第27話
顔を出したばかりの太陽に起こされるかのように目がさめた。
相変わらず遠くから波の音が聞こえる。
僕は今、山の向こうに来ているんだ。
障子をあけると、庭の池に、上ったばかりの夏の太陽がきらきらと反射していた。
僕は、庭に出て、池の傍でたっぷりとストレッチをした。
そして、レーサージャージとパンツに着替え、縁側に立てかけておいたハヤブサを静かに押して屋敷を出た。
高台の屋敷から、太陽を受けて、キラキラ輝く海に向かって、一気に下っていく。
たっぷりと寝たせいか運動神経は完全に目覚めている。スピードがのってきても恐怖感はない。
あっという間に漁港まで下り、海辺の三叉路をオープンサイドタイヤのしなやかなグリップをたよりに、めいっぱいバンクして駆け抜ける。
そのまま海岸線を岬まで走ることにした。
午前5時の海岸線は、車もなく快適そのものだった。
いくつかのアップダウンをこなしていくうちに、これまでの長距離ライドの感覚が戻ってきた。
何しろ、荷物を積まないハヤブサはその名のごとく、滑空しているかのように軽い。
キラキラ輝く、海原を横目で見ながら、ぐんぐん加速していく。
ふと、前方の上り坂の途中にサイクリストが見えた。
こんな時間に走っているのだから、トレーニングの最中なのだろう。
見ると、ロードレーサーとまではいかないまでも、ドロップハンドルだった。
こちらの方が速いので、だんだん距離が知縮まっていく。
あえて、速度を落とすのもなんなので、次の登りで抜くことにした。
坂の手前の下りで、リアを2速にシフトアップして、ダンシングで加速した。
前方のサイクリストが、チラリとことらを振り返る。同じくらいの年頃の少年のようだった。
彼も抜かれまいとして、全力で加速した。下りで並んだが、そのまま、フルスピードで登りに入る。
シフトダウンのタイミングが鍵だ。
僕は、前方の坂を見て、フロントアウターのまま、登れると判断した。
リアを4速に落とすと、全力で高速ダンシングに移った。こういう場合は、車重が軽いほうが有利だ。
ハヤブサは、たちまち相手を抜き去り、そのまま坂を登りきると、再び下りで加速に入った。
僕は、素早くリアをトップに入れて、ぎりぎりまで前傾姿勢をとった。
ぺダリングの高速回転を保ったまま、全力で下っていく。
静かだった海風がうなりをあげる。
長い直線の下りをハヤブサは、一直線に急降下していく。
直付けされたセンタープルブレーキの制動力を信じて、ノーブレーキで次の登りに入る。
再びダンシングに入った時、もう相手のサイクリストは見えなくなっていた。
そのまま、岬の見えるところまで走って、小休止していると、彼がやってきた。
BSのロードマンだった。「こんにちは!」僕は、軽く会釈した。
彼もニコリと笑って会釈すると、自転車を押して近づいてきた。
「すげー自転車だな。ここらへんじゃ見たこともねぇ、しゃれた軽そうなヤツだ」
「東京から旅をしてきたんだ」
「とうきょう!日本を横断して、来たんか。どうりで速いわけじゃ」
「しばらくはこの街に泊まっている。また会ったら今度はいっしょに走ろう」
彼が、うれしそうにニコリと笑った。
「じゃあ、また」
朝食までには、戻りたいので、まだ話したそうな彼を残して、僕は、来た道を引き返した。




