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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第二章 フィル村幼年期編
23/162

なんか影の線は消すまでが大事らしい

森側にはまだ行けない。小川の近くも駄目。だから子どもたちは、村の中心の空き地で遊ぶことになっていた。

布を丸めたボール。丸太を二つ置いて門にする。間を通せば一点。それだけの遊びなのに、今日だけで何度目の揉め事だろう。

「入った!」

「入ってない!」

地面の線が、もう消えかけている。みんなが走り、転がったボールを追いかけたせいだ。これでは揉める。

「線、引き直す?」

「すぐ消えるじゃん」

トマが言う。それはそうだ。石を並べれば痛い。棒で削れば足を引っかける。見えて、触っても危なくなくて、終わったら消せる線。

俺はアンナを見た。

「ちょっとだけ、魔法で線を引いていい?」

「どんな線?」

「地面に薄い影。触っても何もないやつ。門のところだけ」

アンナはすぐには答えなかった。俺を見て、地面を見て、子どもたちを見る。

「小さく。空き地の中だけ。疲れる前に消すこと」

カリンが俺の横に来た。

「広げすぎない。消せる?」

「消す」

「疲れる前」

「疲れる前」

俺は丸太の間に立った。光ではない。闇でもない。地面に薄い影を置く。木陰の端のような、細くて淡い影。押し潰すのではなく、そっと乗せる。

地面に、細い線が伸びた。門の内側を示す、ほんの暗い線。

「おお!」

リリがしゃがんで指を置く。

「触れる?」

「触ってもいいよ。何もないから」

影はただの影だ。冷たくも、痛くもない。でも、見える。

「これなら分かる!」

その瞬間、影の端がにじんだ。線が外側へ広がる。

「あ」

「ヨウカ」アンナの声が飛んだ。

「分かってる」

俺は息を整える。広げない。薄く、細く。意識を引くと、影は元の細さに戻った。

カリンが俺を見て、表情を緩める。

「できた」

「うん。できた」

派手ではない。敵を倒したわけでもない。遊びの線を引いただけ。でも、ちゃんと役に立っている。

⸻

影の線があると、遊びは止まりにくくなった。通ったかどうか、みんなで見れば分かる。言い合いはまだあるが、前より短い。

トマは線ぎりぎりを狙い始めた。

「見てろよ、端っこ通す!」

「強くしすぎない」カリンが言う。

トマは三歩で転がした。ボールは線をかすめて門を通る。誰も文句を言わなかった。線があるからだ。

次はカリンの番だった。守る役は双子の一人。門の真ん中に立っている。

カリンがちらりと俺を見た。

「聞いて」

「どこが空いてる?」

「右、石。左」

カリンは三歩で左へ転がした。ボールは影の線の内側を通り、丸太の間を抜けた。

リリが拍手する。カリンは一瞬だけ目を伏せた。

「守るだけじゃない」

小さな声だった。でも、前より自然に聞こえた。

⸻

しばらくして、リリの転がしたボールが空き地の端へ向かった。門を外れ、草の方へ進む。その先には、森側へ続く道がある。まだ距離はある。でも、森側に近い。

リリが追いかけようとした。

「取ってくる!」

カリンが動いた。

「止まって」

強い声ではない。でも、はっきりしていた。リリの足が止まる。

「まだ森側じゃないだろ」とトマ。

「でも、近い」

カリンはボールを見て、周りを見た。大人の位置。森側の柵。俺の位置。小さい子たちの位置。

「大人、呼ぶ」

「ボールくらい取れるって」

「くらいで、行かない」

俺は草の方を見た。ボールが落ちているだけだ。黒い泥があるわけでもない。でも、森側の土に視線が引っ張られそうになる。何かないか。見ておいた方が――胸の奥が冷える。

今はいらない。

俺はボールから目を外し、カリンの横顔を見た。

「閉じられた?」

カリンが聞かずに、俺がそう思えた。

アンナが歩いてきて、足元を確認してからボールを拾う。

「変なものはなさそうね。でも、判断は良かったわ」

ボール一つのために危ない方へ行かない。それを遊びの中で覚えられるなら、十分だ。

⸻

夕方、遊びが終わる頃、影の線の端がぼやけ始めていた。維持するのに、思ったより意識を使う。疲れた、というほどではない。でも、続ければ疲れる。

「線、消す」

「えー、まだ遊べるだろ」

「疲れる前に終わり」

「もう一回引けばいいじゃん」

「今日は終わり」

カリンが横から言った。

「明日もやるなら、今日は終わり」

続けるために、やめる。俺は地面の影を、布を外すように薄めた。影はゆっくり消え、ただの地面に戻る。

トマは残念そうだったが、文句は言わなかった。

「じゃあ、明日な」

「明日」

⸻

夜、アンナが俺の手を取って、指先を軽く包んだ。

「小さい器に、無理やり水を流せば、器の方が割れるの。ちゃんと使って、ちゃんと止めて、ちゃんと休む。それでずつ育つわ」

横からヨシュアの声がした。

「鍛えるのと壊すのは違う」

俺はヨシュアを見た。短い。でも、よく分かる。

ボール遊びも同じだ。続けたいなら、怪我をしないようにする。魔法も同じ。強くなりたいなら、壊さないように使う。

アンナが俺の頭を撫でた。

「今日は、終われたのが一番よかったわ」

影の線を作れたことではなく、消せたこと。終われたこと。それを褒められた。

部屋に、布をかけるような闇が降りる。怖い闇ではない。休むための闇。今日、地面に引いた影も、これに似ていた。怖がらせるためではなく、分かりやすくするための影。

俺は布人形を抱き直し、目を閉じた。

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