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2015年12月2日に修正しました。

歌詞を引用していた部分のすぐ下に引用曲名を記載しました。

記載せずに引用していた事、深くお詫びいたしますm(_ _)m


「Hands up! 」 ※手を上げろ!


 薫子の父、鈴木昇造の頭に拳銃が突きつけられている。ゆっくりと両手を挙げる昇造。

 ニューヨークのブルックリンにある教会を訪れた帰り道に、昇造は何者かに裏通りに連れ込まれた。そして、黒ずくめの男達――おっと、この表現は人気少年漫画の悪役とかぶるのでやめておこう――黒いスーツの男性数人に囲まれている。

 昇造はその中に一人だけ見覚えのある人物がいた。以前、昇造に無実の罪を着せようとした人物だった。あの時は、義也の父である郡山牧師が明晰な頭脳で助けてくれて、難を逃れたのだ。

 しかし、今回は助けてくれそうな人は誰もいない。おまけに今日の外出はプライベートだったので、行き先を秘書にも伝えていなかった。そのため、誰も昇造の居場所を知らないのだ。

 それに、黒いスーツの男性達は全員拳銃を所持しているようだが、昇造は丸腰だった。

 

 昇造は愛する一人娘、薫子の18歳の誕生日に、自分なりに特別な事をしたいと考えた。今年は彼氏の義也と過ごしたいと薫子に言われてしまったので、昇造としては寂しくもあったが……

 そして、薫子にとって18歳という人生の節目にもあたる今日、薫子の今後の人生が祝福されるように祈りを捧げようと考えた。どうせなら命の恩人ともいえる郡山牧師が所属していた教会の本部にお祈りに行こうと思い、義也から場所を教えてもらい、その教会を訪れて祈りを捧げた。その教会では素晴らしいメッセージとゴスペルソングを聴く恵みにも預かることができた。昇造はその教会で受けた感動に浸りながらニューヨークの自宅へ向かう帰路で、黒いスーツの男達に襲われたのだ。

 

 ※ここからはほとんど日本語にさせて頂きます。

 昇造は仕事柄、ある程度英語ができます。



「フッ、フッ、フッ……鈴木財閥もこれで終わりですねぇ。知っていますよ。

 あなたがいなくなれば、きちんとした跡取りのない鈴木財閥は終わる。

 私の邪魔をした人間は生かしておかない、これが私のポリシーでしてね。

 さあ、今からあなたにも郡山牧師のようになってもらいましょうか?」


 と、以前、昇造を陥れようとした男が、不気味な笑みを浮かべながら言った。



「なんだと? 

 郡山牧師はペルーの山奥で急病にかかって死んだんじゃないのか?

 まさか、お前達が殺したって言うのか?!!!」


 と、昇造は驚いて聞き返した。



「あの男、頭だけはいいから手こずりましたがねぇ。なんとか目的を達成しましたよ。あの男は無医村で腹膜炎を起こして死亡した事にしておきました。私達には他殺を病死に偽装できる裏ルートがありましてね。あと報道筋にも……

 だから、ペルーの山奥で一人の日本人が急病で亡くなったという小さな出来事が、わざわざニュースになっている時点であなたは疑問に思い、今度は自分が狙われると気付いて、今日のように軽率な外出を控えるべきでしたね。

 彼の死はあなたへの見せしめだったんですよ。私の計画を邪魔しておいて、のうのうと暮らしているなんて許しませんからね。

 あなたにも死んでもらいますよ。あなたの場合は急性心筋梗塞っていう事にしましょう。今からあなたに、この特別にあなたのために用意したカリウム液を静脈注射してあげます。こうすれば、あなたの心臓は止まり、死に至ります。

 安心してください。あなたの周りの人間も病気で死んだとなれば、美しい涙であなたをしのぶ事でしょう。感謝して欲しいですね。これは、私の思いやりですよ」


 と、言いながら、男は往診ドクターが持っているようなカバンから、薬液の入った注射器を取り出して見せた。



「おい!!! それは、本当か?!! 何てことだ!!! 

 わしを助けたばっかりに郡山牧師は殺されたって言うのか?!! 

 そんな!! あまりにもひどすぎるじゃないか!!!

 そんな卑劣な行為を黙っているわけにはいかない!! 

 今すぐ告発してやる!!!」


 と、昇造は取り乱しながら、大声で叫んだ。



「フッフッフッ! 告発できるものならしてもらいましょうか? 

 もしあなたが奇跡的に告発できたとしても、誰もあなたの話を信じてくれないと思いますがね。私達は世界的な慈善事業家で表向きは通っているんですから。

 さあ、あなたには今から天国行きの注射を打ってあげましょう! 

 そういえばあの郡山とかいう男、死ぬ間際にも高尚な事を言っていましたよ。『神よ。彼らをおゆるし下さい。彼らは、何をしているのか自分でわからないのです』とかなんとか言ってましたねぇ。全く牧師の鏡ですよ、彼は。人生の最後にキリストの十字架上での言葉を、のたまわりましたからね。

 あなたは、大物財界人として最後にどんな言葉を聞かせてくれるのか、楽しみです。フッ、フッ、フッ……」


 と、男達が昇造を取り押さえて、昇造の足首の血管に注射を打とうとした。

 その時、昇造の頭の中で先程、教会で聞いたゴスペルソングが流れ出した。


 ♪ I’m amazed that you love me~ ♪ 

 ※私はあなた(神)が私を愛している事に驚きます。

注:歌詞引用曲名[I'm Amazed/THE Brooklyn TABERNACLE Choir]

 アルバム名 [I'm Amazed…LIVE/THE Brooklyn TABERNACLE Choir]



 そして、昇造は大声で泣き叫びながら、


“わぁ~~~!!! 神様~~~!!! わしを赦してください!!!

