第36話
食堂特製のお重は文句なしにおいしかった。
もっとも、このすずしい河原のテーブルで、腹を空かせた少年なら、なんでもおいしいに決まっているが。
「貴ちゃんのあの自転車、ランドナーっていうんじゃろ」慎太君が、するめをかじりながら聞いた。
自然と、話題が自転車に集中する。
「ちょっと、違うんだ。車種的には、スポルティーフと言うらしい。最初は、ノーマルなランドナーにしようかとも思ったけど、コーチしてくれている自転車部のお兄さんが、ロードレースが専門なのでもう少し軽いのがいいかなと思ったんだ。長距離ライド専用だよ。」
「ただ、いくつも峠を越えなければならないんで、ギヤは軽めにしている。フロントが46―34T、リアが13―24Tだ。」皆ふむふむと聞いている。
「フレームは、全部クロモリけぇ?」と慎太君。
「石渡の019ダブルバテットチューブがメインだけど、シートと、ダウンチューブは022にしている。多少多めに荷物を積んでも、大丈夫なようにね」僕が解説すると、
「なんか、ほんとすげーなぁ。」浩一君が感心して言った。
「実は、すべて、大学の自転車部のお兄さん達の受け売りだけどね。でも、今回の旅で、本当に役にたってくれた。満足している。ぢなみに、僕は、ハヤブサって名前を付けた」
「ハヤブサかぁ、かっこええなあ」
「それ、いい!俺も名前つけよう。浩ちゃん、サトミってつけていい?」と慎太君。
「おまん、殺されっど」と結構真剣な顔の浩一君。
「おら、流星がええな」と太一君が言う。
「おまん、ドン亀の間違じゃろ」一同の笑い声が、河原にはじけた。
夏空の下の、一点の影もない少年達の宴だった。
さすがに、気温があがってきて、蝉の声がうるさく感じてきた。
「よっしゃ、腹もくちくなったし、泳ぐか!」浩一君が、言うと、
「よしきた!」良さんが、真っ先にTシャツを脱ぎ捨てると、短パンのまま、淵に飛び込んだ。
僕が、どうしていいか躊躇していると、
「貴ちゃん、気持ちええで!」と良さんが、誘う。続いて、浩一君や、慎太君も飛び込む。
「男同士や、フルチンでもええぞ!」浩一君がどなる。さすがに、それは、と思い、レーサージャージを脱ぐと、レーサーパンツのまま、太一君と、飛び込んだ。
後で、革サドルには、サドルカバーをかければいい。
淵は、すごく冷たくて、結構深く、すぐに足がつかなくなった。
でも、さすがは、海の子達だった。泳ぎが達者なのは、すぐわかった。
競争するには、狭いので、皆思い思いに、水と戯れている。
僕は、あおむけに浮かぶと、そのまま、川の流れに身をまかせた。
見上げる空が、青い。
少年の日の空は、いつも青空だ。
さんざん、水と戯れ、すっかり、涼しくなったので、河原にあがった。
冷えた身体に。今度は、夏の日差しが気持ちが良かった。
みんなで、めいめい岩の上に寝そべる。
「不思議なもんやな。ついこの間まで、貴ちゃんのこと、なんも知らんかった。貴ちゃんが旅してこんかったら、一生会わんかったろう。それが、もうずいぶん長いこと友だちだったような気いしとる」
浩一君が、言った。
僕は、何も言わず、彼らの方をみて頷いた。誰もが頷いていた。
この旅は、僕にいろいろなものを与えてくれた。
ほんとうにかけがいのない、いろいろなものを。




