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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第二章 フィル村幼年期編
25/163

なんか小さな盾を直すらしい

カリンの盾に、ひびが入った。正確には、革紐の根元が裂けていた。昨日の練習で壊れたわけではない。毎日少しずつ使って、傷んでいたのだと思う。

ヨシュアは盾を裏返した。

「そろそろ直した方がいいな」

「まだ使える」

カリンの顔が曇る。

「使えるうちに直すんだ。壊れてから直すと、間に合わないことがある」

カリンは盾を抱えたまま黙った。できるようになってきた時ほど、止まるのは嫌だ。俺も魔導石をもっと光らせたかったし、影の線も、もう少し使いたかった。

「道具も休ませろ。お前と同じだ」

「盾も?」

「盾もだ」

カリンは盾を見下ろした。

「……ごめん」

盾に謝った。俺は笑いそうになって、堪えた。

「謝るなら、直してもらえ」

カリンは俺を見た。

「ヨウカも来る?」

⸻

カリンの家は、木と油と、煮込み料理の匂いがした。アンナの家の薬草と布の匂いとは違う。

奥の作業場に、カリンの父親がいた。レナードさん。背は高くないが、腕が太い。木を削る人の腕だ。机には、小刀、木槌、革紐、金具が並んでいる。

カリンが盾を差し出した。

「直して」

レナードさんは盾を裏返した。

「また傷が増えたな」

カリンが身構える。だが、レナードさんは怒らなかった。傷の位置を指でなぞる。

「悪い傷じゃない。ちゃんと受けた跡だ。でも、ここは駄目だ」

革紐の根元を示した。

「握りが強すぎる。盾だけで受けようとして、ここに力が集まっている」

「盾、嫌だった?」

カリンが真顔で聞いた。レナードさんは目を瞬かせ、低く笑った。

「嫌だったかは知らんが、苦しかっただろうな」

カリンは盾に手を置いた。

「ごめん」

また謝った。

「盾は、お前の代わりに傷を受ける。でも、傷んだまま使えば、お前を守れなくなる。道具を大事にするのは、自分を大事にするのと同じだ」

その言葉に、カリンは黙った。俺も黙った。アンナやヨシュアが言っていたことと、似ている。使うなら、直す。壊れる前に見る。全部同じなのかもしれない。

⸻

レナードさんは古い紐を外し、新しい革紐を取り出した。

「これは少し柔らかい。今のカリンにはこっちの方がいい。硬い紐は、握る方を痛める。カリンの手はまだ小さい」

カリンは自分の手を見た。俺より大きい。でも、まだ子どもの手だ。いつも俺を支え、止め、盾を握る手。でも、その手も痛む。当たり前なのに、俺は忘れそうになる。

セリアさんがカリンの手を取った。

「あなたの手も大事よ。ご飯を食べる手。服を着る手。ヨウカちゃんと手をつなぐ手。全部大事」

カリンは黙った。俺も黙った。カリンはいつも俺の手を握ってくれる。だから、俺のためにあるように感じてしまう時がある。それは違う。カリンの手だ。カリンのためにもある。

⸻

修理が終わると、カリンはすぐ持とうとした。

「待て。まだ油を馴染ませる。今日は使わない方がいい」

「今日も?」

「今日だけだ。明日の朝には使える」

レナードさんは盾を持ち上げた。新しい革紐がついている。傷は残っている。でも、しっかりして見えた。

「傷は消さない。お前が練習した跡だ。消す必要はない。ただ、壊れるところは直す。残す傷と、直す傷を分ける」

その言葉に、俺は息を止めた。残す傷。直す傷。薬草畑でアンナが言っていたことに似ている。全部をなかったことにするわけではない。でも、放っておいてはいけないところは直す。

「傷、あっていい?」

カリンが聞いた。

「あっていい。雑に扱った傷なら叱るが、これは違う。練習した証だ」

カリンの表情が緩んだ。本当に少しだけ。でも、かなり嬉しい顔だ。

「明日、使う」

「ああ。ただし、最初は軽くな」

カリンは大事そうに盾を受け取った。握らない。抱えるだけ。今日は、カリンが盾を守っている。

⸻

帰り道、カリンは直った盾を抱えて歩いた。使えないのに、嬉しそうだった。

「傷、残ってるね」

「練習した跡。でも、壊れるところは直す」

カリンは盾を見て、俺を見た。

「ヨウカも?傷、残っていい。でも、壊れるところ、直す」

俺は黙った。カリンは深く考えて言ったわけではないだろう。でも、刺さった。

俺の中にもいろいろある。前世の記憶。嫌だったこと。怖かったこと。森の水の痛み。消えないものはある。でも、全部を無理になかったことにしなくていいのかもしれない。ただ、壊れるところは直す。放っておくと危ないところは、大人に見せる。

「そうかも」

カリンは満足そうに頷いた。今日一番大事なことを、カリンに言われた気がした。

⸻

夜、寝床で布人形を抱えていた。

カリンには家がある。帰る場所がある。ご飯を食べろと言う人がいる。盾を直してくれる人がいる。あなたも大事、と言ってくれる人がいる。

当たり前のことかもしれない。でも、俺はそれをちゃんと見ていなかった気がする。カリンはいつも俺のそばにいる。だから、俺のためにいるように感じてしまう時があった。

それは違う。カリンはカリンだ。カリンの家があって、カリンの手があって、カリンの盾がある。

小さな盾は、今日は使われなかった。でも、直された。明日のために。カリンも、今日は休んだ。俺も眠る。

守る子も、ちゃんと守られている。それを忘れてはいけない。

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