第32話
離れに戻って、縁側に腰掛けながら、庭の池を眺めていると、沙紀ちゃんがやってきた。
「おにいちゃん・・・・」沙紀ちゃんが、座敷のふすまのころで立ち尽くしていた。
「お囃子が聞こえるね。明日から、お祭りだから練習しているのかな」
僕が、言うと、沙紀ちゃんは、僕の隣に寄り添うように座った。
「沙紀、気がきかなくて、ごめんね。里美ちゃんみたいに気が付かなくて」
「泊めてもらっているだけでも感謝しているのに、これ以上要求したら罰があたるよ」
「里美ちゃん、きっとおにいちゃんのことが好きなんだよ」沙紀ちゃんが泣きそうな声でつぶやいた。
「僕は、苦手だな。正直言うと」すぐに言葉が出た。
沙紀ちゃんと目が合う。
僕は、沙紀ちゃんの眼をみて、はっきりと言った。
「僕は、沙紀ちゃんに会いに、ここにきたんだ」
沙紀ちゃんのべそかき顔がぱあぁぁと明るくなった。
そして、何も言わずに、僕の胸に顔を押し付けてきた。
僕は、自然に沙紀ちゃんの柔らかい髪を撫でていた。
相変わらず、波の音に混じって途切れずにお囃子が聞こえてくる。
心なしか、虫の音もだいぶにぎやかになってきたようだ。
この海辺の街にも、秋が近づいてきたんだ。
「おにいちゃん、沙紀、眠くなっちゃった。部屋までだっこしていって・・・」
おいおい、思いっきり甘えてきたな。と思ったが、妹がいたらこんな感じなのかな。
「でも、そのスカートじゃまずいんじゃないの」と、僕がためらっていると、
「だっこ!」とほんとうに、沙紀ちゃんが僕の首にすがりついて来た。
僕は、そのまま、沙紀ちゃんをだきあげると、できるだけ、よけいなところを見ないようにして、歩きだした。
沙紀ちゃんは、クスクス笑いながら、「おにいちゃん、気になる?」と言った。
「何が?」
「見てみて、お花のぱ・ん・つ!」その凶悪な破壊力に、目の前がくらくらした。
「悪い子におしおき!」僕は、そのまま、沙紀ちゃんを肩に担ぎあげると、お尻を叩いた。
「きゃーっ!」
居間の方で、沙紀ちゃんのおかあさんの、
「沙紀、もう寝なさい。明日、朝から買い物に行くんでしょ!」という声がした。
「もう、眠いそうです」僕が、怒鳴ると、おかあさんの笑い声がした。
僕は、沙紀ちゃんをそのまま部屋まで担いでいくと、「はいっ、おやすみ」と部屋の前で降ろした。
「ぶぅ!」沙紀ちゃんは不満そうだったが、「おにいちゃん、おやすみなさい」
と、僕のほっぺにいきなりキスすると、ばいばいと手を振った。
やられたのは、僕のほうだった。
今度は、僕が沙紀ちゃんの部屋の前で、立ち尽くす番だった。




