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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第二章 フィル村幼年期編
27/162

なんか外へ出るには約束がいるらしい

カリンが一緒に行けるかどうか。それを、セリアさんとレナードさんに聞きに行く日だった。

カリンの家で、セリアさんはお茶を用意してくれていた。レナードさんは作業場から戻ってきたところだ。腕に木くずがついている。カリンはすぐ布を取った。

「父さん、木くず」

「おう。よく見てるな」

カリンは、俺だけを見ているわけではない。父親の腕の木くずも見ている。家の中でも、誰かが困る前に気づこうとしている。それはカリンの良いところだ。でも、危ういところでもある。

セリアさんがカリンを見た。

「カリンも行きたいって?」

「行きたい」

「どうして?」

「ヨウカを守る」

予想通りだった。本当に、予想通りだった。

セリアさんは目を細めた。怒ってはいない。でも、簡単には頷かない顔だ。

「それだけ?」

カリンが止まった。カリンの中では、それで十分だったのだ。俺が行く。外は危ない。だから守る。分かりやすい。でも、大人にはそれだけでは足りないらしい。

レナードさんが腕を組んだ。

「カリン。お前がヨウカちゃんを大事に思ってるのは知ってる。だがな、ルーベルへ行くなら、お前も守られる側だ。盾を背負っていようが、六歳だ」

ルーベル。初めて、隣町の名前をちゃんと聞いた。俺の中では、ずっと「隣町」だった。名前がつくと、近くなった。本物にもなった。

「盾を持つなら、まず自分の足を止めることを覚えろ。守ろうとして飛び出すな。飛び出したら、お前も危ない。お前が危なければ、大人はお前も助けに行く」

「でも、ヨウカが」

「ヨウカちゃんも同じだ。珍しいものを見つけても飛び出さない。そういう約束をしてるんだろ?」

「はい」

「なら、カリンも同じだ」

カリンは目を伏せた。納得していない。でも、考えている。

⸻

「じゃあ、試すか。口で言っても分かりにくいからな」

レナードさんは薄い板を一枚、床に置いた。

「これは段差だ。ヨウカちゃんは、向こうの棚を見る。見すぎて、足元を見ない」

「……はい」

心当たりがある。

俺は棚を見るふりをして、ゆっくり歩いた。足元には板。気づかないふりをして、一歩出す。

その瞬間、カリンが動いた。速い。俺の腕をつかんで、ぐいと引いた。俺の体が傾く。カリンも一歩前に出た。

「止め」

カリンが固まる。

「今のが町なら、カリンも危ない。守る時は、まず自分の足を置く場所を見る。引っ張るんじゃない。支えるんだ。ヨウカちゃんを倒さない。自分も倒れない」

「もう一回」

カリンが自分から言った。

もう一度、俺は歩いた。段差に近づく。カリンが動く。でも今度は、前に飛び出さなかった。一歩横に立って、自分の足を止め、俺の肩にそっと手を添える。

「ヨウカ、足元」

俺は止まった。板を見る。

「今の方がいい」

カリンの表情が変わった。守ることは、前に飛び出すことだけではない。相手を止めること。自分も止まること。倒さず、倒れず、隣に立つこと。

「カリン、すごい」

「ヨウカは、足元も見る」

褒めたのに、すぐ返された。でも、嬉しそうだった。

⸻

試しはもう一つあった。盾だ。

カリンが構えると、六歳の子どもの空気が変わった。小さいけれど、真剣だ。盾の後ろに立つカリンは、かっこいい。じっと見ていると、

「見すぎ」

「今のは見る」

「だめ」

レナードさんが言った。

「町でそれをいきなり構えたら、どう見える?」

「守る」

「そう見る人もいる。だが、相手によっては、喧嘩を売っているようにも見える」

「守るのに?」

「守るために、構えない方がいい時もある。村なら、みんなカリンを知っている。でもルーベルでは違う。知らない人間から見れば、盾を持った子どもが急に前へ出た、になる。まず大人を見る。それから動く」

