起動
ワイバーン族の族長が嫌がる俺を抱き抱えて、階段を登る。
だから、おっさんに抱かれたくないんだって...
よかった。二十段ほどでおろしてくれた。
そして、族長は集まっている群衆に向かって向き直した。
しょうがないので、俺も族長にならって群衆を見る。
広場が人で埋め尽くされている。
こんなにいるの?宇宙船が動かなかったら、袋叩きに合いそうだ。
「皆のものよく聞け!我らの長年の願いが叶う時が来た」
だからできないかもしれないって言ってるじゃん...
「伝説の黒き山猫様と赤龍様は実在した!」
いやいや、ちょっと珍しいだけだから、俺の場合、
クワンリなんて故郷に帰れば、家族も赤龍だし...
「我らはこれより約束の地に旅立つ!」
いやいや、あんたたち月に行ったら空気ないんだぞ!まぁ俺の前世の世界の話だけどね...
「黒き山猫
赤き龍に乗り、地に舞い降りる
約束の地の道しるべとなり
母なる船を目覚めさせ
母なる船は、降り立つ地を楽園と変えるであろう」
やばい。
どうしよう。
なんかみんなすごい期待してる。あんだけできないかもしれないよって言ってあるのに、この騒ぎだ。
どうやれば動くかなんて俺にだってわからない。
足の震えが寒さによる震えからプレッシャーによる震えに変わった。
族長が一際大きな声で群衆に両手を広げて叫ぶ。
「さぁ、乗り込めルナに帰るのだ!!!」
この族長の一言で俺の逃げ道なくなった,,,
希望者が全員乗り込むまで、俺は族長達が乗ってきた気球船で待機だ。
時間はある、
考えろ。
サルマが話しかけてくるが、耳に入らない。
ワイバーン達がこんなに期待しているとは...
あの時、失敗するかもしれないって言って族長は理解していると軽い気持ちで来てしまった。
考えろ。
考えろ。
やばい...思いつかない...
クワンリはまだ赤龍のままだ。
最悪はオババとサルマを乗せて、ここから逃げてもらおう!
そのことをサルマに伝える。
サルマはクワンリの元に走って行った。
見送ったオババが俺にこう告げた。
「ノルよ、船を動かすのは魔力ではない、魂を返すのじゃ」
三つある魂は船と俺か?
一緒になろう
帰ろう
元に戻ろう
そうか...そう言う事か。
でも、それでもどうやって返すんだ...
船に入っただけじゃ、誘導灯とコアの様な物しか光らなかった。
管制室の様な部屋があるのだろうか?
ああああ〜もうわからん!
船に行ってみるしかないって事だな!
皆の逃げる算段はついた、
じゃあ失敗しても、袋叩きは船に残った俺だけで済む。
俺は開き直る事にした。
ワイバーン族長の従者が迎えに来た。
俺を抱きかかえて階段を登る。
クワンリに思念で2人を頼んだぞと伝えた。
処刑の階段の様に思えてしまう...
こんなんじゃダメだ。
ネガティブな考えを振り払う。
宇宙船の入り口に着くと、俺は従者の腕から飛び降りた。
振り向くと不安が勝りそうなので、俺はそのまま真っ直ぐに宇宙船に歩みを進めた。
宇宙船に入ると、族長達が待っていた。
「山猫様、お待たせしてしまいました。どうぞこちらへ」
隔壁の扉を超えると、誘導灯が点いた。
よかった。
とりあえず前回と同じだ。
こっちの船も俺を迎え入れてくれた様だ。
最初の関門を突破できて、俺は胸を撫で下ろす。
族長達は驚きと感嘆を漏らしている。
「誘導灯だけだ、まだ動くとは限らない。」
俺は念を押した。
心拍数が上がる、猫だから冷や汗は出ない。
俺が先頭に立って誘導灯に沿って先に進む。
例の大きなホールに出た。
七色に光り輝く球体の姿がある。
ここも同じだ、
ミラーボールが光っていてくれて良かった。
驚き、言葉を失って口を半開きにしている族長に俺はさっき思いついた質問をしてみた。
「この部屋の他に何か操作するような部屋はあるかい?操縦や管制室の様な...」
族長は消え入る様な思念で伝えて来た。
「いいえ、私たちが確認しているのはこの部屋だけです」
一緒になろう
帰ろう
元に戻ろう
まただ、また聞こえて来た。
これからが、未知の領域。
魂を返す?
第三の目に思念を集める。
船に話しかける。
動け!
起きろ!
反応がない...
じゃあ、これではどうだ!
一緒になろう!
帰ろう!
元に戻ろう!
球体から黒い霧が出た様な気がする。
黒い霧?
変身する時に出るやつだ。
頭の中に山猫族の族長の言葉が蘇った。
山猫様。私たちの耳には、あなたが『テクマクマヤコン』と叫んでいるように聞こえます。しかも、通常では考えられないほどの濃霧と大きさです。その、、『テクマクマヤコン』と唱えてしまうからこそ、失敗しているのではないでしょうか……」
通常より大きくて濃い霧!
それだ!!
変身する大きさと霧の大きさが比例するなら...
だけど、あの呪文か?
あんな呪文で良いのだろうか?
もうしょうがない、ダメで元々だ。
俺は意を決して唱えた。
「テクマクマヤコン!!!」
ブワッと俺の体から黒い霧が溢れ出す。
大きなホールが一瞬にして霧で満たされる。
ワイバーン達が各々何か叫んでいる。
意識が朦朧として来て聞き取れない。
満たされていた霧が球体に渦を巻いて吸い込まれて行く。
俺はえげつない多幸感に包まれている。
宇宙船と溶け合う様な感覚、そしてすぐにこの世とも溶け合う様な世界との一体感を感じる。
ああああ〜気持ち良いぃ〜
やばい溶ける。
ありがとう〜
何に?
自分でツッコミを入れる。
すると自分の無意識の奥から声が聞こえる。
おかえりなさい。
ありがとう。
指示を出して。
宇宙船の意識だ!
俺は確信した。
ルナにコイツらを連れて行ってくれ!
そしてコイツらが生きられる様に君の持てる能力で守ってやってくれ。
生存できる環境でなければ引き返して来てくれ。
床が振動を始めた...
ああ...またブラックアウトだよ。




