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空のデート

作戦決行の朝が来た。

ワイバーン族のルナへの帰還希望をする者が、続々と気球船に乗ってカメムシ城に向かっている。

俺たちの元にはワイバーン族の族長と側近が3名と山猫族の族長と砂猫が一緒に乗る小型の気球船が到着した。

オババとサルマもクワンリの着替えを持って同乗する。


クワンリは朝から落ち着かない、この期に及んでまだドラゴンは可愛くないとか、変身する時が恥ずかしいとか。

本当に宇宙船は動くのか?

とか、

ノルに危険はないのか?

とか言ってぐずぐずしている。


「大丈夫だ。根拠は無いけど、なんかうまくいきそうな気がするんだ。」


俺がそう言うと。


「そんなことで私が納得すると思っているのか!」


と、怒られてしまった。


ようやく宥めて建物の影で赤竜になってもらう。


ワイバーン族や山猫族、

宿泊所のお世話係や関係者たちが驚嘆の混じった歓声をあげている。


族長達とサルマ達の乗った気球船が浮かび上がる。


俺は、クワンリの腕に飛び移りゴツゴツした皮膚を駆け上がり、耳の後ろに行ってこの美しい赤龍に声をかける。


「クワンリ、せっかくだから、空のデートと洒落こもう!街を1周してから、カメムシ城まで行こうよ!」


「ははは!なかなか良いアイディアではないか、何千年も待ち望んでいたのだったら少しぐらい待たせても文句は言わんだろうな」


「ありがとうノル、少し気分が落ち着いた。」


「爪を立ててもいいから、しっかり掴まっていろ!」


「では行くぞ!」


3度の羽ばたきの後、4度目に大きく羽ばたいた。


振り落とされそうな加速を味わう、俺の長い黒い体毛が一瞬にして後ろに流れる。

薄い雲を突き抜ける。


気がつくと青空と太陽と赤龍と黒い山猫だけの世界になっていた。



寒い!めちゃくちゃ寒い!

クワンリの首の後ろに爪を立てても良いと言うので、がっちり爪を立ててしがみついている。

ベッサンの街が一望できる位高度を上げやがったせいで風は強いし、気温もどんどん下がっている。

手が...いや、肉球がかじかんできた。


「クワンリ...クワンリ...」


寒くて思念が弱まっている

第3の目に力を入れる。


ふんぬらばぁ〜!!!


「クワンリ!!寒い!もうカメムシ城に行こう〜」


「なんだ。まだ4分の1しか飛んでないぞ。もういいのか?私は少し楽しかったのだけど、もう少し飛んでもいいのだぞ。」


肉球がかじかむ、体は震えるし、風が強くてしがみついているから、景色も見えない。

龍の背中って乗ってみると、あまり楽しくない...


「ありがとう〜もう充分だよ!寒くて、死にそうだ〜」


「ははは!そうか背中に誰かを乗せたことがなかったから、私はわからなかったよ!」


クワンリは翼を左右前後に少し動かして角度を変えながら旋回して降りて行く、

街が斜めに見える、

そこでやっと街の景色が見えるようになった。

前世の飛行機の着陸時を思い出す。

あの時は快適だったが...

景色が見えると寒さの気が紛れる。

大きなカメムシ城を挟んで真ん中に丸い湖が見える。

湖を囲むように建物が建てられている。

道路が丸く何重にも走っていて真ん中から放射状に伸びていた。

街の住人が、道路や家の窓から空を見上げている。指を指しているものもいる、拝んでるやつまで現れた。

少し低空になると逃げるやつまでいる。

そりゃそうだ。

俺が背中に乗せてもらってるのは小型の気球船ぐらいの大きさの、美しく立派な赤龍なのだから。


気球船が見えてきた、サルマが手を振っている、満面の笑顔だ。

俺もあっちが良かった...


先行していた船がカメムシ城を取り囲む様に停泊している。


高度が下がって寒さは少しマシになったけど、一度冷えた体は震えっぱなしだ。

降りたらクワンリにブレスでも吹いて貰いたいぐらいだ。


「ノル!降りるぞ!羽ばたくから砂や埃が舞う、目を閉じていろ!」


クワンリはそう言うと、カメムシ城の上空で羽ばたきを始めた。


バサバサと翼が風を切る音と乱気流が俺を包み込む。

砂粒が体にバシバシ当たる。

龍に乗るとかファンタジーで素敵だと思ったが甘かった。

実際はとんでもなく大変だった...


やっと地上に降りた。

目を開けると、周りには平伏した人達が俺たちを取り囲んでいた。


カメムシ城の長い階段に向かって、参道のように1本の道ができていた。

震える足でクワンリから何とか降りて、俺はカメムシ城に歩みを進める。



黒き山猫

赤き龍に乗り、地に舞い降りる

約束の地の道しるべとなり

母なる船を目覚めさせ

母なる船は、降り立つ地を楽園と変えるであろう


誰かが小さな声で繰り返しつぶやいている。


周りが同調してくる。


俺がカメムシ城の階段の下に着く頃には、広場は大合唱になっていた。


仕方ないので覚悟を決めた。


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