なんか止まることも試験らしい
翌朝、受験者だけが訓練場へ案内された。
昨日の魔法実技場とは違い、外の空気が近い。
土の広場の横に、屋根付きの訓練場がある。
白線の引かれた地面の端には、木剣、木槍、短い木の刃が並んでいた。
係の教師が前に立つ。
「身体能力と武器の基礎確認を行います。速さ、力、反応、姿勢、合図への対応を見ます。無理をして怪我をしないように」
受験者たちの顔が引き締まった。
剣の方へ目を向ける子。
足首を回す子。
肩をほぐす子。
俺は手を開いて、閉じた。
ここでは、体そのものをごまかせない。
最初は短い走りだった。
合図で走り、白線の手前で止まる。
前の少年は速かった。
土を蹴る音が軽い。
白線の手前で滑りかけたが、教師はすぐ板に印をつけた。
「速さは良い。次は止まり方も整えなさい」
少年は息を弾ませながら頷いた。
次の子は、線の手前できれいに止まった。
速さはさっきの少年ほどではない。
教師は別の欄に印をつける。
俺の番が来た。
「二十七番」
「はい」
線の前に立つ。
土の匂いが近い。
「始め」
走る。
腕を振りすぎない。
足だけ先に行かせない。
白線が近づく。
止まった。
線まで、まだ距離がある。
安全に寄せすぎた。
「もう一度。今度は線に寄せて」
「はい」
二回目は深く入る。
靴の先で土が崩れた。
線は越えていない。
「速さは平均。二回目の修正は悪くありません」
「はい」
胸に残る言い方だった。
次は方向転換。
合図に合わせて左右へ動く。
一回目は遅れた。
声を聞いてから、体が考えていた。
二回目は、重心を真ん中に置いて待つ。
「右」
足を出す。
体が流れかける。
踏ん張る。
「力で曲がろうとすると崩れます。今の直し方は悪くありません」
「はい」
低い柵を越える動きでは、さらに差が出た。
軽々と越える子がいる。
着地の音まで小さい。
「跳躍、着地とも良い」
教師の筆が動く。
俺の番では、足が重かった。
柵は越えた。
着地で膝が沈む。
前の子とは音が違う。
「跳躍は弱め。着地で沈みます。無理に高さを出さないように」
「はい」
身体確認が終わる頃には、喉が渇いていた。
次は武器の基礎確認だった。
「最初は木剣です。経験の有無は問いません。構え、距離、合図への反応を見ます」
木剣を受け取る。
本物ではない。
それでも、手に持つと重さがはっきり分かる。
「構え」
周りに合わせて木剣を上げる。
教師が近づき、俺の手の位置を下げた。
「肩に力が入りすぎです」
「はい」
「体の真ん中を残してください。剣だけ前に行くと崩れます」
「はい」
正面には、藁を巻いた人形が置かれている。
前の少年は木剣を強く振った。
乾いた音が響く。
「力はあります。次は振った後の姿勢を残しなさい」
少年は嬉しそうに頷いた。
俺の番になる。
人形との距離を測る。
一歩入る。
木剣が届く前に、教師の声が飛んだ。
「止め」
足は止まった。
木剣の先だけが前に残る。
「そこです」
教師が近づく。
「体は止まりました。剣が残っています」
「はい」
「先だけ残さない。もう一度」
次は、声が聞こえた瞬間に手首まで引いた。
ぎこちない。
それでも、さっきより収まった。
「よろしい」
木剣の確認はそこで終わった。
次に、短い木の刃を渡された。
剣より軽い。
短い分、相手との距離が近くなる。
手に取っただけで、腕の置き場に迷った。
「短い武器も確認します。こちらの動きに合わせて、避けるか下がるかを選んでください」
教師が革を巻いた棒を持つ。
打ち合いではない。
ゆっくり動く棒に対して、位置を選ぶだけだ。
棒が前に来る。
見える。
右へ動こうとした瞬間、角度が変わった。
近い。
大きく下がる。
「下がりすぎです」
「はい」
「安全にはなりました。ただ、次に動けません」
もう一度。
今度は半歩。
棒の外に残る。
足は止まったが、肩が上がっていた。
「肩」
「はい」
三回目で、ようやく体が残った。
うまくできたというより、崩れきらなかっただけだ。
教師は板に印をつける。
「短い刃は触ったことがありますね。ただ、戦う動きではありません」
「はい」
「相手を見ようとはしています。距離には慣れていない」
「はい」
「慣れていない距離で平気な顔をする必要はありません。固まらずに選べればいい」
その言葉で、手の力が抜けた。
木の刃を返すと、手のひらに汗が残っていた。
確認が終わり、壁際へ戻る。
槍で間合いを作った受験者には、教師が足運びをもう一度やらせていた。
剣を強く振れる子は、姿勢の修正を受けている。
跳べる子は、着地まで確認されていた。
それぞれ違うところに印がついていく。
係の教師が全体へ声をかけた。
「身体確認と武器確認は以上です。この後、番号順に面接を行います。呼ばれるまで控室で待機してください」
面接。
まだ終わらない。
昨日は魔法。
今日は体と武器。
次は言葉。
控室へ戻る途中、右手がまだ固かった。
止まることも試験らしい。
木剣の先を引いた感触が、指に残っていた。




