交換条件?!
――トゥルルル!
薫子の携帯電話が着信を知らせた。
発信者は義也だ。薫子が、焦る気持ちを抑えながら電話に出る。
「ヨッシー! なんて書いてあったか、わかった?!!」
鈴木家に代々伝わる宝物にまつわる謎の文字の解読という任務が義也に託されていた。
執事の林と薫子の祖父・堅造も薫子同様、義也からの連絡を心待ちにしていた。
「それが……解読を頼もうと思った人物から、交換条件が出されてさ。まだ解読してもらってないんだ……」
と、義也が残念そうに答えた。
「交換条件とな?!」
と、薫子の電話のそばで聞き耳を立てていた堅造が、驚いて声を発した。
「交換条件?! そのような事を言われる方は、一体どなたなのでしょう?」
と、林も不思議に思って口を開いた。
「ヨッシー! どんな交換条件なの? それに誰に頼んだの?」
と、薫子が興奮した様子で聞いた。
「それが、カオルンも会ったことある人物なんだけど……
‘華道対決をしてくれる約束を守ってくれたら、解読してやる’ って言うんだ……」
と、義也が申し訳なさそうに言った。
「え~っ!!? もしかして、あのキザで生意気な……あっ、ごめんなさい。
もしかして、解読ができる人ってヨッシーの弟の信也君!!?」
と、薫子があまりに以外な義也の言葉に大きな声を出した。
薫子の脳裏に軟派なイケメン高校生男子・信也の顔が浮かんだ。
確か自分と同級生だったはずという副情報も思い出した。
「そうなんだ。だけど、あいつはあんな風に見えて、子供の頃からヘブル語に興味を持って勉強してたから、だいぶ読めるんだ。
それに、この事はあまりおおっぴらにしない方がいいと思うし……
僕の身内のあいつに頼むのが一番適任だと思ったんだけど……」
と、義也が弁解するように言った。
「そういえば……
お父様の事があって、信也君や智也君との華道と乗馬対決の事をすっかり忘れていたわ。
私のほうこそ、ごめんなさい。華道と乗馬対決の日程を決めましょう!
対決は必ずするわ。だから、解読を頼んでちょうだい、ヨッシー!」
と、薫子が元気に言った。
「ありがとう。それじゃあ、さっそくあいつに解読させるから!」
と、義也もそう言って元気に電話を切った。
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――トゥルルル!
今度こそという気持ちで薫子が電話に出た。
「お待たせ! 解読してもらったよ」
と、義也の明るい声が耳元で響いた。
「ありがとう。信也君にもお礼を言っておいてね。
それに、信也君の都合のいい日にセッティングするから華道対決しましょうって、言っといて!」
と、薫子もつられて明るく答えた。
しかし、内心では解読の言葉がどんな言葉なのかと、期待と不安が入り混じり、心臓が早打ちしていた。
「ありがとう! それじゃあ、解読してもらった言葉を伝えるよ。
『わたしは、あわれみをもってエルサレムに帰る。そこにわたしの宮が建て直される。
――万軍の主の御告げ――測りなわはエルサレムの上に張られる』
っていう、聖書の言葉だったよ!」
と、義也が伝えた途端に薫子の心の中には、鈴木家に預けられていた宝物があるべき場所へ帰っていくような、不思議な喜びにも似たような安堵感が広がっていた。
それを聞いた堅造と林も薫子と同じ気持ちになり、3人の顔には自然と微笑が浮かんだのだった。
※本文中の『』内の言葉は、新改訳聖書のゼカリヤ書1章16節から引用しました。




