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第33話

次の日、朝食もそこそこに、沙紀ちゃんは、富山市までおかあさんと買い物に出かけた。


なんでも、水着を新調するそうだ。


出がけに、「せっかくおにいちゃんに来てもらっているのに、ごめんなさい。午後には帰ります。夜は、お祭りに一緒に行ってください。」と神妙に言われた。


僕が、「どうぜ、新崎君と走りに行く約束をしているから、大丈夫だよ。」と言うと、

「里美ちゃんと、デートしたら嫌だよ」と言われた。声は冗談っぽかったが、結構目が怖かった。


藍川のおじさんは、この街の町長さんなので、祭りの実行委員長として大忙しだし、おかあさんも婦人会の委員で、夕方から神社に詰めなければならないそうだ。


沙紀ちゃんを見送ってしまうと、ハヤブサを整備して、僕も出かけることにした。


それほど長距離を走るわけでもなさそうなので、フロントバッグは取り付けずに、リアのサドルバッグひとつにした。


外に出ると、相変わらず坂の下に広がる海が朝日を受けてきれいだった。


今日もまた暑くなりそうだ。


もうすっかりお馴染みになった急坂を一気に漁港まで下る。


食堂の前に既に自転車が数台集まっていた。ロードマンから、ジュニアスポーツまで、バラエティに富んでいた。


どれも、リアにバックをつけていた。


僕が、前後のセンタープルブレーキのタイミングを調整して、急制動をかけて止めると、一斉に視線が集まる。


何人かが、「かっこええなぁ!」と声をあげた。


「よう!」奥から、浩一君が顔を出す。


「よく来てくれた。おまんた、東京から来た萩原君だ。同じ中2だが、日本を横断して旅をしてきたそうだ」


「すげーっ!」とか、「ガイだね」とか、大騒ぎになった。


「萩原貴志です。藍川さんのところに泊めてもらっています」というと、


「おまん、藍川の許婚けぇ?」と里美ちゃんが聞いたら卒倒しそうなことを平気で言うやつもいた。


「おら、皆川太一、たあ坊とよんでくんしゃい」


「須藤慎太。慎太でええよ」


「飯塚良吉。りょうさんといわれとります」


僕は、ひとりひとりと握手した。


「みな、自転車の仲間じゃ!」浩一君が笑った。


「それにしも、いかした自転車や。サイスポから抜け出したようだ。初めて見た。こうい

うヤツ」みんな、ハヤブサに興味しんしんだった。


そろそろ、里美ちゃんが現れそうだなと、見回すと。浩一君が、


「里美は、おらんよ。朝一で、魚津まで買い物にいきよった。水着を買いたいそうじゃ。会えなくて残念だと伝えてくれって、何度も言われたわ」と苦笑いしていた。


こうなると、もはや、女の戦いである。正直、明後日の海水浴が恐ろしくなってきた。


「今日は、萩原君をわしらサイクリングクラブの秘密基地へ案内する!」


浩一君が言うと、皆が「おう!」と答えた。なにやら、秘密結社の様相だ。


「海岸に河があるじゃろ。あの河の上流がええ感じのとこなんじゃ。そこへ案内する」


てっきり、海岸線を走るものだと思っていた僕は、ちょっとハヤブサの薄いオープンサイドタイヤが心配になってきた。皆のタイヤは、普通の1と3/8インチ幅のタイヤだ。


42Bとまではいかないにしても、普通にダートは走れる。


こちらは、32mm幅の軽量タイヤ。軽いが、ダートの耐久性はないに等しい。


まあ、いざとなったら担げばいいか。


浩一君を先頭に一斉に走り出す。僕は、皆の後ろをゆっくりとついて行くことにした。


浩一君は、ロードマンのリアキャリアにスポーツバックをくくりけているし、太一君のジュニアスポーツのリアのパニアバックはパンパンに膨らんでいた。


みんななにをそんなに積んでいるのだろうか。


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