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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第一章 フィル村幼児期編
12/48

なんか考えすぎるらしい

村に出た翌日、俺はよく寝た。


本当によく寝た。


外に出て、村の人に会って、抱かれて、見られて、声をかけられただけ。


それだけなのに、体はかなり疲れていた。


赤ん坊の体力がないのは分かっている。


だが、疲れ方が少し変だった。


体だけではない。


頭も疲れている。


村人の表情。

声の調子。

目が合った瞬間の変化。

アンナの警戒。

ヨシュアの視線。

カリンの立ち位置。


そういう細かいものが、やたら残っている。


普通なら流してしまうようなことが、頭の中に引っかかり続ける。


「……あう」


俺は寝床の中で、小さく声を出した。


考えすぎだ。


一歳児が考える量ではない。


いや、中身は元大学生なので、考えること自体はおかしくない。


ただ、それにしても妙に止まらない。


頭の奥で、情報が勝手に並んでいく。


村人は優しかった。

でも、俺を見る時の目が少し柔らかすぎる人がいた。

ただの赤ん坊への好意かもしれない。

銀髪が珍しいだけかもしれない。

アンナとヨシュアの拾い子だから気になっているだけかもしれない。


でも、それだけか?


そんな疑問が消えない。


俺は自分の小さな手を見た。


この手はまだ何もできない。


だが、俺の中には何かある。


鑑定。

観察。

医学。

光魔法。

闇魔法。

生活魔法。

そして、叡智。


問題は、その《叡智》だった。



自分を鑑定する。


最近は、少しだけ慣れてきた。


【ヨウカ】

状態:健康


〈ノーマルスキル〉

観察 LV2

魔法操作 LV1

生活魔法 LV1


〈レアスキル〉

鑑定 LV1

精霊魔法 LV1

光魔法 LV1

闇魔法 LV1


〈エクストラスキル〉

医学 LV1

叡智 LV-

?? LV-


〈加護〉

光と知恵の神の加護

???の加護


やはりある。


叡智。


レベルがない。


医学にはLV1がある。

観察にも鑑定にもレベルがある。


だが、叡智にはレベルがない。


つまり、これは普通のスキルとは少し違う。


たぶん、神由来。


そう考えるのが自然だ。


光と知恵の神の加護。


知恵。


叡智。


ここはつながっている気がする。


ただし、叡智をじっと見ようとすると、頭の奥が少し熱くなる。


前に伏せ字を見ようとした時ほどではない。


でも、踏み込みすぎるとまずい感じがある。


無理に見ない。


分からないものを、分からないまま置いておく。


これは最近覚えた大事な正論である。


だから、俺は叡智の正体を無理に見ようとはしなかった。


代わりに、今起きていることを整理する。


鑑定は、情報を表示する。


観察は、違和感に気づく。


叡智は、たぶん、それらをつなげて考えさせる。


答えを出してくれるわけではない。


「これはこうです」と教えてくれるわけでもない。


ただ、普通なら流すような違和感を、流させてくれない。


便利。


かなり便利。


でも、少ししんどい。


考えなくていいことまで、考えてしまう。


前世でも、俺はわりと考えすぎるところがあった。


面接で質問されると、頭の中で「その質問今する? 何を見たいん?」みたいな余計なことを考えていた。


口も回った。


知ったことを言いたくなる悪癖もあった。


それが、叡智で強化されているとしたら。


かなり面倒である。


強化されるべきところと、されると困るところがある。


神様、そこまで考えていたのだろうか。


いや、たぶん考えてはいた。


でも、完全には制御できていない気がする。


何しろ加護が二つある。


しかも片方は伏せ字だ。


嫌な予感しかしない。



昼前、アンナが寝床を覗き込んだ。


「ヨウカ、起きてる?」


「あう」


起きています。


かなり考えていました。


もちろん伝わらない。


アンナは俺の顔をじっと見た。


「……また難しい顔してる」


難しい顔。


していたらしい。


赤ん坊の顔で難しい顔とは何なのか。


アンナは俺を抱き上げた。


「あなた、本当に赤ちゃん?」


「あう」


赤ちゃんです。


一応。


中身は元二十二歳男性ですが。


アンナは自分で言っておいて、小さく笑った。


「そんなわけないわよね」


そんなわけある。


だが、言えない。


俺はアンナの服を握った。


アンナは俺の手を見て、少しだけ表情を柔らかくした。


「昨日の村、疲れた?」


「あう」


疲れました。


「人が多かったものね」


分かってくれている。


ありがたい。


アンナは椅子に座り、俺を膝の上に乗せた。


「ヨウカは、よく見てるわ」


そう言われて、俺は少し固まった。


「人の顔も、手元も、歩き方も、声も。赤ちゃんにしては、見すぎなくらい」


アンナは俺の目を覗き込んだ。


「でも、見えすぎるのもしんどいのよ」


それは、かなり刺さった。


アンナは俺の中のスキルを知っているわけではない。


叡智も観察も鑑定も、たぶん知らない。


それでも、この人は感覚で分かっている。


俺が見すぎていることを。


「気づくことは大事。でも、全部を背負わなくていいの」


アンナは静かに言った。


「エミ婆の腰を見てたでしょう」


覚えていたのか。


俺は目を逸らした。


「あう……」


「責めてないわ。気づいたのは偉い。でも、ヨウカが一人で何とかしなきゃいけないわけじゃない」


一人で何とかしなくていい。


それもまた、俺が覚えるべき言葉だった。


前世の俺は、どうだっただろう。


一人で何とかしようとしていたのか。

それとも、何とかできないことを見ないふりしていたのか。


