なんか討伐だけじゃないらしい
カリンと会ったのは、渡り廊下だった。
向こうから、歩いてくる。
四年生になって、また少し、雰囲気が変わった。
背が伸びた。
盾を背負う姿も、様になっている。
「ヨウカ」
「カリン」
名前を呼び合うのは、もう、自然になっていた。
「研修、終わったんだって?」
「はい」
「どうだった?」
「疲れました」
カリンが、笑った。
「私も、そう思った。二年の時」
四年生は、もう研修を終えている。
「討伐、あった?」
「ありました。ゴブリンの巣を」
「そっか」
カリンの声が、少し、静かになった。
「私の時も、討伐、あった」
それ以上は、言わなかった。
たぶん、同じことを、思い出している。
初めて、生きているものを殺した時のことを。
言葉にしなくても、分かった。
「大丈夫だった?」
カリンが、聞いた。
「震えました」
「うん。私も」
それだけで、通じた。
⸻
少し、二人で歩いた。
渡り廊下の窓から、中庭が見える。
一年生が、何人か、走っていた。
「カリンは、四年生ですね」
「うん」
「あと、二年で、卒業ですか」
「そうなる」
カリンが、窓の外を見た。
「早いね」
「早いです」
フィル村で、一緒に遊んでいた。
それが、もう、ずっと前のことのようだった。
「卒業したら、どうするんですか」
聞いてから、少し、気が早いかと思った。
まだ、二年ある。
だが、カリンは、すぐに答えた。
「冒険者に、なろうと思ってる」
「冒険者」
「うん。盾と剣で、人を守る仕事。私に、向いてる気がして」
それは、意外ではなかった。
カリンは、守る人だ。
順位戦でも、守ってから、前に出た。
聖騎士、という言葉が、また頭に浮かんだ。
だが、口には出さなかった。
「向いていると思います」
「そう?」
「はい。カリンは、守る人なので」
カリンが、少し、照れた顔をした。
「ヨウカに言われると、なんか、本当っぽい」
⸻
「ヨウカは?」
カリンが、聞いた。
「私ですか」
「うん。卒業したら」
考えたことが、なかったわけではない。
だが、はっきりとは、決めていなかった。
「まだ、分かりません」
「冒険者は?」
「私は、討伐が、あまり得意ではないので」
「でも、討伐だけじゃないよ」
カリンが、言った。
「え?」
「冒険者の依頼。討伐だけじゃない。お使いとか、荷物運びとか、薬草採りとか。人を捜したり、猫を捜したり」
「猫、ですか」
「うん。迷子の猫を捜す依頼も、あるって」
それは、少し、意外だった。
冒険者と聞いて、魔物と戦うことばかり、思っていた。
だが、そうではないらしい。
「討伐が苦手でも、できる依頼は、たくさんある」
カリンが言った。
「ヨウカは、薬草も分かるし、怪我の手当てもできる。人のことも、よく見てる。そういう依頼なら、向いてると思う」
言われて、少し、考えた。
薬草採り。
人助け。
迷子の、猫捜し。
どれも、戦うわけではない。
でも、俺に、できそうなことだった。
研修でも、薬草採りは、俺の役だった。
水路の掃除も、段取りを立てた。
戦うだけが、冒険者ではない。
そう思うと、少し、道が見えた気がした。
⸻
「登録だけなら、在学中でも、できるらしい」
カリンが言った。
「え、そうなんですか」
「うん。軽い依頼を、休みの日に受けたりして、慣れておく人もいる」
「カリンも?」
「まだ。でも、五年になったら、やってみようと思ってる」
四年生は、もう、そういうことを考えているのか。
「ヨウカも、やってみたら?」
「私が、ですか」
「うん。薬草採りとか、簡単な依頼から。慣れておけば、卒業してから、楽だと思う」
少し、迷った。
だが、悪い話では、なかった。
「考えてみます」
「一緒にやる?」
カリンが、言った。
軽い調子だった。
だが、その一言に、少し、胸が動いた。
一緒に。
カリンと。
「カリンと、ですか」
「うん。私が前で、ヨウカが後ろ。組めば、できることが増える」
前と、後ろ。
盾と剣の、カリン。
見て、支える、俺。
確かに、組めば、噛み合う気がした。
「向いているかもしれません」
「でしょ?」
カリンが、嬉しそうにした。
「じゃあ、いつか、一緒に」
「はい。いつか」
その約束は、まだ、ぼんやりしていた。
卒業も、冒険者登録も、まだ先だ。
でも、少し、楽しみになった。
⸻
別れ際、カリンが言った。
「また、話そう」
「はい」
帰省の時と、同じ言葉だった。
でも、あの時より、軽かった。
無理に、時間を作らなくても、こうして、廊下で会える。
それで、十分だった。
「順位戦、今年も出るんでしょ?」
カリンが、聞いた。
「出ます」
「私も。今年は、もっと上に行く」
「二十一位より?」
「もっと上」
去年と、同じことを言った。
だが、その顔は、去年より、自信があった。
「カリンなら、行けます」
「ヨウカも、去年より、上に行きなよ」
「行きます」
そう答えると、カリンが、頷いた。
そして、盾を背負い直して、歩いていった。
その背中は、フィル村にいた頃より、ずっと大きく見えた。
でも、頷き方は、昔のままだった。




