第7話
毎週、大学の自転車部に通っているうちに、僕は、様々なことを学んでいった。
自転車のことはもちろんだが、でも、本当に学んだのは、目上の人や、仲間達、しいては社会への接し方だったのかもしれない。
中学のクラスメート達との関係も変わってきていた。
僕の夏の冒険は、いつも間にか、全校中の話題になっていた。
たぶん、千佳子が言いふらしたのだと思うが。
「お前、自転車すごいんだってな。俺にも教えてくれよ」
「日本を横断して、彼女に会いに行くんでしょ。もうロマンチックなんだ。ちょっとうらやましいな」
今までどちらかというと、孤立した秀才として、煙たがられていた僕に、皆が声をかけるようになってきた。
僕は、誰とでも一生懸命に対話した。精一杯の笑顔とユーモアを交えて。
「なんか、どんどん素敵になっちゃって。人気抜群だよね・・・」
帰宅途中で、千佳子がつぶやいた。
彼女も、同じ住宅地に住んでいたから、帰る方向が同じだ。会えば一緒に帰ることが多かった。
もう梅雨が近いのか、空模様が心配だった。
「自分を変えたいんだ。今、自分のいる場所が、最高だと納得できるように」
僕は、山の向こう側に思いを込めて言った。
振り返ると、千佳子と目があった。
彼女は、あわてて目をそらした。心なしか顔が赤かった。
暗くなった空から、すぐに大粒の雨落ちてきた。あわてて折りたたみの傘を出すと、
「傘忘れた。入れて・・・」千佳子が寄り添ってきた。
女の子を雨に濡らすわけにもいかず、かなり息苦しかったがそのまま歩いた。
道端に咲いたあじさいばかり眺めながら。ふたりとも無言だった。
「ねぇ・・・、ほんとに親戚なの?」突然、千佳子が、独り言のようにつぶやいた。
「えっ?」なんと答えていいか、一瞬僕が戸惑った時、真っ赤な日産チェリーのクーペが傍らに止まった。
「やっぱり貴志君だ。乗っていかない。三共スポーツまで行くの。フレームもうできているって、矢上君が言っていたよ。彼女もいっしょにどう?」
ドライバーズシートの陽子さんが顔を出した。
「ありがとうございます。ちょうど、今日、帰りに寄ろうと思っていたところです」
僕は、微笑んで頭を下げた。
振り返ると、千佳子がすごい顔で睨んでいた。
「このプレイボーイ!」
千佳子は、僕を突き飛ばすようにして、離れると、雨の中を駆け出して行ってしまった。
「おいっ!」僕が、どうしていいかわからずに呆然としていると、
「やれやれ、青春だね・・・。」
陽子さんがにやにやしながらこれ見よがしにため息をついた。




