第18話
街中の中山道を「松本」の標識に従って進んでいく。市街地を出ると、また典型的な登りが始まった。
西側が山側なので、モロに午後の西日を受けなくてよいのがまだ助かる。
広い二車線の国道をゆっくりと登っていく。さすがに疲れを感じてきた。
豪田さんも無言だった。
やがて、「この先200m登坂車線終わり」の標識が見えてきた。
峠の頂上も近い。
温存しておいた、リア24Tのローギアにチェンジし、ぺダリングを早めて回転をあげる。
ほどなくして、「岡谷市 ここは標高1020m」の標識が見えてきた。
とうとう塩尻峠を越えたのだった。意外とあっけなかった。
路肩に腰をおろし、通り過ぎるマイカーを後目に、豪田さんとボトルの水で乾杯した。
後は、松本市に向かって下るだけだった。
「松本の手前でお待ちしています。」道は広く、文句なかった。
この時ばかりは、先に行かせてもらった。
「ヒャッホウゥゥ!」フロントギアをアウターに戻し、リアをトップに入れると、ウォルバースーパーランドナータイヤのグリップにこの身を預けて、僕は、めいっぱい速度を上げて下っていった。
やっと陰りが出てきた夏の夕日を浴びて、快調に下っていくうちに、すぐに松本市内に入った。
国道が交わるところで豪田さんを待つ。豪田さんもほどなくしてやってきた。
「さて、そろそろ今夜のネグラを探さなきゃならん。君は北アルプスを越えて、日本海に出るわけだから、大糸線沿いを登っていくわけだな。さすがにこの時間から山越えとはいかんじゃろ」
「豪田さんは、どちらの方面へ」
「まあ、松本まで来たことだし、木曽路に入って、関西方面に行くか。ほどなくして秋になる。北は寒いだろうからな。」
ふと、夕日に照らされた豪田さん横顔が、さみしそうに見えた。
「ええわい。県道147号線の途中に山寺がある。かよいの住職さんで、夜は無人じゃ」
「なんで知っているんですか?」
「一度、泊まってるからじゃ。その代り、朝、境内の掃除を仰せつかってな。それで警察に突き出されないですんだ」
「・・・・・・大丈夫ですか?」
「ちゃんと事前に断るきに。さて、そうと決まったら、晩飯の支度だな。君は食べ物の好き嫌いはないな」
豪田さんは、そういうと、町のスーパーにはいっていった。
そして、食材とともに、段ボール箱と新聞紙の束をもってきた。
「ちょっとかさばるが、今夜のねぐらじゃ。段ボールは畳んで積むから、君は新聞紙を運びたまえ」
「はあ・・・?」
僕は、背中に予備のザック背負うと、その中に新聞紙を詰めこめるだけ詰め込んだ。
県道に入ると、遅い夏の夕暮が、名物のわさび漬けの看板を照らしていた。
西日を浴びながら、だんだん人家が少なくなっていく街道を走る。
「たしかこのあたりだったが」
豪田さんは、そのはずれ近くの一軒に入っていくと、
「ご無沙汰しております。また、境内の掃除をしに立ち寄らせてもらいました」
と玄関で大声をあげた。僕は、はらはらしていたが、意外とやさしそうな住職さんで、豪田さんのことを覚えていた。
こうして、僕達は、晴れて今夜の宿を確保することができたのだった。




