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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第五章 アレクシア学園入学編
67/164

なんか魔法は見せ方も難しいらしい

魔法制御の授業は、石造りの訓練室で行われた。

 

机の上には、水晶板と薄い金属板が置かれている。

 

魔法担当の教師が前に立った。

 

「今日は威力だけを見ません」

 

何人かが顔を上げる。

 

「強く出せることは長所です。小さく保てることも長所です。ただし、最後まで扱えて初めて魔法です」

 

教師は水晶板を指で軽く叩いた。

 

「出す。保つ。弱める。消す。そこまで見ます」

 

⸻

 

最初の生徒は火だった。

 

指先に灯した火が、思ったより大きくなる。

 

近くの子が身を引いた。

 

火を出した本人の顔も固まる。

 

「慌てて消さない」

 

教師の声は低いが、急がせない。

 

「火は出ています。そこはよろしい。次は小さく」

 

炎が揺れながら細くなった。

 

最後は、指先の灯りだけになる。

 

「よろしい。火力があります。それは長所です」

 

火の生徒は、息を吐いた。

 

「ただし、最初の大きさでは周りが下がります。次は場所を見て出しなさい」

 

「はい」

 

次の生徒は水だった。

 

手のひらに作った水が、すぐ床へ落ちる。

 

「あっ」

 

「触らない。集め直しなさい」

 

落ちた水が、ぎこちなく丸まった。

 

床を少し濡らしながら、手の上へ戻る。

 

「落としても戻せた。次は落とさずに保つ」

 

「はい」

 

列の後ろで、マリベルが息を吐いた。

 

「派手じゃないのに難しそう」

 

「派手にする前の授業だから」

 

「なるほどね」

 

リーナは自分の手を見ていた。

 

緊張している。

 

けれど、目は逸らしていなかった。

 

⸻

 

「次、カイル・フォルデラ」

 

金髪の少年が前へ出る。

 

訓練室のざわめきが小さくなった。

 

カイルは教師に一礼し、手のひらを上げる。

 

水が浮いた。

 

小さな玉だった。

 

その周りを、風が回る。

 

水玉は揺れたが、崩れない。

 

包むというより、支えているように見えた。

 

二つを同時に出して、両方を止めている。

 

簡単ではない。

 

カイルが指を動かすと、水玉は水晶板の上へ移った。

 

石の上で一度だけ回り、静かに止まる。

 

風も水も、同じ場所で消えた。

 

「よろしい。水も風も乱れていません」

 

「ありがとうございます」

 

カイルは礼をして列へ戻る。

 

途中で目が合った。

 

軽く頷かれる。

 

俺も頷き返した。

 

それだけなのに、近くの子がちらりとこちらを見る。

 

フォルデラ家の名前は、やはり軽くないらしい。

 

⸻

 

「次、ヨウカ」

 

俺は前へ出た。

 

水晶板の前に立つ。

 

「光を」

 

「はい」

 

手のひらに、白い光を出した。

 

爪の先ほどの光。

 

揺れない。

 

眩しくもない。

 

出せる量は、これではない。

 

石板に手を置いた時、試験官が二人で顔を見合わせたのを覚えている。

 

多い、で済ませていい数ではない、と言われた。

 

それでも、指はいつも同じところで止まる。

 

村で最初に教わったのは、出し方ではなかった。

 

止め方だった。

 

広げれば、誰かが目を細める。

 

強くすれば、誰かが下がる。

 

そう思うと、手が勝手に絞る。

 

教師は少し待った。

 

「ヨウカ、それでは記録しにくい」

 

「はい」

 

「もう少し見せる大きさで」

 

俺は光を広げた。

 

手のひらに乗る玉くらい。

 

白さが水晶板に映る。

 

近くの生徒が目を細めた。

 

指が動く。

 

形は残したまま、明るさだけ落とした。

 

教師の眉が動く。

 

「今の調整は?」

 

「眩しそうだったので」

 

「よろしい。大きさと明るさを分けられています」

 

「はい」

 

光を水晶板の上へ移す。

 

丸い形を保つ。

 

強くしすぎない。

 

薄くしすぎない。

 

消す時は、端から白さを抜いた。

 

水晶板の上に残っていた光が、ゆっくり消える。

 

教師が記録板に書き込む。

 

「制御は良い。もう少し見せる大きさで始めなさい」

 

「はい」

 

それ以上は言われなかった。

 

列へ戻ると、マリベルがこちらを見る。

 