 わしを助けたばかりに……一人の無実の男性が殺されてしまいました!!! 

 今日聞いたゴスペルソングにあるように、神様はすべての人を愛しておられるというのは本当ですか? 

 郡山牧師は自分を殺そうとするこの男達のために、神の赦しを請いながら天に召されたと聞きました……

 神様、わしは郡山牧師の汝の敵を愛する行動に感激しました。

 このわしにも神の愛と赦しを!!! 

 できる事なら愛する一人娘、薫子の花嫁姿が見たかった……

 神様!! 御慈悲を!!!“


 と、心の中で思い、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、無意識に英語で一言、つぶやいた。


「God was good to me everyday」

 ※神様は毎日私に良くしてくれました。



 その言葉は先程、教会のメッセージに出てきたクリスチャン大富豪、ロックフェラーの最後の言葉だった。同じ財界人としても、人間としても、その言葉は昇造を感動させた。そのため、男達への意地もあり、気付いたら同じ言葉が口から出たのかもしれない。ロックフェラーの人生には様々な困難があったと聞いた。若い頃には、自殺したくなる程の大ピンチに追い込まれた事もあったそうだ。しかし、ロックフェラーは人生の最後に “神様は毎日私に良くしてくれました” と言ったのだ。苦しみも悲しみもすべて含めて良い事だったと……

 昇造も、妻の死や鈴木財閥のトップとして苦しみ、悲しみ……色々なつらい事も経験した。しかし、それもこれもすべては神の恵み、良い事だったと死を目前にして思えたのだ。

 それに、尊敬する郡山牧師やロックフェラーのように最後の言葉は美しく死にたいという気持ちもあったのだろう。


 だが、昇造には気がかりな事がいくつかあるのも事実だった。

 ひとつは18歳で両親を亡くす事になり、兄弟姉妹もいない愛娘まなむすめ、薫子の事。

 昇造亡き後の鈴木財閥の事。

 長野県の山奥で病気療養中の頑固一徹な気性の父、堅造けんぞうの事。(薫子にとっては父方の祖父となる人物)

 あと、昇造にはもうひとつ気がかりな事があった。20歳で父に激しく反抗し家出をして、放蕩の旅に出たきりの実弟、幸造こうぞうの事だ。


 薫子には郡山牧師の息子でもあり、神が味方しているような頼もしい人物である義也という恋人ができていたため、その事が昇造には喜びであり、安心材料でもあった。ただ薫子の花嫁姿が見たかったという希望だけは強く残っていたが……


 あと、鈴木財閥の事も部下達が誠実で信頼できる人材が揃っていたため、自分が死んだからといって、この目の前の男が言ったような鈴木財閥が潰れるという心配はしていなかった。

 皮肉な事に、以前目の前の男達にはめられて失脚しそうになって以来、昇造は自分一人に何かがあったとしても揺るがない組織を目指して、方向転換したのだった。鈴木財閥の組織体系の見直し、内部改革、人材育成に努めてきた。そして、あの事件以来ニューヨークに拠点を移行し、世界的な地盤も固めてきた。だが、そのために薫子に寂しい思いをさせてしまったが……

 それに、もし鈴木財閥が潰れたとしても、部下達が今よりももっと良い企業を立ち上げてくれるような予感さえしていた。


 しかし、病を患っている気難しい性格の父、堅造と、20代で生き別れになり音信不通の弟、幸造の事は心配だった。二人に仲直りして欲しいと昇造は心から願っていた。


       ☆

       ☆

       ☆


 「お父様!! お父様!!! 目を開けて……お願い……」


 愛する亡き妻の形見だったウエディングドレスに身を包んだ薫子が、泣きながら昇造の手を握って、懇願している。

 薫子の隣には涙を流している義也が付き添っていた。

 その後ろには執事の林が嗚咽するように、男泣きしている姿が見えた。

 自家用ジェット機の運転手、村井も同席して泣いていた。


“わしは夢を見ているのだろうか? 薫子の花嫁姿が見れるなんて……

 神様がわしを哀れんでくださったのだろうか?“ 


 と、昇造は朦朧とする意識の中で、目の前に見えている情景に喜びを感じながら思った。



「お父様!!! お父様が目を開けたわ!!! お父様!!!」


 と、薫子は父の昇造が意識を取り戻した事に、大声で喜びを表現した。

 しかし先程医師から、もし奇跡的に意識を取り戻したとしても、一時的だと覚悟して置いてください。と病状説明を受けていたため、薫子の涙はとめどなく流れ続けていた。



「薫子……とてもきれいだ……幸せになるんだぞ……

 義也君……薫子を頼む………君のお父さんの事……すまん……赦して欲しい……

 林、村井……ありがとう……

 林……頼む……’あれ’ を義也君に……必ず……渡して……くれ……」


 と、昇造は最後の力を振り絞ってそう言うと、安らかに目を閉じた。

 次の瞬間、激しい落雷の音が響き、昇造が救急搬送されたニューヨークの病院の特別室になんと、一台の火の戦車と火の馬の幻が現れた。そして、昇造のたましいは火の戦車と火の馬と共に、たつまきに乗って天へ昇って行った。

※最後の部分は聖書の預言者エリヤが天に召された様子(列王記 第二2章11節)をだいぶ引用しました。

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