たぶん、どちらもあった。


アンナは続けた。


「気づいたら、大人を呼ぶ。それでいいの」


大人を呼ぶ。


困ったら泣く。


魔力が変なら泣く。


エミ婆の腰が気になったら、アンナの服を握る。


一歳児としては正しい。


そして、たぶん今の俺にも必要なやり方だ。


俺はアンナの服をもう一度握った。


「あう」


アンナは笑った。


「うん。そういうこと」


本当に会話できているのではないか。



午後、カリンが来た。


相変わらず黒髪がつやつやしている。


幼いのに、雰囲気が妙に落ち着いている。


クール系という言葉が似合う子どもはなかなか珍しい。


ただし俺を見ると、少し表情が柔らかくなる。


「よーか」


「あう」


カリンは俺の隣に座った。


手には小さな花を持っている。


白い花。


前にも似たようなものをもらった気がする。


「これ、あげる」


俺は花を見た。


【シロミナ花】

白い小花。乾燥させると軽い鎮静効果を持つ。使用量に注意。


やはり薬草系。


俺は花を見てから、カリンを見た。


カリンは少し首をかしげる。


「よーか、すき?」


「あう」


好き。


というか、ありがたい。


薬草を見ると、医学スキルが反応する。


これも訓練になる気がする。


ただし、薬草は薬であり、薬は使い方を間違えれば毒にもなる。


俺は花を受け取りながら、そんなことを考えた。


カリンがじっと俺を見ている。


「また、かんがえてる」


ばれた。


俺は目を逸らした。


「あー」


「よーか、いっぱい、かんがえる」


カリンは短く言った。


「でも、つかれる」


その通りである。


三歳児にしては観察力が高すぎる。


いや、カリンは三歳からこんな感じだった。


俺が考えすぎていることに、かなり早く気づく。


カリンは俺の手を握った。


「つかれたら、やめる」


正論。


「ねる」


正論。


「アンナにいう」


正論。


「わたしにも、いう」


言えない。


赤ん坊だから。


俺がそんな顔をしたのか、カリンは言い直した。


「なく」


またそれである。


困ったら泣く。


怖かったら泣く。


疲れたら泣く。


泣くという行為の評価が、俺の中で少しずつ変わっている。


前世では、泣くことは弱さのように感じていたかもしれない。


でも今は違う。


泣けば、アンナが来る。

ヨシュアが見る。

カリンがそばにいる。


泣くことは、助けを呼ぶ手段だ。


それは弱さではなく、必要な行動なのかもしれない。


俺はカリンの手を握り返した。


「あう」


カリンは満足そうに頷いた。


「よし」


今日も出た。



夕方、ヨシュアが帰ってきた。


森側の見回りに行っていたらしい。


泥が少しついている。


アンナが布を渡す。


「どうだった?」


「牙猪の群れは離れてる。ただ、森の奥で魔物が少し動いてるな」


魔物が動いている。


俺はその言葉に反応した。


耳が勝手にそちらへ向く。


ヨシュアが俺を見た。


「ヨウカ」


低い声。


「今は聞かなくていい話だ」


そう言われた。


俺は少し固まった。


聞かなくていい話。


つまり、俺が聞くと考えすぎると見抜かれている。


ヨシュアは俺のそばに来て、しゃがんだ。


「お前はまだ小さい。村のことも、森のことも、全部考えなくていい」


「あう……」


「気になるのは分かる。でも、今のお前の仕事は食って寝て育つことだ」


それはかなり正論だった。


赤ん坊の仕事。


食って寝て育つ。


確かにそうだ。


俺はスキル持ちで、加護持ちで、転生者で、妙に考えてしまう。


でも、体は一歳児だ。


ここを忘れてはいけない。


ヨシュアは続けた。


「強くなるのは後でいい。賢くなるのも後でいい。今は、生きろ」


短い言葉だった。


だが、重かった。


鉄壁の要塞。


その異名を持つ人が言う「生きろ」は、かなり重い。


たぶんヨシュアは、守れなかった命も見てきたのだと思う。


だからこそ、赤ん坊の俺にまで、まず生きろと言う。


俺は小さく声を出した。


「あう」


ヨシュアは頷いた。


「よし」


カリンと同じ「よし」だった。


この家、俺を「よし」で管理しすぎではないか。



夜、俺はまた自分を鑑定した。


変化はない。


叡智 LV-。


その文字を見る。


答えは出ない。


でも、少し分かった気がする。


叡智は、俺を賢者にしてくれる力ではない。


たぶん、そんな都合のいいものではない。


分からないことを、分からないままにしない力。

違和感を見逃さない力。

情報をつなげて考える力。


それは便利だ。


だが、便利なだけではない。


考えすぎれば疲れる。

見えすぎればしんどい。

気づいたものを、全部自分で背負おうとすれば壊れる。


医学もそうだ。

観察もそうだ。

鑑定もそうだ。


知る力には、知った後の責任がある。


でも、その責任は一人で背負うものではない。


アンナに言う。

ヨシュアに言う。

カリンに泣く。


今の俺にできることは、それくらいでいい。


いや、それくらいが大事なのだ。


俺は目を閉じた。


部屋の中は静かだった。


アンナが薬草を整理する音。

ヨシュアが道具を片づける音。

カリンが眠そうに小さくあくびをする声。


この音を聞きながら眠れることが、今は一番大事なのかもしれない。


世界のことは、まだ分からない。


加護のことも、伏せ字のことも、俺の周りで起きる妙な好意のことも、まだ分からない。


でも、疑うことはできる。


考えることはできる。


そして、疲れたら寝ることもできる。


どうやら俺は、かなり考えすぎるらしい。


そして、その考えすぎを止めてくれる人たちに、今は囲まれているらしい。

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