「小さすぎって言われてた」

 

「聞こえてた」

 

「聞こえるよ。前だし」

 

「言わなくていい」

 

リーナが口元を押さえた。

 

エレシアは水晶板の方を向いたまま言う。

 

「消し方は綺麗でした」

 

「ありがとう」

 

「最初は、本当に小さかったです」

 

「……はい」

 

そこは言い返せなかった。

 

⸻

 

リーナの番になった。

 

手のひらに土の粒を作る。

 

粒はすぐ崩れ、粉になって落ちた。

 

リーナの肩が跳ねる。

 

「すみません」

 

「謝らなくていい。もう一度」

 

教師が粉を払う。

 

二回目。

 

土の粒は、短い間だけ形を保った。

 

崩れる前に、リーナが自分で消す。

 

「今の方がいい」

 

教師が頷く。

 

リーナは戻ってきて、胸の前で手を握った。

 

「消せました」

 

「うん」

 

「手が震えました」

 

「でも、止められた」

 

リーナは目を丸くして、それから笑った。

 

授業が進むにつれて、訓練室にはいろいろなものが残った。

 

火の熱。

濡れた石の匂い。

土の粉っぽさ。

風で擦れた紙の音。

 

教師は怒鳴らない。

 

出しすぎた子も、小さすぎた子も、途中で止める。

 

「今の大きさは長所です」

 

「止め方が雑です」

 

「周りを見なさい」

 

「消すまで気を抜かない」

 

強い魔法は褒められた。

 

小さく保つ魔法も褒められた。

 

けれど、止められないものは何度もやり直しになった。

 

⸻

 

授業が終わり、廊下へ出る。

 

石の部屋から出ると、音が広がった。

 

マリベルが伸びをする。

 

「魔法って、思ったより地味に疲れるね」

 

「見てただけでは?」

 

「見てても疲れるものは疲れるよ」

 

その横を、カイルが歩いてきた。

 

何人かが道を空ける。

 

カイルはそれに気づいて、少し困った顔をした。

 

「ヨウカ」

 

名前を呼ばれた。

 

周りの目が動く。

 

「はい」

 

「さっきの光、見やすかった」

 

「最初は小さすぎたけど」

 

「その後」

 

カイルはそこで一度、言葉を置いた。

 

「眩しそうにした子がいた時、明るさだけ落としたでしょう」

 

見られていた。

 

「あれ、教師に言われる前だった」

 

「……そうだったかも」

 

「先に周りを見てる人は、あまりいない」

 

何と返せばいいのか分からなかった。

 

「カイルの水と風も、崩れてなかった」

 

言ってから、少し迷う。

 

呼び捨てでよかったのか分からない。

 

カイルは、そこで笑った。

 

「カイルでいいよ。同じ新入生だし」

 

近くの生徒が目を丸くした。

 

カイルは気にしないふりをしている。

 

「僕も、風を強くしすぎると水が散る。今日はうまくいっただけ」

 

「うまくいっただけ、には見えなかった」

 

「それは、ありがとう」

 

カイルは少し嬉しそうに言った。

 

それから、声を落とす。

 

「フォルデラって呼ばれるより、カイルの方が楽なんだ」

 

名前で呼ばれない人。

 

家で呼ばれる人。

 

少しだけ、分かる気がした。

 

俺は家名を持っていない。

 

持っていない方が、たぶん軽い。

 

「じゃあ、カイル」

 

「うん」

 

短いやり取りだった。

 

それでも、周りには十分だったらしい。

 

廊下の端で、誰かが小さく名前を繰り返した。

 

カイル。

 

ヨウカ。

 

また何かが歩き出しそうな気配がした。

 

マリベルが横から囁く。

 

「噂の種が増えたね」

 

「増やした覚えはない」

 

「種って、落ちる時は勝手に落ちるよ」

 

嫌な言い方だった。

 

けれど、否定できなかった。

 

授業の終わりに、希望札が返された。

 

投擲の横には、前の書き込み。

 

短剣の横には、刃先に迷い。

 

魔法の欄には、新しい文字がある。

 

光――制御良好。出し始めが小さい。

 

出し始めが小さい。

 

そう書かれると、欠点に見える。

 

自分では、そうしないと落ち着かないだけだった。

 

俺は札を畳んだ。

 

強く出せばいいわけではない。

 

小さく出せばいいわけでもない。

 

掌の奥に、消した光の感覚が残っていた。


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