「でも、すぐ危ない時は?」

レナードさんは黙った。ごまかさなかった。

「その時は動け。ただし、相手を倒すことより、ヨウカちゃんを下げることを先に考えろ。前に出て勝とうとするな。まず離す。逃がす。大人に渡す」

渡す。また、その言葉だ。マルタさんの火傷の時、俺は布を渡した。見えたものをすぐ言わないのも、渡す相手を選ぶことだった。今度は、カリンが俺を大人へ渡す話をしている。俺たちは、ずつ同じことを習っている。自分で全部抱えないこと。

「勝たない」

「いつも勝つ必要はない。守るために、勝たない時もある」

カリンは、その言葉を何度か考えているようだった。守るために、勝たない。逃げる。下がる。渡す。前世で知っていた勝負とは違う。でも、こっちの方がずっと難しい。

⸻

お茶が冷める頃、セリアさんがカリンの前に座った。

「カリン。ルーベルへ行くことを、許します。ただし、条件がある。ヨウカちゃんを守るためだけに行かないこと。カリンも町を見るの。学ぶの。そして、無事に帰ってくるの」

「盾は持っていっていい」とレナードさん。「ただし、振り回すな。構える前に大人を見る。道具は使い方を間違えると、守るものも守れなくなる」

セリアさんがカリンの手を取った。

「カリン。あんたは強い子だよ。でも、強い子でも、迷子になる。怖くなる。間違える。だから、困ったら困ったと言いなさい。ヨウカちゃんを守りたいなら、まず自分が帰ってきなさい」

カリンは長く黙った。誰も急かさなかった。

「……帰る。ヨウカも、帰る。みんなで」

「そう。みんなで帰る」

「行きたい。守るだけじゃなくて、見る」

「それなら、行っておいで」

⸻

翌日、ヨシュアは村の中で外出練習をさせた。

「知っている場所でできないことを、知らない場所ではできない」

俺とカリンは、布包みを村長の家へ届ける。アンナとヨシュアは後ろにつく。手を引かれずに歩く。でも、完全に自由ではない。大人は後ろにいる。その距離が、今日の練習だった。

村の道は、いつもの道だ。でも、ルーベルのつもりで歩くと、いつもの村が知らない場所に見えた。家の前の木札。干してある草。道端の籠。普段なら気にしないものが、目に入る。俺は一つずつ見そうになって、目を戻した。

「ヨウカ、目が忙しい」

「気をつける」

「私も。足が前に出そうになる」

俺は見るのを止める練習。カリンは飛び出すのを止める練習。同じ道を歩いていても、習っているものは違った。

⸻

村長の家へ向かう途中、道の端に青い花の束が落ちていた。細い草に、小さな青い花。見たことがある気もする。でも、薬草棚にはなかった。染料か。薬草か。だけ、頭の奥がそちらへ伸びる。鑑定を使えば、分かる。

