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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第五章 アレクシア学園入学編
61/163

なんか答えることも試験らしい

控室に戻ると、受験者たちの声は減っていた。

 

身体確認を終えたあとだからか、座ったまま膝を押さえている子がいる。

 

木剣を強く振っていた少年は、腕を回していた。

 

柵を軽々と越えていた子も、今は水を飲んでいる。

 

俺は席に着き、番号札を机に置いた。

 

右手には、まだ木剣の感触が残っている。

 

係の女性が入ってきた。

 

「これから面接を行います。呼ばれた番号の方は、札を持って隣の部屋へ入ってください」

 

面接。

 

紙の問題や実技とは違う緊張があった。

 

前の番号が呼ばれた。

 

戻ってきた子は、首を傾げたまま席に座った。

 

何を聞かれたのかは分からない。

 

俺は水を一口飲んだ。

 

「二十七番、ヨウカさん」

 

「はい」

 

札を持って立つ。

 

扉の前で息を吸った。

 

⸻

 

中は広くない部屋だった。

 

窓際に机があり、三人の大人が座っている。

 

昨日の魔法実技にいた灰色髪の女性。

書類を持った年配の男性。

書記役らしい女性。

 

正面には椅子が一つ。

 

灰色髪の女性が言った。

 

「座ってください」

 

「はい」

 

椅子に座る。

 

足は床に届く。

 

年配の男性が書類を確かめた。

 

「ヨウカさん。十歳。フィル村出身。推薦はフィル村村長。補足書類はルーベル薬師工房のミラ殿から。間違いありませんか」

 

「はい」

 

「保護者はアンナ殿とヨシュア殿」

 

「はい」

 

男性は顔を上げた。

 

「この学園で学びたいことを話してください」

 

俺は膝の上で手を握りかけて、やめた。

 

「治療と薬草、それから魔法を学びたいです」

 

「理由は」

 

「村やルーベルで、怪我や体調不良を見ることがありました。何かしたくても、知識がなければ、動かしてはいけない人を動かしたり、使ってはいけない薬を使ったりするかもしれません」

 

灰牙鼠。

治療院。

怪我人の顔。

 

頭の中に浮かぶものはある。

 

全部は出さない。

 

「助ける前に、判断を間違えないようになりたいです」

 

書記役の女性の筆が動いた。

 

年配の男性が次の紙を見た。

 

「筆記では、生活知識と初期対応はよく書けています。王国史と礼法は弱い」

 

「はい」

 

はっきり言われた。

 

「礼法を学ぶ必要はあると思いますか」

 

「あります」

 

「理由は」

 

「礼を欠けば、相手に話を聞いてもらえないことがあります。治療でも相談でも、先に警戒されると進みません」

 

「礼法は面倒ですか」

 

「慣れていないので、難しいです」

 

「慣れる努力はできますか」

 

「はい」

 

年配の男性の表情は変わらなかった。

 

灰色髪の女性が、別の紙を前に出した。

 

「魔法実技について確認します。魔力量は十歳としてかなり多い。光は安定。闇は反応のみ」

 

「はい」

 

「昨日、光をさらに強く出さなかった理由は」

 

「形が崩れそうだったからです。明るさより、眩しさが先に出ると思いました」

 

「強く見せたいとは思いませんでしたか」

 

「思いました」

 

三人の筆が止まる。

 

「強く出して崩すより、保てるところで止めた方がいいと判断しました」

 

灰色髪の女性は、間を置いて紙に書いた。

 

「闇を広げなかった理由は」

 

「まだ安定しないからです。人の近くで使うには早いと思いました」

 

「学園で伸ばすつもりはありますか」

 

「あります」

 

「どのように」

 

「まず、自分の手元で止められるようにします。広げるのはその後です」

 

灰色髪の女性は筆を置いた。

 

昨日、実技場の隅で揺れた気配については聞かれなかった。

 

それだけが、紙の上に残されたままのようだった。

 

年配の男性が、身体確認の紙を見る。

 

「今日の身体能力と武器確認について。速さと跳躍は高くありません。合図への反応と二回目の修正は記録されています」

 

「はい」

 

「自分ではどう見ていますか」

 

