第26話
2階の沙紀ちゃんの部屋のドアを開けたとたんに、沙紀ちゃんが一瞬固まった。
僕が覗き込むと、ピンクのカバーがかかったベッドの上に、子犬の顔がワンポイントプリントされた小さな三角形の洗濯モノが数枚放り出してあった。
沙紀ちゃんは、ベッドに突進していくと、体全体で覆いかぶさるようにしてソレを隠した。
「なんで、パンツしまっといてくれなかったん!」沙紀ちゃんが悲鳴をあげた。
階下で、おかあさんの「自分でしまいなさいって、いつも言ってるでしょ!」という声が聞こえた。
気まずくなった僕は、部屋を離れると、廊下で待つことにした。
すぐに、沙紀ちゃんが出てきて、小声で、
「犬さんパンツばっかりじゃないんだよぅ」とつぶやいた。
そのあと、この前の遠足の写真やら、学校の写真を見ながら、沙紀ちゃんの最近の話を聞いた。
僕からの手紙をクリアファイルに一枚ずつ、丁寧に入れて保存してあるところが、几帳面な沙紀ちゃんらしかった。
6時過ぎに、相川のおじさんも帰ってきて、僕が挨拶すると、
「貴坊、大きくなったな。ほんに、自転車でやって来おりよった。えらいやっちゃな」
と言われた。
夕食は、大きな船に色とりどりの刺身がならんだ宴会になった。
僕が、この旅の話をした。お寺で野宿した話は、ここでも大うけだった。
ワッパ熊さんこと、豪田さんの野宿のスキルは、皆感心した。
「萩原の奴は、この街一番の秀才じゃった。その息子の貴坊も東京でえらくなるにきまっておる。楽しみにしちょるぞ」
ビールで顔を赤くしたおじさんが言った。沙紀ちゃんが、ニコニコしながら隣でうなずいていた。
これは、これから大変だぞ。なんとなくそう思った。
「ほんに、良い食べっぷりじゃ。男の子じゃな」おばあさんが感心して言った。
「さあ、遠慮せずにどんどん召し上がれ。」皆に進められて、僕が半分近く平らげたかもしれなかった。
考えて見れば、昼は、ちゃんと落ち着いて食事をとる暇なかったもんな。
豪勢な夕食を済ますと、沙紀ちゃんと庭に散歩に出た。遠く富山湾の漁火が涼しげに見えた。
「あさってから、貴船神社のお祭りが始まるの。またおにいちゃんといっしょに行けるね」
「あした、久しぶりにいまいが町を走ってみたいな」と言って、沙紀ちゃんが自転車などもっていないことに気が付き、
「じゃあ、バスで岬までいっしょに行こうよ」
「うん、沙紀お弁当作るね」沙紀ちゃんはうれしそうだった。
離れに戻ると、布団が引かれていた。大の字に寝転がると、波の音が聞こえてきた。
「僕は、またここに来ることができたんだ・・・」
目の前に一瞬、昼間見た日本海が浮かんだ、どこまでも広がる青い海だった。
やがて、猛烈な眠気が襲ってきた。
僕は、やり終えた満足感からか、これまでにないほど、安らかな眠りに落ちていった。




