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秘密の洞窟

 執事の林の案内で、鈴木財閥の豪華な山荘の敷地内にある洞窟の前に4人(堅造・林・義也・薫子)は来ていた。

 昇造の遺言どおりに ‘あれ’ を義也に引き渡すためである。


「すご~い!!! おじい様の所に、こんな洞窟があったなんて!」


 と、薫子が感動と驚きの声を上げた。

 洞窟の入口は大人が数人、やっと入れそうなくらいの大きさだ。



「先程も申し上げましたように、この宝物は取り扱いが非常に難しいのです。  昔、この宝物を盗もうとして命を落とした者もいるとかいないとか……

 大変危険なので、この秘密の洞窟に隠してあると言い伝えられています」


 と、林が鈴木財閥に代々伝わる宝物=通称 ‘あれ’ について、緊張した様子で説明した。



「フフッ! 確かに ‘秘密の洞窟’ ね。

 だって、こんなに面白そうな場所なのに、今まで私に見つからなかったんだもの!」


 と、薫子が林の ‘秘密の洞窟’ という表現を気に入って、笑顔で言った。

 薫子は幼少の頃からこの山荘に時々祖父・堅造に会いに来ていたが、この洞窟の存在には全く気付いていなかったのだ。



「お嬢様!!! 笑っている場合ではありません!!

 先程も申し上げましたが、‘あれ’ は命にも関わるのです!

 楽しい探検に行くような気分では困ります!」


 と、林が珍しく大声を出して、好奇心満々で浮かれている薫子をたしなめた。



「むむっ、林の言う通りじゃ! 薫子!! 遊び気分なら帰りなさい!!!」 


 と、堅造も振り絞るように大きな声を出して、薫子を叱りつけた。

 薫子は、どうしても ‘あれ’ がどんな宝物なのか知りたいと思っていたので、自分の軽はずみな言動を反省し、今までになく真剣な表情で言った。


「お爺様、林、本当にごめんなさい。あんまり驚いて気が緩んでしまったの。

 だけど、ヨッシーは私の婚約者なのよ! 婚約者の私がヨッシーに渡される宝物を知らないなんて、そんなのひどすぎるわ!!

 しかも鈴木財閥に代々伝わる宝物なのに、鈴木財閥唯一の後継者である私に秘密にするなんておかしいじゃない!!!」



「むむっ! そうか、そうか!

 薫子も鈴木財閥の後継者としての自覚がきちんとあるのだな!」


 と、堅造が薫子の発言を聞いて、嬉しそうに言った。



「あっ……だけど、二十歳になったら、わたしの意見も聞いて欲しい気持ちは変わらないから!」


 と、薫子が先程は勢いで言ってしまったが、鈴木財閥の後継者として会社を切り盛りする気はさらさらなかったので、慌てて言った。



「まあ、心配せんでもそれはわかっておる。

 ちゃんと二十歳になったら、薫子の意見もきちんと聞くつもりじゃ。

 だが、薫子が鈴木財閥唯一の後継者である事実も認めてもらいたい」


 と、堅造が穏やかに言った。



「わかりました。確かに私は鈴木財閥の後継者です。認めます。

 だから、お願い! 宝物の注意事項は絶対に守るから!」


 と、薫子は事実を認め、懇願した。



「よしよし! 薫子もいつもそうやって素直だと可愛いのじゃがなぁ。

 ヨッシーもそう思うだろ?」


 と、堅造が機嫌良く言った。



「はい、確かに素直なカオルンは超可愛いです!」


 と、義也が間髪入れずにそう答えた。

 薫子が素直になった時は本当に可愛いと心から思っていたからだ。



「むむっ、‘超可愛い’ か! 良かったな、薫子! ハッハッハッ」


 と、堅造は先程笑っていた薫子を叱りつけた事などすっかり忘れて、大笑いした。



「ヨッシーったら……

 それじゃあ、素直じゃないときは可愛くないみたいじゃない!