だからこそ、止まる。俺は足を止めた。

カリンがすぐ俺を見て、一瞬、腕を引こうとした。でも、指が動く前に止まった。自分の足元を見て、後ろを向く。

「アンナ」

声に出した。

アンナが近づき、花の束を見た。

「染め草ね。誰かが落としたのかしら。私が預かって、持ち主を探すわ」

俺は頷いた。

「触らなかった」

「ええ。ちゃんと言えたわ」

カリンが小さく言った。

「引っ張らなかった」

ヨシュアが頷く。

「よく止まった」

俺は青い花をもう一度見た。きれいだった。気になる。でも、もう追いかけなかった。

⸻

帰り道、マルタさんに会った。籠から焼けたパンの匂いがする。強い。足がそちらへ向きそうになる。俺は気づいて、止めた。

「練習中かい?じゃあ、これは邪魔になるねえ」

籠が持ち上がる。匂いが強くなる。

「ヨウカ」カリンが見る。「本当?」

「本当」

俺はアンナを見た。

「もらっていいものですか?」

「昨日の布のお礼だよ」とマルタさん。

「一つだけなら」とアンナ。

俺は丸パンを受け取った。温かい。その場で食べたい。かなり。でも、道の途中だ。

「家に戻ってから食べます」

カリンが満足そうに頷いた。

「聞けた。すぐ食べなかった。えらい」

褒められた。変な感じがした。でも、悪くない。匂いはまだする。でも、足はもう動かなかった。勝つという言い方は違うかもしれない。だけ、止まれた。

⸻

家に戻ると、丸パンは半分に分けられた。道で食べず、聞いてからもらい、家まで持って帰った。たったそれだけで、一つ山を越えた気分だった。

「今日の練習は、合格ね」

「日取りは、明後日の朝で考えている」とヨシュア。「体調が悪ければ延期する。行きたいからといって、無理はするな」

明後日。急に、ルーベルが近くなる。

⸻

夕方、俺は荷物を見た。水筒。布。木札。薬草の小袋。それから、布人形。カリンが昔作ってくれた人形だ。

持っていきたい。でも、それはルーベルを見るための荷物なのか。不安をごまかすための荷物なのか。

外へ行くなら、強くならないといけない。でも、強いというのは、何も持たないことなのだろうか。昨日カリンは、守るだけではなく見る、と言った。今日俺は、見たいものを全部追いかけない練習をした。なら、布人形を持つことも、逃げではなく準備になるのかもしれない。不安になった時、勝手に動かないためのもの。帰る場所を思い出すためのもの。

「持っていく?」

声がして振り向くと、カリンが入り口に立っていた。

「……変?」

「変じゃない」

すぐに答えた。迷わなかった。

「夜だけ出す。町では、出さない。出したくなったら、アンナに聞く」

「よし」

なぜカリンが確認する側なのだろう。でも、悪くない。俺は布人形を袋の奥にそっと入れ、口を結んだ。荷物が重くなった。でも、嫌な重さではなかった。

⸻

夜。寝床で、今日のことを思い出した。

布包みを開けなかった。青い染め草を拾わなかった。村長の帳面を覗かなかった。マルタさんの丸パンを、聞いてからもらった。道で食べず、家まで持って帰った。カリンは、俺を引っ張らなかった。青い花を見つけた時、大人を呼べた。

全部、小さい。大事件ではない。でも、外へ出る前に、村の中で少しできた。

外へ出る前に、一度、自分を見ておきたかった。明日、無理をしないための確認だ。俺は胸の奥で念じた。

鑑定。

表示が、静かに浮かんだ。



 ヨウカ

 女 四歳

 レベル:1

 状態:健康


 攻撃:3

 防御:4

 敏捷:6

 器用:11

 幸運:39

 魔力:39

 MP:25


【ノーマルスキル】

 観察 LV2

 薬草知識 LV1

 魔力操作 LV1


【レアスキル】

 鑑定 LV1

 精霊魔法 LV1


【エクストラスキル】

 医学 LV-

 叡智 LV-

 ?? LV-


【加護】

 光と知恵の神の加護

 ???の加護



レベルは、一のままだった。それを見て、ほっとした。

俺はまだ、魔物を倒していない。黒い根の正体を突き止めてもいない。誰かを大きく救ってもいない。村で学んで、手伝って、待つ練習をして、止まる練習をした。それでレベルが上がらないのは、正しい。

でも、変わっているところもあった。器用が増えた。観察が二になった。薬草知識と、魔力操作の文字が増えた。

戦って強くなったのではない。木札を見分けて、布を落とさず運んで、細く魔力を流して、疲れる前にやめた。その分だけ、増えていた。

ステータスに出ないものも、増えた。待つこと。止まること。渡すこと。それは数字にもスキル名にもならない。でも、確かに増えている。

俺は表示を消した。

ルーベルは、村ではない。知らない人がいる。知らない店がある。知らない目がある。俺は見たい。でも、勝手に見に行かない。知りたい。でも、勝手に触らない。怖い。でも、行きたい。

「明後日、ルーベル?」

「体調がよければね」

俺は布団の中で頷いた。ルーベル。ミラの薬師工房。知らない店。知らない人。きっと、村よりずっと多くのものがある。見たいものも、聞きたいことも、たくさんある。

だからこそ、止まる練習がいる。外へ出るというのは、ただ道を歩くことではないらしい。

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