第37話
そのまま、昼すぎまで、河原の秘密基地ですごし、午後には、沙紀ちゃんの家に戻った。
浩一君が、食堂で昼めしを食っていけと、誘ってくれたが、そのまま、お祭りになだれこみそうなので、遠慮した。
祭りは明日が本番で、海に神輿が入るのがメインイベントらしい。
明日は皆で出かけてもよいが、今晩は、沙紀ちゃんとの約束だった。
屋敷に戻って、しばらく、離れで昼寝をしていると、沙紀ちゃんとおかあさんが帰ってきた。
「おにいちゃんにも水着買ってきたよ」
「えっ、これでいいのに」
「いいのよ。プレゼント」沙紀ちゃんのおかあさんに言われて、何も言えなくなった。
まさか、ペアルックとかじゃないだろうな、と心配したが、シンプルな青いサーフトランクスだった。
ブランドものなので、高かっただろうに。
「ありがとうございます。シンプルで気に入りました。ほんとに」僕は、素直にお礼を言った。
「男の子がいないから、わからなくて」沙紀ちゃんのお母さんも笑っていた。
「沙紀ちゃんは。」と聞くと、
「ひ・み・つ。海でね」とご機嫌だった。
「浴衣も買ってもらったの。今夜着ていくよ。」
おばあさんも、夜、お寺さんに行くので、夕食は、沙紀ちゃんと、適当に食べるように言われた。
お金を渡されたが、こんどは、僕がおごらせてもらいますと、断った。
その後、皆でスイカを食べて、お母さんは、お祭りの準備に婦人会にでかけていった。
日が暮れてくると、祭りの提灯が灯され、街が華やいできた。
おばあさんと、沙紀ちゃんが浴衣の着付けをしている声が聞こえてくる。
僕は、いつもの縁側に腰掛けて、漁火の灯りだした海を眺めながら待っていた。
「おにいちゃん、お待たせ!」沙紀ちゃんがしずしずとやってきた。
白地に薄い藍色の朝顔模様の清楚なゆかたが良く似合っていた。
「うん、すごく可愛い!」というと、「おっほっほ」と後ろでおばあさんが笑う声がした。
しまった、おばあさんがいることを忘れていた。
高台の沙紀ちゃんの屋敷から、神社までは結構な距離がある。
僕達は、早めに出かけることにした。浴衣の沙紀ちゃんに合わせて、ゆっくりと歩く。
もう、夏の夜の蒸し暑さは和らいで、海からの風が気持ちよかった。
「久しぶりだね。おにいちゃんとお祭りにいくの」
「4年に一度の大祭だから、もう4年前か」
その時も、小さな沙紀ちゃんの手をひいて、夜店に行ったっけ。
漁港をすぎて、街中に入ると、友だちと行きあうことが多くなり、さすがに少し離れて歩いた。
誰もが、沙紀ちゃんと僕を思わせぶりに見た。
僕は、平気だったし、沙紀ちゃんはむしろうれしそうだった。
神社は、海から少し登った山の上にあり、長い参道に並んだ提灯がきれいだった。
参道の入り口で、良さんに会った。僕が、「昼間はどうもありがとう。楽しかったよ」と言うと、
「ああ、おまんは、クラブの仲間じゃ、また走ろうや」と言われた。
「ところで、浩ちゃんと、里美ちゃんが、貴ちゃんも誘おうって迎えに言ったよ、会わんかった?」
「いや、その前に出かけちゃったかも」どうも、タッチの差だったみたいだ。
そのまま良さんと別れて、登って行くと、境内は結構広くて、夜店が賑やかに並んでいた。
「おなかすいた?何か買ってこようか?」と言ったが、「ううん、大丈夫」
沙紀ちゃんが食べないので、僕は、沙紀ちゃんに、飴細工を買ってあげた。
沙紀ちゃんは、お返しに、はっかパイプを買ってくれた。
さすがにお腹がすいてきたので、焼きそばと、たこ焼きと、ラムネを二本買って、境内の隅の石に腰を降ろした。
沙紀ちゃんの浴衣を汚さないように、ハンカチを引くのを忘れなかった。
「昼間、里美ちゃんと一緒じゃなかったんだ」
「ああ、買い物に行ったと浩一君が言っていた。いまいがサイクリングクラブの皆と山に行ってきた。河原で、歓迎会をしてくれたよ」
「おにいちゃん、人気者だもんね」
「そのまま、食堂で昼飯に誘われたけど、沙紀ちゃんとお祭りに行けなくなりそうなので、帰ってきた。正解だったみたいだ」
僕は、ラムネを飲みながら、焼きそばを掻き込んだ。
沙紀ちゃんは、ラムネだけ、ちょっと口を付けただけで、何も食べないので、たこ焼きを差し出して、
「食べる?」と聞いてみた。
「あーん」と口を開けたので、そのまま、浴衣に落とさないように気を付けて、その可愛い口に押し込んだ。
「口がソースだらけになっちゃうよぅ!」
なんだ、そんなことで遠慮していたのか、と思ったが、沙紀ちゃんらしかった。
二人でたこ焼きを平らげてしまうと、沙紀ちゃんが、
「リンゴ飴、食べたい。」と言い出した。
この甘えモードになると、そろそろ里美ちゃんが現れそうだなと、きょろきょろしていると、案の定、参道の入り口あたりで、サイクリングクラブの面々に混じって、里美ちゃんの姿が見えた。
沙紀ちゃんも、気が付いたと見えて、「おにいちゃん、行こ!」と腕を引っ張られた。
広いと言っても、境内の参道は一本道なので、出会うのは、仕方がないかと思った。
沙紀ちゃんが突然、「お化け屋敷入ろうよ」と言いだした。
沙紀ちゃんは、幽霊はもとより、妖怪の類も大嫌いで、小さい頃脅かしてよく泣かれたことを思い出した。
「えーっ、お化けは、大の苦手じゃなかったの?」と僕が言うと、
「おにいちゃんと一緒なら大丈夫。」と言われた。