 もうっ、嫌い!!」


 と、薫子は本当は嬉しかったが、照れながら言った。

 薫子と義也が出会って半年くらい経つが、薫子が「もう、嫌い!」と言うと、決まって義也が言ってくれる言葉があった。最近の薫子はその言葉が聞きたくて、わざと「もう、嫌い!」と言う様になっていた。

 しかし、義也は緊張のためかいつもの言葉が出てこなかった。



「‘どうして? 僕はカオルンが大好きなのに!’ で、ございましょう。

 郡山様」


 と、口を開いたのは、執事の林だった。

 林は義也が薫子の家庭教師になった夏頃から、二人を近くで見守ってきており、お決まりのセリフを覚えてしまったのだ。



「ハッハッハッ!」


 と、そのやりとりを見ていて堅造がまたもや大声で笑った。

 そんな堅造の様子を見て、薫子が言った。


「お爺様だって、気が緩んでるじゃない! ねぇ、そう思うでしょ? 林」



「そうですね、大旦那様……

 お嬢様達が面白いのもわかりますが、少し笑いすぎかと……」


 と、林も困ったように言った。



「むむっ、ついわしも気が緩んでしまった……いかん、いかん!

 よし、それではここからは気を引き締めて、‘あれ’ の注意事項を林に読み上げてもらおうじゃないか!」


 と、堅造が自分の頬を両手で二回叩いて、気合を入れながら言った。

 それを聞いて、執事の林が洞窟の入口にある木箱を開け、古い小さな巻物を取り出して、読み上げた。


「其の一、触れてはならない。

 其の二、開けてはならない。

 其の三、中身を見てはならない。

 明るい希望に出会いし時、の道が示されるなり



「注意事項って、それだけ?」


 と、薫子がシンプルな注意事項に拍子抜けして聞いた。

 非常に取り扱いが難しいと聞いていたので、精密機械のように細かい注意事項がたくさんあると思っていたからだ。



「はい、そうでございます。

 この三つの注意事項を必ず守っていただきたいのです。

 この三つの注意事項は簡単なように思えますが、好奇心の強い人には実行するのが非常に難しいのです!」


 と、執事の林は今までに見たことのないくらい厳しい表情で言った。



「林、最後の一文をもう一回、聞かせてくれんか?」


 と、記憶力の低下が多少ある堅造が、林に頼んだ。



「承知いたしました、大旦那様。

 ‘明るい希望に出会いし時、の道が示されるなり’ で、ございます」


 と、林が今度は少しゆっくりと、巻物の最後の一文を読み上げた。



「むむむっ! なんと! これはまさにヨッシーのことではないか?

 わしはヨッシーから ‘明るい希望’ のようなものを感じたのじゃ!

 林はどう思う?」


 と、堅造が目を見開いて驚きながら、言った。



「確かに! わたくしも郡山様からは ‘明るい希望’ のようなものを感じます。あっ、そういえば、ご主人様も生前に郡山様から ‘明るい希望’ のようなものを感じたと嬉しそうに話しておいででした!」


 と、林も驚きで目を見開きながら言った。



「あっ! それに、そこにヨッシーの名前の文字が書いてあるわ!」


 と、薫子が巻物を横から覗き込んで言った。



「あっ、本当です!

 郡山様の名前の ‘義也’ という文字が、‘義の道が示される也’ という部分に書かれていますね!」


 と、林もますます驚いて、もっと目を見開きながら言った。



「何という事だろう……まるでこうなる事が運命であるかのようじゃ!

 この宝物は、君に出会う事を待ち望んでいたようにも感じるぞ!」


 と、堅造は宝物があるべき場所に戻っていくような安堵感を感じながら言った。



「実は僕もこの宝物との出会いには、運命的なものを感じています。

 ですが、同時にとても危険な予感もしています……

 カオルン、絶対に注意事項を守るんだよ!」


 と、義也は驚きと神への恐れを感じながら言った。

 義也の心の中には、


 『神を恐れよ。神の命令を守れ。これが人間にとってすべてである』


 と、いう聖書の言葉が切実に迫っていた。

※本文中の『』内の言葉は、新改訳聖書の伝道者の書12章13節より引用しました。

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