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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第五章 アレクシア学園入学編
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なんか短剣は近すぎるらしい

木の短剣は、手の中に収まる大きさだった。

 

木球より軽い。

 

木剣より短い。

 

それでも、楽そうには見えなかった。

 

短剣の希望者は、投擲より少ない。

 

訓練場の端で、近接武器の教師が一本を持ち上げた。

 

「短剣は、目立たない武器です」

 

教師は柄を返し、刃先を自分の腕の内側へ添える。

 

「隠しやすい。抜きやすい。急所にも届きやすい。不意打ちや暗殺に使われることもあります」

 

何人かが息を呑んだ。

 

「だからこそ、学ぶ意味があります。武器に引っ張られないためです」

 

相手役の上級生が木剣を構える。

 

教師は半歩ずれ、剣の外へ入った。

 

次の瞬間、短剣は上級生の腕の内側にある。

 

大きく振っていない。

 

強く叩いてもいない。

 

けれど、木剣は止まっていた。

 

「振り回すものではありません。近づいて、必要な場所へ入れる武器です」

 

教師は短剣を下ろす。

 

「今日は打ち合いではありません。決めた場所へ入り、当てて、離れる。まずはそこから」

 

⸻

 

短剣が配られた。

 

俺は柄を握る。

 

薬草を刻む刃物でも、布を切る小刀でもない。

 

これは、人に向ける形をしている。

 

教師が示した場所を思い出す。

 

腕の内側。

 

そこに何があるか、俺は知っていた。

 

皮膚は薄い。

 

その下に血の管が通っている。

 

腱もある。

 

切れれば、指が動かなくなる。

 

深く入れば、止まらない。

 

治療院で見た。

 

本で読んだ。

 

どう縫うかも、どこを押さえるかも、順番まで浮かぶ。

 

浮かんでしまう。

 

知らなければ、ただの木の棒だった。

 

知っているから、手が重い。

 

⸻

 

最初は人形を使った。

 

腕の内側に、赤い布が巻かれている。

 

そこへ当てて、離れる。

 

一人目は届かない。

 

二人目は勢い余って、人形の肩にぶつかった。

 

三人目は腕だけが伸びる。

 

教師が止めた。

 

「手だけで行かない。体ごと入って、体ごと戻る」

 

俺の番になる。

 

赤い布を見る。

 

布だ。

 

藁の上に巻かれた、ただの布。

 

そう思おうとして、失敗した。

 

布の下が見えている。

 

そこを切れば、この腕は上がらなくなる。

 

一生。

 

刃先は、布の手前で止まった。

 

「ヨウカ」

 

教師が言う。

 

「刃先が迷っています」

 

「はい」

 

分かっている。

 

分かっているのに、腕が言うことを聞かない。

 

もう一度。

 

今度は赤い布に当たった。

 

乾いた音がする。

 

木の音だ。

 

それでも、当たった瞬間に肩が縮んだ。

 

下がる足が遅れる。

 

「当てた後に残らない。相手も動きます」

 

「はい」

 

⸻

 

次は相手役が付いた。

 

小柄な上級生だったが、俺より背が高い。

 

木剣がゆっくり振られる。

 

決まった動きだ。

 

それでも、腕が目の前に来ると、短剣を入れる場所がはっきり見えた。

 

見えすぎる。

 

どこへ入れれば、この人の腕が止まるか。

 

どこへ入れれば、この人が二度と剣を持てなくなるか。

 

両方、同時に見える。

 

「見すぎです。動いてください」

 

教師の声で、体が動いた。

 

外へずれる。

 

腕の内へ入る。

 

当てる。

 

軽すぎた。

 

最後に、力を抜いていた。

 

「それでは止まりません」

 

「はい」

 

二回目。

 

こつん、と音が出る。

 

相手役の腕が止まった。

 

すぐ離れる。

 

教師が頷く。

 

「今のでいい。強く打つ必要はありません。弱すぎても止まりません」

 

俺は柄を握り直した。

 

今のでいい、と言われた。

 

それでも、当てた場所の記憶が指に残る。

 

投擲では、こうならなかった。

 

木球は手から離れる。

 

離れてから、当たる。

 

短剣は、当たる瞬間まで手の中にある。

 

近い。

 

近すぎる。

 

⸻

 

リーナの番になった。

 

短剣を胸の前で握り、相手役が動く前から肩が上がっている。

 

木剣が動いた瞬間、リーナは大きく下がった。

 

赤い布には届かない。

 

「下がる判断は間違いではありません」

 

教師が言う。

 

「ですが、下がるだけでは止められません」

 

二回目も届かなかった。

 

リーナは唇を結ぶ。

 

俺は横に立った。

 

「リーナ」

 

「はい」

 

「全部逃げなくてもいいと思う」

 

前足だけを引く。

 

手は残す。

 

それなら、刃先は相手役の腕に届く。

 

リーナは真似をした。

 

動きは硬い。

 

けれど、今度は短剣が前に残っている。

 

教師がこちらを見る。

 

「ヨウカは自分の練習へ」

 

「はい」

 

リーナは短く頭を下げ、相手役へ向き直った。

 

三回目。

 

小さな音がした。

 

短剣が、相手役の腕に当たる。

 

「届いた……」

 

リーナの声がこぼれた。

 

教師が頷く。

 

「次は当てた後に離れるところまで」

 

⸻

 

最後に、希望者だけがもう一度呼ばれた。

 

俺は短剣を構える。

 

相手役が動く。

 

外へずれる。

 

腕の内へ入る。

 

当てる。

 

離れる。

 

形にはなった。

 

投擲の時のような手応えはない。

 

教師が記録板に書き込む。

 

「ヨウカ。動きは見えています。力加減も悪くありません」

 

「はい」

 

「刃を向ける前に止まる癖があります。続けるなら、そこからです」

 

「はい」

 

返事はした。

 

その癖を、直したいのかどうかは分からなかった。

 

授業が終わり、短剣を返した。

 

指が固い。

 

木でできていても、刃物を持った後の疲れ方をしていた。

 

リーナが隣に来る。

 

「さっき、ありがとうございました」

 

「届いたのはリーナだから」

 

「でも、逃げすぎているのが分かりました」

 

「逃げられるのも大事だと思う」

 

リーナが目を丸くする。

 

「そうなんですか」

 

「危ない時に逃げられるなら、それは強いと思う」

 

リーナは考えてから、頷いた。

 

「じゃあ、逃げすぎないようにします」

 

「うん」

 

レオスが木剣の組から戻ってきた。

 

「短剣どうだった?」

 

「嫌だった」

 

「そんなに?」

 

すぐには答えられなかった。

 

木だから音で済む。

 

そう思おうとして、思えなかった。

 

音の代わりに、何が起きるかを知っている。

 

「木だから、音で済んだ」

 

レオスは、台に戻された短剣を見る。

 

「……それは、嫌だな」

 

笑わなかった。

 

それが、少しありがたかった。

 

寮へ戻る前、希望札が返された。

 

投擲の横には、前と同じ書き込みがある。

 

適性あり。

 

短剣の横には、新しい文字。

 

刃先に迷い。

 

短い言葉だった。

 

的確すぎて、少し腹が立った。

 

俺は札を畳む。

 

木でできていても、短剣は短剣だった。

 

指に残った感触は、木の軽さではなかった。


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