■鞘取り■3
加賀が部屋に戻ってきた。
加賀「和美さんの売買方針の件、信用取引の件、一夫さんと同じ売買手法で進めていく件、
全て浅野から了解を得てきました。」
和美はホッとしたと同時に、加賀から聞いた”鞘取り”という聞き慣れない言葉の説明を求めた。
和美「ありがとうございます。一つ聞いていいですか?
さっき言ってた”鞘取り”ってどういうものなんですか?」
加賀「サックリ言うと価格が高い銘柄を売り、価格が安い銘柄を買うことです。」
「同じ銘柄は同じ値段なので、今言ったことを別の銘柄で売買し、価格差が小さくなった場合
や、収斂し切った場合、2つ同時に反対売買して決済します。
この価格差”鞘”が儲けになります。」
和美「仕組みは分かりましたけど、価格が高い方が下がって、価格が安い方が上がるって
どうして分かるんですか?それが分かってれば買うだけor売るだけでいいじゃないですか。」
加賀「それは分かりませんね。だから買うだけor売るだけの”片張り”をせず、売り買い両方の
”両建て”にするんです。」
「ただ、分からない中でも理論上、鞘が縮小or拡大する可能性が高いペアは存在します。」
和美は、加賀が儲けるために何か凄い秘密を知ってるのでは?とワクワクしたがまた疑問が出た。
和美「どうしてみんなやらないんですか?」
加賀「多くの投資家さんは、安く買って高くなったら売る、またはその逆で”早く””簡単に”
儲けたいからです。銘柄2つなら手数料も2倍ですし。」
「損失リスクがあっても売買方針が”儲けたい”のが最重要な方と一夫さんは、同じ株の売買
をしていてもこの点で話が合わないと思います。」
和美「ふ~ん、、、”早く””簡単に”儲けようとすると損失リスクが高くなるんですね。」
「”理論上、鞘が縮小or拡大する可能性が高いペア”って、どういうことなんですか?」
加賀「和美さんは自動車メーカーのうちナンバー1とナンバー2をご存知ですか?」
和美「はい、それくらい知ってますよ。ナンバー1はT社、ナンバー2はN社ですよね?」
加賀「そうです。”同じ業界で、力関係が変わらず、両社とも業績が良好であれば”、
理論上”鞘取り”に使えます。」
「株価は業績が良好でも上がったり下がったりするので、両社の数年間の値動きデータを
取って最大価格率・最小価格率・平均価格率を弾き出し、株価が最大価格率付近まできた
場合T売り&N買いを仕掛け、平均価格率or最小価格率付近になったら決済します。
平均価格率or最小価格率どちらかまで下がるかは分からないので二度に分けて決済します。」
「逆に最小価格率付近になった場合T買い&N売りを仕掛け、最大価格率or平均価格率付近
になったら決済します。
こちらも最大価格率or平均価格率どちらかまで上がるかは分からないので二度に分けて
決済します。」
「前者の場合はT社の買われ過ぎからの下落、後者の場合はT社の売られ過ぎからの上昇を
見込みますが、理論的に力関係が逆転しない限りナンバー2のN社はナンバー1のT社より
株価は高くならないので、前者の場合いづれ鞘が縮小しますし、後者の場合いづれ鞘が拡大
します。」
「但し、これは企業の発行済み株数が同じ場合ですので、もし違っている場合は”株価”ではなく
”時価総額”に置き換えて覚えてください。」
「また、N社をヘッジに使うことにより前者の場合T社が下落する前にN社が比較的安い
ことを理由に買われて鞘が縮小する場合もありますし、後者の場合T社が上昇する前に
N社が比較的高いことを理由に売られて鞘が拡大する場合もあり、いづれの場合も儲かる
ことになります。」
「ただ、片張り同様、両建てでも両社に関する大きな好材料・悪材料に注意は必要です。
相場に絶対ということはありませんので。」
和美は、加賀が紙に図を描きながら丁寧に説明してくれたことに感謝した。
加賀「この売買手法で利益を出していくには技術的なことはもとより、一夫さんの売買方針が
”損をしない”で、”時間的に待てる余裕がある”ことが大きいことは理解しておいて下さい。」
和美「分かりました。家に帰って同じ業界で、力関係が変わらず、両社とも業績が良好なペア
を探してみます!」
和美は加賀と浅野に丁寧にお礼を言い、今後の相談のお願いをして帰宅した。