「速さと跳ぶ動きは弱いです。止まることと、言われた後に直すことはできました」

 

「武器については」

 

「木剣は、体より先に剣が残りました。短い刃は、距離が近くて動きが固くなりました」

 

灰色髪の女性が言う。

 

「昨日の魔法と比べると?」

 

「魔法の方が扱いやすいです。体と武器は、思った通りに動きませんでした」

 

「不満はありますか」

 

「あります」

 

「では、どうしますか」

 

「今の体に合わせて練習します。できると思い込んで動くより、できなかったところを直したいです」

 

年配の男性が、次の書類へ目を移した。

 

「薬師工房と治療院での手伝いについて記録があります。内容を説明してください」

 

「薬草の整理、布の準備、水運び、案内です」

 

「治療行為は」

 

「していません」

 

「どこからが治療行為だと考えますか」

 

「薬を使うこと、患部に触って動かすこと、症状を判断して処置を決めることです」

 

書記役の女性が筆を走らせる。

 

「あなたは、それをしていない」

 

「はい。指示された準備と補助だけです」

 

「なぜ、その線を引くのですか」

 

「見たことがあるだけで、自分で判断できると思うのは危ないからです」

 

灰色髪の女性が聞いた。

 

「判断したくなる場面はありますか」

 

「あります」

 

「その場合は」

 

「今は、できる人に伝えます」

 

「急ぐ場面でも?」

 

「呼吸や周りの危険は確認します。けれど、患部を動かすかどうかは、勝手に決めません」

 

灰色髪の女性は紙に書いた。

 

年配の男性が最後の質問に移る。

 

「学園に入った場合、あなたが困ると思うことを一つ挙げてください」

 

「情報が多いことです」

 

「どういう意味ですか」

 

「人の声や規則が、一度にたくさん来ます。全部追うと、動けなくなると思います」

 

「対処は」

 

俺は息を吸った。

 

「必要なものから見ます。全部は追いません」

 

灰色髪の女性が書類を閉じた。

 

「面接は以上です」

 

膝の上の手が、まだ固かった。

 

「退室してください」

 

「ありがとうございました」

 

立ち上がり、一礼する。

 

廊下へ出ると、空気が冷たかった。

 

魔法を出した時とも、木剣を握った時とも違う疲れがある。

 

口にしなかった言葉の方が、しばらく重かった。

 

⸻

 

午後の追加確認は、思っていたより事務的だった。

 

別室に呼ばれ、番号札を渡す。

 

係の人が書類と顔を見比べる。

 

「二十七番、ヨウカさん。フィル村出身。保護者、アンナ殿、ヨシュア殿」

 

「はい」

 

「入学後は寮生活になります。例外申請は出ていませんね」

 

隣に座っていたヨシュアが答えた。

 

「ああ」

 

アンナも頷く。

 

「王都に預け先はありません」

 

係の人は紙に線を引いた。

 

「では、寮規則の説明は合格後に行います」

 

合格後。

 

その言葉だけ、耳に残った。

 

まだ受かっていない。

 

それでも、受かった後の紙はもう用意されている。

 

次に聞かれたのは、持ち物だった。

 

刃物。

薬品。

魔道具。

 

許可なく持ち込めないものが、いくつもある。

 

薬草袋のところで、係の人の筆が止まった。

 

「薬草類の持ち込み予定あり。種類は?」

 

アンナが紙を出した。

 

「乾燥させたヒナギ草と、虫除け用に匂いを移した布です。治療用の薬ではありません」

 

「ルーベル薬師工房の補足書類と一致。入寮時に確認」

 

それで終わった。

 

取り上げられたわけではない。

 

許可されたわけでもない。

 

確認、と書かれた。

 

この学園では、人も物も、まず紙の上に置かれる。

 

⸻

 

結果は翌朝、掲示場で発表されるという。

 

一日置かれる方が嫌だった。

 

宿の部屋に戻ると、アンナが俺の顔を見た。

 

「疲れた?」

 

「疲れた」

 

ヨシュアは窓際に立っていた。

 

「何を聞かれた」

 

「寮のこと。持ち物。薬草袋」

 

