第42話
ハイライトの神輿が海に入る漁港のあたりは、既に、見物する人でいっぱいだった。
山車の代わりに、海にお囃子を乗せた船が何隻か浮かんで、にぎやかにお囃子を奏で始めた。
神社の方を見ると、長い石段をお神輿が降りてくるのが見えた。
お神輿は、ジグザグに練り歩きながら、こちらに向かって来る。
沙紀ちゃんの身長では、人々にさえぎられて見えないのだろう、一生懸命背伸びをしているのが、少しかわいそうだった。
僕が、何か言おうとすると、したから上目使いで、じっと見つめて、
「おにいちゃん、かたぐるま・・・」とねだった。
えっそのスカートで?と思ったが、いもうと、いもうと・・・と呪文のように自分に言い聞かせて、しゃがんで、沙紀ちゃんを担ぎあげた。
担がれるときに、「きゃはっ!」と悲鳴のような声をあげたけど、すぐに「すごーい、良く見えるよ。」とはしゃいでいた。
さすがにこの人の群れでは、めだたないだろうと、思ったが、人垣の前のほうで、じっとこちらを見ている里美ちゃんがいた。
彼女は、浩一君達数人と一緒のようだった。
神輿が近づいてくると、神輿に合わせて、見物の人々も移動していく。
僕は、中学生としては、小さいほうではないが、押されると、危ないので、
「あぶないから、降ろすよ」と沙紀ちゃんを降ろすことにした。
沙紀ちゃんは、抵抗したが、僕が、強引に頭を抜くと、また、「キャハハハ!」と悲鳴をあげた。
こちらを見つめる里美ちゃんの顔に「よくやるわ・・・」という軽蔑の笑いが浮かんでいるのがわかった。
船のお囃子が一段と大きくなる。クライマックスだった。
お神輿は、そのまま。海になだれ込み、担ぎ手の何人かは、振り落とされた。
神輿は、一旦、屋根まで沈むと、再び、陸へもどった。確かにこれを担ぐのは体力が入りそうだった。
東京へ帰ったら、とうさんに担いだ思い出を聞いてみよう。
そして、海に浸かって、穢れを払われた神輿は、神社への帰路についた。
参道の方は人が鈴なりなので、ここで見送ることにした。
人に引きずられると危ないので、沙紀ちゃんをしっかりと抱き寄せる。
ふと、沙紀ちゃんと眼があった。顔が真っ赤だった。
何か悪いことをしているようで、すぐに手をはなした。
神輿がいってしまうと、里美ちゃんが、こちらに近づいてきた。
「昨日の夜、お祭りのお誘いにあがったのですが、お邪魔だったようで」
僕が、なんと答えていいかわからず黙っていると、
「ずいぶんと、自然に、女の子を抱っこしたり、おんぶしたり、肩車までなさるんですね。東京では、皆、そういうものなのですか?」とまじめな顔で聞かれた。
「おにいさんとしては、当然だよ。君も浩一君にしてもらえば」と僕が言うと、
「ぜったいに、イや!」と言われた。本当の兄妹だとこんなものなのだろう。
僕が、里美ちゃんが話していると、浩一君が見つけて、ニコニコしながら、近づいてきた。
「今日は、食堂がかき入れ時だろ。もうこれから出かけさせてもらえないから、昨日、一緒にお祭りに行こうと思って、里美と迎えにいったんだ」
「ごめん、入れ違いになっちゃったみたいで」
「そいやんかね。お化け屋敷が、えろうこわくて、たあ坊なんか、泣き出しちょったくらいじゃ。行ったかいな」
「ああ、こっちも、沙紀ちゃんに泣かれた」というと、里美ちゃんが、ピクリと反応するのがわかった。
里美ちゃんは、沙紀ちゃんを思わせぶりに見つめて、「ふーん、そいやんかねぇ」と皮肉っぽくいった。
たぶん、そういう訳ね・・・という意味だろうと思ったが。
どういう訳なのかは、さっぱりわからなかった。
「今日は、勘弁な。店手伝わんと、かあちゃんに、はたかれるけん。明日泳ぎに行こうや」と、浩一君に肩を叩かれた。
「ああ、楽しみにしているよ」というと、里美ちゃんに、
「約束です。沙紀と二人だけはなしですよ」と念押しされた。
こうして、新崎兄妹は、食堂の手伝いに戻っていったが、ちょっと沙紀ちゃんの様子が変だった。
なにかともじもじしているので、「おしっこ?」と聞くと、「もう!」と思いっきり叩かれた。
「いったん、家に帰ろうか」と言うと、
「せっかく、おにいちゃんと一緒に来てるんだから、夜までいる!」と言われた。




