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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第七章 アレクシア学園二年生編
104/105

なんかまだ届かないらしい

「久しぶりに、やらない?」

 

カイルが、そう言ってきた。

 

訓練場で、俺が一人で投げているところだった。

 

「模擬戦、ですか」

 

「うん。研修で、動きが変わったって聞いたから」

 

「誰からですか」

 

「レオス」

 

レオスらしい。

 

喋るな、とは言っていないので、仕方ない。

 

「別に、変わっていません」

 

「どうかな。やれば、分かる」

 

カイルは、いつもの笑みだった。

 

断る理由も、なかった。

 

「先に、少しだけ、いいですか」

 

「うん?」

 

「水を、飲んできます」

 

「じゃあ、待ってる」

 

 

訓練場の裏で、水を飲んだ。

 

そのついでに、周りに人がいないのを確かめて、鑑定を使った。

 

鑑定を持っていることは、あまり、見せたくない。

 

精霊魔法の時も、目立って、面倒だった。

 

だから、一人の時だけ、こっそり見る。

 

――――――――――

 

ヨウカ 女 十二歳

 

レベル:3

 

攻撃 27

防御 25

敏捷 45

器用 56

幸運 44

魔力 101

MP 85

 

――――――――――

 

レベルが、3になっていた。

 

研修の、あの時、通知が来た。

 

だが、数字で見るのは、初めてだった。

 

去年の順位戦は、レベル2だった。

 

攻撃24、防御22、敏捷38、器用48、魔力86、MP72。

 

それが、上がっている。

 

敏捷、器用、魔力。

 

動きと、手先と、魔力が、伸びていた。

 

攻撃と防御は、ほとんど変わらない。

 

俺らしい、上がり方だった。

 

正面から殴る方ではなく、見て、動いて、細かく使う方。

 

そこが、伸びている。

 

ただ、これが、討伐で上がったものだと思うと、手放しには喜べなかった。

 

数字は、勝手には増えない。

 

鑑定を、閉じた。

 

今は、確かめられれば、それでいい。

 

 

戻ると、カイルが待っていた。

 

「いい?」

 

「はい」

 

「先に一本で」

 

「分かりました」

 

訓練場の隅を、借りた。

 

カイルが、短杖を構える。

 

水と、風。

 

去年、四年生に勝った魔法だ。

 

場を作るのが、うまい。

 

正面から、俺が勝てる相手ではない。

 

それは、分かっている。

 

「いくよ」

 

「はい」

 

 

先に動いたのは、カイルだった。

 

水が、足元に走る。

 

薄く。

 

風が、その上を撫でる。

 

場を、濡らして、滑らせる。

 

動ける場所を、削ってくる。

 

だが、今年は、見えた。

 

どこが滑るか。

 

どこなら、立てるか。

 

去年より、体が速い。

 

濡れていない場所へ、跳んだ。

 

そこから、石を投げる。

 

カイルの、足元へ。

 

カイルが、水で受けた。

 

石が、逸れる。

 

だが、一瞬、カイルの意識が、下へ落ちた。

 

その隙に、距離を詰めた。

 

短剣の、間合い。

 

「お」

 

カイルが、驚いた声を出した。

 

だが、崩れない。

 

風が、横から来た。

 

体が、押される。

 

短剣が、届かない。

 

「速くなったね」

 

カイルが、笑った。

 

「でも、まだ届かない」

 

風が、また来る。

 

場を、握られている。

 

 

下がった。

 

正面からは、届かない。

 

だが、試したいものがあった。

 

光を、集める。

 

手のひらで、小さく。

 

熱くなる。

 

これを、放てば。

 

だが、集めている間、足が止まった。

 

光に、意識が要る。

 

その隙を、カイルが逃さない。

 

「隙、大きい」

 

水が、足元を走る。

 

風が、押す。

 

体勢が、崩れた。

 

集めていた光が、散った。

 

まだ、無理だった。

 

的を相手に、止まって撃つのとは、違う。

 

動きながらでは、体が、追いつかない。

 

「今の、何?」

 

カイルが、聞いた。

 

「試している、ところです」

 

「攻撃?」

 

「まだ、失敗です」

 

カイルが、笑った。

 

「正直だね」

 

「事実なので」

 

 

結局、届かなかった。

 

カイルの場を、崩せない。

 

光は、隙を突かれる。

 

最後は、風で足を払われて、短剣を落とした。

 

「そこまで、かな」

 

カイルが、短杖を下ろした。

 

「負けました」

 

「うん。でも、去年より、やりにくかった」

 

「そうですか」

 

「速いし、投げ方も変わった。何より」

 

カイルが、こちらを見た。

 

「隙を見て、ちゃんと踏み込んでくる。前は、もっと、迷ってた」

 

研修のことだ、と思った。

 

だが、カイルは、それ以上、説明しなかった。

 

ただ、少し、嬉しそうだった。

 

「いい研修だったんだね」

 

「疲れましたけど」

 

「疲れる研修が、いい研修だよ」

 

それは、そうかもしれない。

 

 

訓練場の隅で、休んだ。

 

「カイルは、研修どうでした?」

 

「普通だよ。疲れた」

 

「普通ですか」

 

「うちの領地の近くでさ。挨拶回りが増えて、面倒だった」

 

カイルは、肩をすくめた。

 

公爵家の子は、研修でも、そういうことがあるらしい。

 

「大変ですね」

 

「慣れてる」

 

そう言って、水を飲んだ。

 

それ以上は、言わなかった。

 

俺も、聞かなかった。

 

家のことは、あいつの話したいときに、話せばいい。

 

 

別れ際、カイルが言った。

 

「また、やろう。次は、もっと手こずらせて」

 

「勝てませんよ」

 

「今はね」

 

そう言って、手を上げて、去っていった。

 

その背中は、いつも通り、軽そうだった。

 

負けたのに、なぜか、悪くない気分だった。

 

去年より、やりにくかった。

 

そう言われたのが、たぶん、嬉しかった。


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