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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第一章 フィル村幼児期編
3/42

なんか幼馴染ができたらしい

カリンは、よく来た。


最初に会った時、彼女は三歳だった。


俺――いや、ヨウカはまだ一歳にも満たない赤ん坊で、まともに立つこともできなかった。


だから当然、一緒に遊ぶと言っても、できることは限られている。


カリンが木の人形を持ってくる。

俺の前に置く。

俺がそれを触る。

カリンが満足そうに頷く。


それだけ。


それだけなのに、彼女はやけに真剣だった。


「よーか、これ」


カリンは小さな木剣を俺の前に置いた。


いや、置かれても困る。


俺はまだ赤ん坊である。

剣を握る以前に、よだれを垂らさず座っているだけでもまあまあ頑張っている。


「あう」


返事をすると、カリンは少し得意げな顔をした。


「つよくなる」


強くなる。


何が。


俺がか。

お前がか。

それとも二人でか。


聞き返したいが、口から出るのは赤ん坊の声だけだった。


「カリン、それはまだ早いわよ」


アンナが苦笑する。


カリンは首をかしげた。


「なんで?」


「ヨウカはまだ小さいから」


「わたしも、ちいさい」


「あなたは三歳。ヨウカはまだ赤ちゃん」


「でも、よーか、かしこい」


カリンは当然のように言った。


俺は少し驚いた。


この子、何を見てそう思ったんだ。


俺はただ、壁や机や薬草瓶をじっと見ているだけである。


まあ、そのたびに【木の机】だの【薬草瓶】だの、妙な情報が見えているわけだが、カリンがそれを知るはずはない。


アンナも少し驚いた顔をした。


「どうしてそう思うの?」


カリンは俺を見た。


そして、短く言った。


「め」


目。


「よーか、めで考えてる」


アンナが黙った。


ヨシュアが、少し面白そうに笑った。


「へえ」


俺はカリンを見た。


この子、三歳のくせに妙なところを見る。


いや、三歳だからこそ、余計な理屈抜きで見えているのかもしれない。


カリンは俺の前に座り、木剣を自分の膝に置いた。


「よーか、まもる」


またそれか。


初対面でも言っていた。


俺を守る。


たぶんカリンの中では、すでに決定事項なのだろう。


俺は赤ん坊の手を伸ばして、カリンの指に触れた。


カリンは嬉しそうに笑った。


その顔を見て、少しだけ胸が温かくなった。


前世では、こういう関係はあまり知らなかった。


誰かが当然のように自分の味方でいること。

理由もなく、守ると言ってくること。

それを疑わずに笑っていること。


正直、かなり不思議だった。



カリンは、よく転んだ。


「また?」


アンナが言う。


「だいじょうぶ」


カリンはそう答えるが、膝にはしっかり擦り傷がある。


庭で走り回って、石につまずいたらしい。


俺は床に座ったまま、その傷をじっと見た。


赤い。

浅い擦過傷。

汚れが入っている。

水で洗う。

清潔な布。

できれば傷口を強くこすらない。


頭の中に、自然とそんな判断が浮かぶ。


けれど、俺の体はまだ小さい。


できるのはせいぜい、声を出すことくらいだ。


「あー」


カリンがこちらを見た。


「よーか?」


俺はアンナの方を向き、もう一度声を出した。


「あー、あー」


アンナは最初、不思議そうに俺を見た。

それからカリンの膝に目をやる。


「ああ、傷が気になるの?」


気になる。


かなり気になる。


アンナは桶に水を用意し、カリンの膝を洗った。


カリンは少し顔をしかめたが、泣かなかった。


「しみる?」


「しみない」


嘘だ。


普通にしみている顔だ。


ヨシュアが横から言った。


「痛い時は痛いと言え」


「いたくない」


「痛そうな顔をしてるぞ」


「いたくない」


強情である。


アンナは笑いながら、清潔な布を巻いた。


「はい、終わり」


カリンは傷を見て、それから俺を見た。


「よーか、しんぱいした?」


俺は声を出した。


「あう」


した。


たぶん、した。


カリンは満足そうにした。


「なら、だいじょうぶ」


いや、理屈がおかしい。


俺が心配したから大丈夫になるわけではない。


だが、カリンはそれで納得したらしい。


この子は、少し不思議だ。


強い。

強情。

でも、妙にまっすぐ。


そして、俺のことになるとかなり真剣になる。



その日の夜、俺はアンナに抱かれていた。


暖炉の火が揺れている。


ヨシュアは剣の手入れをしていた。


外では虫が鳴いている。


静かで、温かい夜だった。


「カリンは、ヨウカが好きね」


アンナが言った。


ヨシュアは剣から目を離さずに答えた。


「あの子は昔から面倒見がいい」


「でも、ヨウカには特別よ」


「そうか?」


「そうよ。あの子、ヨウカを見る時だけ顔が違うもの」


顔が違う。


俺は内心で少し困った。


それは、俺のせいなのかもしれない。


まだはっきりとは分からないが、俺には人に好かれやすい何かがある。


アンナに拾われた時もそうだった。

目が合った瞬間、彼女は「放っておけない」と言った。


偶然かもしれない。

アンナがもともと優しいだけかもしれない。


でも、何度か似たようなことがあった。


村の人に抱かれた時。

近所の子どもに見られた時。

相手の表情が、少し柔らかくなる。


赤ん坊だから可愛がられているだけ。


