表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/36

鬼の目にも涙

「おじい様がそんな風だから、叔父おじ様も家出したのよ!!!」


 病気療養中の祖父に激しく言い放つ薫子の声が、豪華な山荘に響き渡った。

 父親(昇造)の死から数ヶ月が過ぎた現在、祖父が薫子の進路について異議を唱えたため、薫子はこうして長野の山奥まで出向き、直談判しに来ているというわけだ。

 祖父の堅造は、


「これからのグローバル社会に対応するために、海外に留学して語学力を身につけるように。

 鈴木財閥の令嬢が看護学部に進学するなど、もってのほか。断じて赦さん!」


 と、薫子の看護学部進学に猛反対しただけでなく、海外に留学するようにと命令を下してきたのだ。

 薫子は夏休み前から、義也と同じ大学(聖マタイ大学)の看護学部に入学できるように毎日勉強して頑張ってきた。

 だが、薫子が必死に抗議しても、全く埒が明かないため、堅造の前では禁句となっていた叔父の家出の話を持ち出してしまったのだった。



「言いすぎだよ、カオルン」


 と、感情的になっている薫子を義也がたしなめた。

 義也は薫子の父、昇造が亡くなってから、薫子のそばになるべくついている様にしており、今日も同伴しているのだ。



「でも、ヨッシーお爺様は厳しすぎるわ」


 と、薫子が義也に半泣きになって訴えた。



「いいかい、カオルン。魔法の言葉に『怒りをおそくする者は勇士にまさり、自分の心を治める者は町攻め取る者にまさる』という言葉があるんだ。

 ここは、冷静になろうよ」


 と、義也が優しく薫子に助言した。



「む? そこの者、初めて見る顔だな。新しい運転手か?

 それにしては若いな?」


 と、堅造が義也の存在に気付いて、執事の林に聞いた。



「せんえつながら、大旦那様。

 この郡山様は亡き御主人様が御恩を受けたお方の御子息でもあり、御主人様がお嬢様の生涯のパートナーとして認めたお方なのです」


 と、執事の林が丁寧に答えた。



「むむっ! なんと! それはそれはこの老いぼれの無礼お許しいただきたい。

 親のわしが言うのもなんですが、昇造は人を見る目は一流だったのでね。

 昇造が認めた人物なら、わしは全く文句ない。

 薫子をよろしくお願いいたします。

 わしに似て、言い出したらきかない頑固なところがありますがね。

 ハッハッハッ!」


 と、堅造は昇造が亡くなってからほとんど見せなくなっていた笑顔で答えた。



「そんな、こちらこそきちんと挨拶せずに申し訳ありません。

 郡山義也と申します。先日、薫子さんには予約プロポーズ致しました。

 今はまだ大学生ですので、将来社会人になり自立した際には、責任を持って薫子さんを幸せにしたいと思います!」


 と、義也が深く頭を下げながら、堅造に挨拶した。

 それを聞いて薫子は、先程までの堅造に対する怒りが消え、顔を赤く染めてうつむいた。この時、薫子の心の中は、満開の桜とその花びらが贅沢に降り注ぐ、薔薇色ならぬ、桜色な気持ちに満ち溢れたのだった。



「むむっ! これは素晴らしいし、頼もしい!

 このわしを前にそれだけの事を言ってのけるとは、ただものではない!

 さすが昇造が認めた人物じゃ!」


 と、堅造は義也のものおじしない、芯の強さを感じさせる態度に感銘を受けてますます笑顔になって言った。

 そして、昇造が亡くなってから涙も出ないほど空虚になっていた堅造の心に暖かい光が差し込み、気付くと堅造の目にキラリと涙が光っていた。

 そんな堅造を見て、執事の林は、


“鬼の目にも涙とはまさにこのことか?

 現役の頃は鬼と恐れられていた、厳しくて頑固一徹であられた大旦那様にまで気に入られるとは、郡山様は本当に不思議なお方だ“


 と、義也という人物の不思議な魅力について、驚きと感動を感じたのだった。

※本文中の『』内の言葉は、新改訳聖書の箴言16章32節から引用しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