第30話
バスで、漁港に戻ってくると、あちこちにお祭りの提灯の飾りつけがされていた。
「そういえば、この街に大きな神社があったよね。そろそろお祭りなんだ」
「明日から、貴船神社のお祭なの。お兄ちゃん、一緒に行こ!父も母も、夜はお祭りの委員で留守だから」
「うん。何年ぶりかな。」僕は、小さい頃見た、はなやいだ海の街を思い出していた。
もう午後の一番暑い盛りだった。
このまま、丘の上の沙紀ちゃんの家まで歩いて帰るのはちょっと大変なので、僕らは、漁港の傍の食堂に入って休むことにした。
岩場を模したい大きな岩の上に、クロダイやら、アジなどの魚が泳いでいる生簀があった。
そういえば、ここは、よく夏休みに父さんと一緒に来たっけ。
もう昼をとっくにすぎているので、他にお客さんはいなかった。
僕は、サイダー、沙紀ちゃんは、かき氷を頼んだ。
二人で和んでいると、奥から、見たことのある少年が出てきた。朝のサイクリストの少年だった。
「あっ、やっぱりお前だ!」
「やあ!ここの家だったのかい。残念だけど、今は自転車じゃないんだ」
「藍川、お前の親戚だったのか」少年は、沙紀ちゃんを見ていった。
「えっ、知ってるの!」僕は驚いて、沙紀ちゃんを見た。
「里美ちゃんのお兄さん」沙紀ちゃんが氷を口に運ぶ手を止めて言った。
この食堂が里美ちゃんの家だったとは。まったく世の中狭いもんだ。
「新崎浩一、中学2年だ」
「萩原貴志です。同じく中学2年」
そのまま、里美ちゃんのお兄さんは、僕達のテーブルに腰を降ろすと、
「実は、自転車で人に追い抜かされたのは、お前が初めてだ」
「あれは、自転車のせいだ。僕の自転車の方が軽いから坂を登りやすいだけだよ」
「ああいうの、オーダーメードって言うんだろ。一度見せてくれ」
「花火大会が終わるまではいるつもりだから、いつでもどうぞ。藍川さんの家に泊まっている」
そろそろ、またあの二人が現れそうなので、僕は、沙紀ちゃんの分までお金を払うと、食堂を出た。
それにしても、つくづく狭い街だった。
「お兄ちゃん、疲れたよう」
沙紀ちゃんが後ろから甘えた声で言ったが、さすがにここでおんぶするわけにはいかないので、沙紀ちゃんの手を取ると、えっちらおっちら急坂を登って行った。
振り返ると、西日を反射して海が一段とキラキラ輝いていた。ここの夕日は綺麗だったな。
家に戻ると、沙紀ちゃんのお母さんに、
「まあ、まあ、随分と辛抱の良かったこと。岬は、暑くありませんでしたか」と言われた。
「途中で沙紀ちゃんの友だちに会ったので遅くなりました。この街は誰でも知り合いみたいですね」
「狭い町ですから」と沙紀ちゃんのお母さんも笑っていた。
離れでハヤブサをいじっていると、沙紀ちゃんがやってきた。「お風呂入れるよ」
先に、入ったのか着替えていた。
涼しそうな半袖のブラウスだが、下のプリーツのスカートが妙に短めなのが気になる。
縁側に腰掛けている僕のところまで、子犬のように、四つん這いで近づいてくると、上目づかいに、
「ねぇ、おにいちゃん、沙紀をだっこして重くなかった?」
「別に、潮たまりの中をスニーカーで歩かせるわけにはいかないだろ」
「やさしいんだね。いつも・・・」とうれしそうにじっと見つめた。
おいおい・・・そのかっこで、その上目づかいは反則だろ!僕が固まっていると、
「沙紀、新崎さんが見えたわよ!」と沙紀ちゃんのお母さんが玄関で言う声がした。
やれやれ・・・、またこのパターンか。