そう考えるのが普通だ。


だが、どうにもそれだけではない気がする。


俺はまだ、ステータスのようなものを完全には理解できていない。

それでも、自分の中に妙な力があることは分かってきた。


それが良いものなのか、悪いものなのかは分からない。


ただ、少なくともカリンの気持ちまでその力のせいだと思いたくはなかった。


カリンの「守る」は、カリンのものだ。


そうであってほしい。


赤ん坊のくせに、ずいぶん面倒なことを考えている。


俺は小さく息を吐いた。


アンナが俺の額を撫でる。


「ヨウカ、眠い?」


眠い。


だが、それ以上に、少し安心した。


この家には火がある。

アンナがいる。

ヨシュアがいる。

そして、隣の家にはカリンがいる。


前世の家とは違う。


ここでは、誰かが誰かを怒鳴りつけるために扉を開けることはない。

誰かが帰ってこないことを、当たり前みたいに諦める必要もない。


泣けば来てくれる。

傷があれば洗ってくれる。

守ると言ってくれる子がいる。


それは、かなりすごいことだった。



カリンとの日々は、少しずつ騒がしくなった。


俺がはいはいを覚えると、カリンはそれを訓練だと思った。


「よーか、こっち」


カリンは少し離れた場所に座る。


俺はそこまで這っていく。


たどり着くと、カリンは頭を撫でる。


「えらい」


犬か。


いや、赤ん坊なので大差ないのかもしれない。


ヨシュアはそれを見て笑っていた。


「カリン、ヨウカを鍛えているのか?」


「うん」


「何にするつもりだ?」


「つよいこ」


「そうか」


ヨシュアは真面目な顔で頷いた。


いや、頷くな。


アンナは呆れたように言った。


「二人とも、変なことを教えないで」


「変じゃない。強いのは大事だ」


「まずは健康に育つのが先」


「それも強さだ」


「あなた、そういうところあるわよね」


アンナとヨシュアがそんな会話をしている間も、カリンは俺の前に木の実を置いていた。


「よーか、これ」


俺は手を伸ばす。


木の実を掴む。


【赤ナツの実】

甘みのある木の実。食用。未熟なものは腹を下す。


見える。


鑑定は少しずつ安定してきた。


ただし、やはり情報は浅い。


もっと詳しく知るには、たぶんスキルの熟練か、俺自身の知識が必要だ。


赤ナツの実。


未熟なものは腹を下す。


俺はカリンの手元を見た。


彼女が持っているもう一つの実は、少し青かった。


「あー!」


俺は声を上げた。


カリンが驚く。


「なに?」


俺は青い実を指差す。


「あー!」


アンナが近づいてきた。


「どうしたの?」


俺は必死に青い実を見た。


アンナも気づいたらしい。


「あ、それはまだ駄目よ。お腹を壊すわ」


カリンは青い実を見て、素直に置いた。


「よーか、わかった?」


俺は返事をした。


「あう」


分かった。


カリンは目を丸くした。


「すごい」


いや、すごいのは鑑定だ。


俺本人がすごいわけではない。


だが、カリンは完全に俺を尊敬する目で見ていた。


まずい。


このままだと、カリンの中で俺が謎に賢い存在として育ってしまう。


赤ん坊なのに。


俺はただの元大学生である。

しかも医者でも魔法使いでもない。


ただ、少しだけ前世の記憶があって、よく分からないスキルがあるだけだ。


過大評価は困る。


そう思った直後、俺はバランスを崩して横に転がった。


「あ」


カリンが固まる。


アンナが笑う。


ヨシュアも笑う。


俺は床に転がったまま天井を見た。


過大評価は、たぶん少し下がった。


よかった。


いや、よくはない。



その後、カリンは俺の近くでよく遊ぶようになった。


積み木を積む。

木剣を振る。

俺に見せる。

俺が拍手らしき動きをする。

カリンが満足する。


そんな日々だった。


ある日、カリンが俺の隣に座って、ぽつりと言った。


「よーか、わたしがまもる」


またそれか。


俺はカリンを見た。


カリンはいつもより少し真面目な顔をしていた。


「よーか、ちいさいから」


それは事実だ。


「でも、かしこいから」


それは過大評価だ。


「だから、あぶない」


……ん?


俺は首をかしげた。


カリンは続けた。


「かしこいこは、あぶないことする」


三歳児の言葉とは思えなかった。


いや、表現は幼い。

でも、妙に本質を突いている。


俺はたぶん、知りたがりだ。

気になると見に行く。

分からないことを放っておけない。


前世でもそうだった。

それが悪い方向に出れば、余計なことを言ったり、考えすぎたり、首を突っ込んだりする。


カリンは、それをもう感じ取っているのかもしれない。


「だから、まもる」


カリンは俺の手を握った。


今度は、痛くない力加減だった。


俺はその手を見た。


小さい手だ。


でも、真っ直ぐだった。


俺は返事をした。


「あう」


頼む。


そう言ったつもりだった。


カリンは満足そうに笑った。


たぶん伝わっていない。


でも、それでよかった。


俺はまだ、この世界のことをほとんど知らない。


神のことも。

魔法のことも。

スキルのことも。

自分の体のことも。

自分がなぜここにいるのかも。


分からないことばかりだ。


けれど一つだけ、分かったことがある。


どうやら俺には、家族だけでなく。


幼馴染もできたらしい。

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