第39話
どのくらい時間がたっただろうか。
廊下で足音がしたと思ったら、戸がすーっとあいて、白いものが、部屋に入って来た。
僕は、半分夢の中にいたが、自分の隣に、柔らかな感触と、ぬくもりを感じて、このリアルな現実に飛び起きた。
沙紀ちゃんがいた。夢の中でみた白いものは、パジャマ姿の沙紀ちゃんだった。
「あっ、あの・・・、怖くて、寝られなくて・・・おにいちゃん、一緒に寝よ」
おいおい、さすがにそれは、まずいだろ・・・と少年の僕でも思ったが、本当に怯えている沙紀ちゃんを見ると、何も言えなかった。
僕は、夏蒲団から起きあがると、黙って沙紀ちゃんを抱っこして、布団に寝かせた。
そして、布団の傍らに座って、その手を握った。
「こうすれば、怖くないだろ。僕がついていてあげるから、おやすみ」自分でも、そんな言葉が自然に出たのが、驚きだった。
沙紀ちゃんは、「うん、ありがとう。やさしいね。おにいちゃん」とうれしそうに微笑んだ。
外を見ると、満月が空高く、くっきりと明るく照らしていた。
もうお囃子が聞こえないところから、かなりおそい時間なのだろう。
月あかりに照らされた、沙紀ちゃんは、おとぎ話のプリンセスのように可憐だった。
沙紀ちゃんの頭を撫でていると、その長い睫がだんだん重くなり、すぐにすやすやと寝息を立て始めた。
僕は、月を見上げながら、しばらく、沙紀ちゃんの華奢な小さな手を握っていた。
ずっとこうしていてもいいな、と思える二人だけの時間だった。
でも、沙紀ちゃんが寝入ってしまうと、さすがに気まずくなった。
僕は、起こさないようにしずかに離れを出て、居間まで行くと、ソファに横になった。
僕も、また眠ってしまったのだろう。リビングの明かりがついて、
「貴坊、なして、こんなところで寝ちょる?」というおじさんの声で起こされた。
「沙紀ちゃんが、怖くて寝むれないって離れにきたんで、寝かしつけてここで寝ていました。
お祭りのお化け屋敷に、二人で入ったんですけど、やっぱりかなり怖かったみたいで」
僕が、寝ぼけながら説明すると、
「あらあら、もう、親よりも他に甘えたい年頃になったのかしら」とお母さんも顔をだした。
「たぶん沙紀ちゃん、無理していたんだと思います。本当に怖かったみたいだから、このまま寝かしてあげてください。僕は、ここで充分です。今度の旅でどこでも寝られるようになりましたから」
「貴坊、おまん紳士やな」おじさんが、言った。
僕は、答えるかわりに、また倒れるようにソファに横になると、朝までぐっすりと眠った。




