナの服をぎゅっと握った。


アンナは少し驚いた後、優しく俺を抱き直した。


「大丈夫よ。ここにいるから」


その言葉に、少しだけ力が抜けた。


大丈夫。


本当に大丈夫かは分からない。


だが、今すぐどうにかできる問題ではない。


とりあえず分かったことがある。


俺には、スキルがあるらしい。


そして、そのスキルは便利だが、たぶん危ない。



それから俺は、少しずつ実験することにした。


赤ん坊なので、できる実験は限られている。


見る。

考える。

声を出す。

触る。


それくらいだ。


まず、鑑定。


これは視線を向けるだけで発動することが多い。

ただし、集中しすぎると頭が疲れる。


木の椅子や壁くらいなら平気。

薬草瓶や魔法書になると少し疲れる。

人間相手はかなり重い。


おそらく情報が多いからだ。


次に、観察。


これは鑑定とは少し違う。


鑑定が文字として情報を出すなら、観察は違和感に気づく力だ。


たとえば、ヨシュアがいつもより少し右肩をかばっていること。

アンナが疲れている時は、薬草を刻む手の速度が落ちること。

カリンが強がっている時は、耳のあたりが少し赤くなること。


そういうものが、妙に見える。


教師を目指していた前世の俺にとって、これはかなりありがたい力かもしれない。


相手の様子を見る。

困っていることに気づく。

言葉にする前のSOSを拾う。


もし将来、人と関わるなら、きっと役に立つ。


ただし、これも万能ではない。


見えたところで、対応できなければ意味がない。


赤ん坊の俺は、アンナの疲れに気づいても、肩を揉むことすらできない。


できるのは、せいぜい笑うことくらいだ。


だから俺は、アンナが疲れていそうな時、なるべく機嫌よくしてみた。


泣かない。

手を伸ばす。

笑う。


「あら、今日はご機嫌ね」


アンナが嬉しそうにする。


それだけで少しは効果があるらしい。


赤ん坊の仕事も、案外馬鹿にできない。



問題は、魔力だった。


魔力がある。


ステータスには、確かにそう出ていた。


だが、使い方が分からない。


アンナが魔法を使う時、空気が少し変わるのは分かる。


暖炉の火を強くする時。

水を温める時。

薬草を乾かす時。


アンナの指先から、見えない何かが流れる感じがする。


それを真似しようとした。


結果、何も起きなかった。


いや、正確には、俺が疲れただけだった。


「うー……」


俺は床の上でぐったりした。


カリンが隣で心配そうに覗き込む。


「よーか、ねむい?」


眠い。


というより、だるい。


魔力を動かそうとして、何かを空回りさせた感じだ。


カリンは俺の頭を撫でた。


「ねる?」


「あう」


寝る。


かなり寝る。


俺はそのまま眠った。


魔法は、気合いで使えるものではないらしい。


ここは重要だ。


前世でもそうだった。


筋トレも勉強も、やり方を知らずに力任せにやると効率が悪い。

下手をすれば怪我をする。


魔法も同じだろう。


なら、学ぶ必要がある。


アンナから。

本から。

実際の経験から。


スキルがあっても、知識がなければ使えない。


これは医学も同じだ。


俺は医者ではない。

ただ、医学というスキルがあるだけだ。


だから、今の俺にできるのは、せいぜい「危なそう」と気づくことくらい。


治療はできない。

薬も作れない。

診断もできない。


勘違いしてはいけない。


力があることと、できることは別だ。


これはかなり大事な正論である。



数日後、カリンがまた来た。


手には小さな花を持っている。


「よーか、これ」


差し出された花を見つめる。


【シロミナ花】

白い小花。香りが弱く、乾燥させると軽い鎮静効果を持つ。


へえ。


これは少し詳しい。


薬草系だから、医学スキルが反応しているのかもしれない。


俺は花を見てから、アンナを見た。


アンナは少し驚いた顔をした。


「カリン、それどこで摘んだの?」


「そと」


「これは薬草にも使える花ね。よく見つけたわ」


カリンは胸を張った。


「よーかにあげる」


俺は花に手を伸ばした。


小さな指で茎を掴む。


シロミナ花。


鎮静効果。


つまり、眠れない時や不安が強い時に使える可能性がある。


もちろん、量や使い方を知らなければ危ない。

薬は何でもそうだ。


効くものは、使い方を間違えれば毒にもなる。


俺は花を握りながら、ふと思った。


この世界には、どれだけ知らないものがあるのだろう。


薬草。

魔法。

精霊。

スキル。

神。

加護。


そして、俺自身。


分からないことが多すぎる。


だが、不思議と嫌ではなかった。


前世の俺は、本を読んだり、歴史漫画を見たり、迷路を探したりするのが好きだった。


世界の中に何があるのかを知るのは、楽しい。


ただし、今度はそれが遊びでは済まない。


知っていれば救えるかもしれない。

知らなければ救えないかもしれない。


その差は、たぶん大きい。


俺は花を握ったまま、カリンを見た。


カリンはにこにこしている。


この子が怪我をした時。

アンナが倒れた時。

ヨシュアが帰ってこなかった時。


俺は何ができるのか。


今はまだ、何もできない。


でも、ずっと何もできないままでいるつもりはない。


「あう」


俺は花を掲げた。


カリンが笑う。


「よーか、うれしい?」


嬉しい。


それもある。


でも、それだけではない。


俺はたぶん、この世界を知りたい。


そして、できることなら。


大事な人が壊れる前に、ちゃんと気づけるようになりたい。


そのためには、スキルに振り回されるのではなく、使えるようにならなければいけない。


鑑定も。

観察も。

医学も。

叡智も。

よく分からない加護も。


全部、俺のものとして扱えるように。


そう思った瞬間、頭の奥で小さく何かが鳴った。


〈観察 LV1 → LV2〉


文字が一瞬だけ浮かんで、すぐに消えた。


俺は固まった。


……上がった。


スキルレベル、上がるんかい。


この世界、思っていた以上にゲームっぽい。


ただし、ゲームと違って、痛みも空腹もある。

家族もいる。

失敗したら、たぶん普通に誰かが傷つく。


だから、遊びではない。


俺は小さく息を吐いた。


どうやら俺には、スキルがあるらしい。


そしてそれは、使い方を間違えれば、たぶん自分も周りも巻き込むものらしい。


赤ん坊の身で分かったこととしては、十分すぎるくらい重かった。

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