第16話
朝食のアナウンスで目が覚めた。窓の外を見ると、文句なしの夏空だった。
今日も暑くなりそうだ。
「少年、目覚めたか」豪田さんは、ベッドに腰かけて、既に荷物をまとめていた。
「すいません。寝込んでいました」
「どうせ、君も朝食抜きの口だから、起こすのも悪いと思ってな」
「すぐ、支度します」
「まあ、急ぐ旅でもないし、のんびり行くべぇ」豪田さんは、くったくがなかった。
ペアレントさんや、ワンダーフォーゲルのお姉さん達に見送られて、ユースを後にした。
まず、諏訪湖を目指して、入道雲の沸き立つ夏空の下、笛吹川に沿って一路北北西へ進む。
自分でも驚くくらいペダルが軽かった。それにも増して、本当に、ハヤブサが体の一部になった気がした。
富士見峠に入る前に、作ってもらったおにぎりを豪田さんと分け合って腹ごしらえをした。
まだ、ボトルの水もぬるくなっておらず、おいしかった。
「すまんのぉ」豪田さんは、ほんとうにすまなそうに代わりにビスケットを差し出した。
これが、彼の朝食らしかった。
「諏訪湖についたら奢ったるからね」
「楽しみにしています」
韮崎を過ぎれば、もう長野県だ。
ほどなくして、今日最初の難所である富士見峠の登りが始まった。
「はやい、速すぎる、待ってくれぇ!」豪田さんが、何度も悲鳴をあげた。
「今止まったら、もう登れなくなりそうです。峠の頂上でお待ちしています!」
豪田さんの手前、そう言ったが、だらだらと長い登りが続いて行く。
フロントインナーのまま、リアをこまめに変速をして、力まずにペダルを回していく。
夏の朝の風が気持ちいい。不思議と疲れを感じなかった。
気がついたら、ドライブインらしき建物が見えてきて、「富士見峠」と標識が見えた。
どうやらそこが峠の頂上らしかった。
駐車スペースに、バイクの集団が小休止していた。
僕も、小休止してここで、豪田さんを待つことにした。
待つこと10分以上、今にも倒れそうなペースで豪田さんが見えた。
僕は、道路に出て、手をふった。
「ここが、頂上です。がんばれ!」
「君は、レーサーか。確かに軽そうなマシンだが、それにしても速い」
豪田さんは、肩で息を弾ませながらぼやいた。
「すいません。キャンピング車と走っていることを考えていませんでした。これからのんびり行きます」
「いや、君の足でまといには、なりたくない。諏訪湖の手前で待っていてくれればいい」
「それでは、道連れの意味がありません。豪田さんこそ、自分のペースで走ってください。僕が、ついていきます」
豪田さんは、にやりと笑うと、
「じゃあ、亀について来たまえ。いや、熊のつもりだが」
前後左右を山々に囲まれたような国道をドロップハンドルのブレーキレバーに手を添えて、のんびり下って行く。
車もそれほど多くなく、気を遣うほどでもない。
このペースでも、午前中には、諏訪湖に着けそうだ。




