なんかやり方は見えたらしい
研修から戻って、しばらく経った。
日常は、元に戻っていた。
授業。
訓練。
食事。
睡眠。
その繰り返し。
ただ、訓練の中身を、少し変えた。
きっかけは、ソリスの風だった。
あれは、攻撃ではなかった。
押す。
浮かす。
逸らす。
物を動かす風だった。
それでも、戦いの役に立っていた。
使い方次第で、魔法は形を変える。
なら、光と闇も。
目を切るだけでは、ないのかもしれない。
⸻
訓練場の隅で、的に向かった。
まず、光を出す。
いつものように、手のひらで丸く保つ。
的の横で、弾く。
的は、光らない。
ただ、弾けるだけ。
これが、いつもの使い方だ。
相手の目を、一瞬切る。
それで、十分だった。
でも、今日は、別のことをしてみる。
弾くのではなく、集める。
手のひらの上で、光を、小さくする。
広げるのではなく、狭くする。
アンナの、火のように。
広げると、散る。
狭くすると、全部乗る。
火と光は、違う。
分かっている。
でも、試す価値は、ある気がした。
光を、一点に集める。
小さく。
もっと、小さく。
手のひらの上で、光が、点になった。
熱い。
今までは、弾けるだけで、熱くなかった。
集めると、熱を持つ。
「……熱っ」
声が出た。
指先が、熱い。
慌てて、消した。
指が、赤くなっている。
自分の光で、自分が焼けかけた。
だが、分かった。
光は、集めると、熱くなる。
弾いて目を切るだけではない。
集めれば、何かが、できるのかもしれない。
⸻
もう一度、試した。
光を集める。
点にする。
熱を、持たせる。
今度は、的に向けた。
的の、板。
そこへ、熱を、放つ。
光が、飛んだ。
的に、当たる。
薄く、焦げ跡がついた。
穴は、開かない。
焦げただけ。
アンナの火とは、まるで違う。
あれは、板を抜いた。
これは、表面が、少し焦げただけ。
弱い。
だが、焦げた。
今までの光は、弾けるだけだった。
的に、跡は残らなかった。
今は、焦げ跡がある。
小さいが、確かに、進んだ。
問題は、続かないことだった。
一発、集めるだけで、指が熱くなる。
二発目を撃つ頃には、手のひらが、痛い。
三発目は、集める前に、熱さで散った。
体が、ついてこない。
光を集めて撃つには、指が、保たない。
やり方は、見えた。
でも、まだ、体が追いつかない。
⸻
闇も、試してみた。
だが、訓練場では、大きく出せない。
人がいる。
闇を広げると、目立つ。
だから、小さく、影を伸ばす。
足元から、細く。
今までは、膜だった。
受けて、落とす。
広げて、視界を遮る。
でも、今日は、伸ばしてみる。
影を、細く、長く。
的の、足元へ。
影が、伸びた。
薄い。
頼りない。
すぐ消える。
でも、伸びた。
今までの膜とは、違う形だった。
これを、もっと濃くできたら。
何か、できそうな気がする。
何が、とは、まだ分からない。
ただ、膜と目くらまし以外に、使い道がありそうだ。
その気配だけ、あった。
だが、影を濃くしようとすると、反動が来る。
指先が、冷える。
長く保つと、足が重くなる。
いつもの、反動だ。
濃くするほど、それが強い。
薄く伸ばすだけなら、まだいい。
だが、濃くして、形を持たせようとすると、体が、保たない。
光と、同じだった。
やれそうなのに、体が追いつかない。
⸻
訓練場を出る頃には、少し疲れていた。
体は、それほど動かしていない。
でも、指が痛い。
足が重い。
魔法の疲れは、走った後とは違う。
内側から、削られる感じだ。
それでも、収穫はあった。
光は、集めると熱を持つ。
闇は、伸ばすと膜以外の形になる。
どちらも、今までとは違う使い方が、ありそうだ。
片鱗は、掴んだ。
あとは、体を、慣らすしかない。
一発撃つたびに、指が焼ける。
一度濃くするたびに、足が止まる。
それを、少しずつ、延ばしていく。
投擲と同じだ。
最初は、二回に一回しか当たらなかった。
続けたから、当たるようになった。
光も、闇も、たぶん、同じだ。
⸻
夜、個室に戻った。
訓練場では、闇を大きく出せない。
でも、ここなら、一人だ。
窓の外に、人はいない。
小さく、闇を出す。
手のひらの上で。
影が、集まる。
それを、少し、濃くしてみる。
集中する。
影が、少しだけ、濃くなった。
指先が、冷える。
反動だ。
すぐ消す。
でも、今日は、昼より、少し長く保てた。
気のせいかもしれない。
でも、続ければ、変わる。
昼、訓練場で掴んだ感覚を、ここで、確かめる。
濃くすると、反動が強い。
でも、濃くしないと、形にならない。
その境目を、少しずつ、探る。
一人の部屋は、それに向いていた。
誰も見ていない。
闇を出しても、驚かれない。
個室になって、よかったことの一つだ。
⸻
記録板を開いた。
訓練。光と闇を、攻撃に使えないか、試した。
光=集めると熱を持つ。的に焦げ跡がついた。穴は開かない。まだ弱い。
闇=伸ばすと膜以外の形になる。濃くすると、何かできそう。
両方、続けると指が焼ける/足が止まる。反動が強い。体が追いつかない。
そこまで書いて、少し考えた。
やり方は、見えた。
でも、まだ、体が保たない。
一発で、指が痛くなる。
一度濃くすると、足が重くなる。
だから、まだ、実戦では使えない。
一発撃って、指が焼けて、次が撃てないなら、意味がない。
それを、延ばす。
続けて、慣らす。
それしか、ない。
記録板に、書き足した。
やり方は見えた。体が追いつけば、使える。
それまでは、続けるだけ。
書いてから、手のひらを見た。
昼、光で焼けた指先が、まだ少し赤い。
自分の力で、自分が焼けた。
少し、笑えた。
まだ、扱いきれていない。
でも、扱えるようになれば。
光を集めて、焼く。
闇を伸ばして、何かをする。
今は、その入り口に、立ったところだ。
記録板を閉じた。
窓の外は、暗い。
明日も、訓練場に行く。
また、指を焼くだろう。
また、足が止まるだろう。
でも、少しずつ、延びる。
投擲が、そうだったように。