「そうか」

 

「面接より、変に疲れた」

 

「手続きはそういうものだ」

 

ヨシュアらしい返事だった。

 

記録板を出しかけて、やめた。

 

今書くと、面接と書類の言葉を全部並べたくなる。

 

代わりに、薬草袋の留め具を確かめる。

 

硬い。

 

指に力を入れないと開かない。

 

今はそれくらいでよかった。

 

夕食の味は、あまり覚えていない。

 

肉が入っていた。

 

温かかった。

 

アンナが何か話して、ヨシュアが短く返した。

 

俺も返事はした。

 

頭の隅には、ずっと掲示場があった。

 

⸻

 

次の朝、学園の掲示場には人が集まっていた。

 

昨日までの試験場とは違う熱がある。

 

泣いている子がいる。

笑っている子がいる。

紙を睨んでいる大人もいる。

 

俺はアンナとヨシュアの間で、掲示板へ近づいた。

 

番号が並んでいる。

 

名前もある。

 

二十七番。

 

ヨウカ。

 

合格。

 

一度では、うまく入ってこなかった。

 

もう一度、上から追う。

 

二十七番。

 

ヨウカ。

 

合格。

 

息が抜けた。

 

膝から力も抜けかけて、アンナの手が背中に触れる。

 

「おめでとう、ヨウカ」

 

「……うん」

 

ヨシュアが俺の頭に手を置いた。

 

強くはない。

 

重い手だった。

 

「よくやった」

 

その一言で、胸の奥が詰まった。

 

掲示板の横には、別の紙が貼られていた。

 

合格者への案内。

 

入学手続き。

寮規則。

補習確認。

魔法実技の個別確認。

 

下の方に、俺の番号があった。

 

王国史・礼法、補習確認。

身体基礎、要観察。

魔法実技、個別確認。

薬草類持ち込み、入寮時確認。

 

合格していた。

 

その横で、次の予定がもう並んでいる。

 

アンナも案内紙を読んだ。

 

ヨシュアも黙って目を通す。

 

「多いわね」

 

アンナが言った。

 

「多い」

 

ヨシュアは案内紙から目を離さない。

 

「受かったから終わりじゃない」

 

「うん」

 

「ここからだ」

 

分かっていた。

 

紙で見ると、重さが違う。

 

合格の文字は大きい。

 

確認事項は細かい。

 

細かい方が、現実に近かった。

 

⸻

 

係の人が合格者を集め始める。

 

「合格者は、こちらで入学手続きの説明を受けてください。保護者の方も同席してください」

 

俺たちは列に入った。

 

昨日まで受験者だった子たちが、今は合格者として並んでいる。

 

顔つきが明るい子もいる。

 

もう次の説明に集中している子もいる。

 

俺は番号札を握ったまま、手続き用の紙を受け取った。

 

「ヨウカさんですね。寮入居、薬草類確認あり。魔法実技の個別確認対象です」

 

「はい」

 

「入寮日に持ち物確認を受けてください。薬草袋は封をした状態で提出。確認後、許可された範囲で返却されます」

 

「はい」

 

「補習確認の日程は、入学後に通知します」

 

「はい」

 

返事をするたびに、合格した実感が別の形になっていく。

 

嬉しさではなく、予定。

 

安心ではなく、手続き。

 

説明が終わる頃には、昼に近くなっていた。

 

宿に戻る道で、アンナが言った。

 

「疲れた?」

 

「うん」

 

「嬉しい?」

 

「うん」

 

「不安?」

 

「うん」

 

アンナは笑った。

 

「全部あるのね」

 

「ある」

 

ヨシュアが前を歩きながら言う。

 

「全部あっていい。歩け」

 

「うん」

 

合格通知は鞄に入れず、手に持ったまま歩いた。

 

紙は薄い。

 

軽い。

 

それなのに、指が離れない。

 

宿に戻ると、記録板を出した。

 

一行だけ書く。

 

合格した。

 

そこで手が止まる。

 

嬉しい。

怖い。

忙しい。

 

どれも合っている。

 

どれか一つでは足りない。

 

記録板を伏せた。

 

手の中の紙は、まだ温かかった。


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