第22話
様々な山野草が咲き乱れる、木陰のベンチに並んで腰掛けながら、高原の風の音を聞いた。
今までの旅とは、全然異質な時間だったが、こういうのも悪くはなかった。
ただ、これは、旅ではなく、レジャーだと思ったが。
「すごいねぇ、国立から走ってきたんだ。日本海まで行くんだって。上田のおじさんが言ってたよ」
「ええ。それをこの夏休みの目標にしてきました。もう少しで達成できそうです」
「ねぇ、お姉さんが相談に乗るから、写真見せなさいよ」
「えっ?何の写真ですか?」
「もう、しらばっくれちゃって。彼女に会いに行くんでしょ」
「どうして・・・知っているんですか・・・」上田のおじさんがそんなことを知っているはずはないし、第一、父さんが、おじさんにそんなこと言うわけもない。
「ひ・み・つ・・・」
なんか、世の中恐ろしく狭い気がしてきて、僕は強引に話題をかえた。
「冬にしか、僕も来たことがないけど、夏の高原はいいですね」
「その彼女と来たいでしょ。ワタシで残念でした」
「いや、とても幸せです。きれいなお姉さまと高原で、デートさせてもらって」
僕は、正直に言った。見つめた栄子さんの顔が少し赤くなった。
「なんか、ちょっと似てる・・・平気でそんなこと言うところ・・」
スキー場の売店で、絵葉書を2枚買った。
宿にもどったら、伸二と千佳子に書くつもりだった。
宿にもどるころには、もうヒヒグラシが鳴いていた。
「ありがとう。モデルになってくれて。結構無理言っちゃったけど、いい写真が撮れたと思うわ」
「こちらこそ、楽しかったです。今まで貧乏旅行でしたから」
ヒュッテに戻ると、おじさんが、
「夕食は、6時くらいでいいですか?それまでに、お風呂にお入りになれますよ」
「はい、そうさせてもらいます。洗濯もしたいので」
客室に戻ると、栄子さんが、部屋から顔を出して言った。
「どっちが先に入る?いっしょでもいいけど」
からかわれているのは、わかったが、「さすがに、そうしましょう」とは、言えなかった。
「お先にどうぞ。レディーファーストです」
「悪いわね。ワタシ時間かかるよ。その代り、ほんとに洗濯してあげる」
レーサージャージとタオルだけ、お願いすることにした。
さすがに、下着とレーサーパンツは自分で洗うことにした。
部屋のデスクに向かって、ヒグラシの声をBGMに、山の向こうに傾いていく太陽を眺めながら手紙を書いた。
ひとつは、伸二に。切り立つ白馬連邦の絵葉書。
伊藤伸二様
前略。
今、北アルプスの山の中にいる。
越えるべき、最後の山だ。
後は、日本海に向かって下るだけだ。
明日には、日本海が見られると思う。
クラスの合同練習に出られなくてすまない。
でも、今回の旅で、ほんとうにいろいろな人と出会うことができたよ。
二学期、クラスのみんなと学園祭がんばりたい。
萩原貴志
もうひとつは、千佳子へ。ラベンダーやコマクサ、エーデルワイスの咲き誇る高原の絵葉書を。
山口千佳子様
今、北アルプスの山の中です。
山また山をいくつも越えて、最後の山です。
もらった子猫には、随分励まされています。
明日には、日本海をこの目で見られそうです。子猫といっしょに。
もう、プールに行くまえに、真っ黒になってしまいました。
それでは、夏の終わりに。
萩原貴志




