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ハーレム主人公がいる文化祭準備


 六時間目総合の時間、二年二組は六月にある文化祭に向けて出し物の準備をしていた。まあ、準備と言ってもまだ何をするか決まっただけで今は内装などをどうするか決めている途中なのだが……ああ、ちなみに俺たちの出し物は執事喫茶だ。理由は……まあ、神崎蓮とだけ言っておけば分かるだろう。女子全員が手を挙げていたのは壮観だった。

 それと、この学校の文化祭について説明しておくと文化祭の期間は2日間で、三年は受験があるので文化祭の飾りを作り、一年は自分たちで一から劇をつくってする。そして、俺たち二年はお化け屋敷や喫茶店などの出し物をするのだ。

 

「それで、テーブルとか椅子はどうするんだ。予算のニ万円じゃ足りねえよな」


 文化祭実行委員である川崎が中心となって男子の中で話しあう。さすが会長なだけあって人をまとめるのが上手い。

 あと、当たり前かもしれないが学校から貰った予算ニ万円を使い切っても、生徒の自費で必要なものを買うことは出来る。だが、誰だってお金を徴収されるのは嫌なので、もし徴収されることになるとしても全員から300円ほど集めるのがせいぜいだろう。


「俺達が使ってる机とテーブルじゃダメなの?文化祭なんだしオシャレなテーブルとか置いてたら逆に味気ないかもよ」


 慎哉がそう意見した。他の男子も頷いたり、いいかもな、なんて話したりしている。さっきから聞いていると、川崎と慎哉が議論を円滑に進めていて、この二人相性がいいんじゃないかと思わざるを得ない。まるでボスと参謀だ。いや、川崎の参謀はあの眼鏡の奴……えーっと…そうだ進藤百!あいつがいるから無理だな。

 執事喫茶にそこまで興味を持てなかった俺はそんなことを考えながら少し離れた場所で話し合いが終わるのを待つ。その途中、慎哉がチラチラと俺を見てきたが何も言ってこなかったのはきっと優しさだろう。もし役に立たないと見限られていたのだとすると悲しい。


 話し合いが終わったのか川崎はシャーペンを机に置き、メモをしていた紙を持って教卓付近にいた女子たちの方へ行った。何人か川崎の友達だろう男子が着いて行く。お互いの意見をすり合わせて出来るだけ予算内で何を買うのかを決めているようだ。


「慎哉、結局どんなのに決まったんだ?」


 暇になった、いやずっと暇だった俺は適当な話題で慎哉に話しかける。


「浩介、ずっと聞いてたんじゃないの……」


 慎哉は話し合いに疲れたのか椅子に座って、呆れたような口調でそう言ってくる。さすがに適当すぎたか……でもまあ、ちゃんと慎哉は教えてくれるからいいか。


「小物だよ、それも数百円ぐらいで買えるやつ。全部合わせても四千円もいかないんじゃないかな。テーブルとかの大きいものは高すぎるし、カップとかお皿とかは俺達の家にあるものを持ってくることになったから」


「ん?でもそれじゃあ残りの予算はどうなるんだ?一万六千円近く余るってことだよな」


 俺はそう慎哉に尋ねる。慎哉は俺がそう言うのは分かっていたかのように流暢に喋り始めた。


「女子の意見も聞かなきゃでしょ。だから、女子と男子の買いたいものを合わせると予算がオーバーしちゃう!ってときのために安い値段で、なくても執事喫茶として最低限言えるものにしたんだよ。余らせたってこと。それに絶対衣装とか料理とかにこだわってとんでもない値段になると思ったからね」


「なるほどな」


 そう慎哉に向かって呟く。チラリと川崎の方を見るとまだ話しあっているらしい。議論が白熱しているのが今俺が座っている席、後ろのドアから一番近い席からでも分かる。

 これは長くなりそうだな。なんて思いながらあくびをしていると清水がこちらに来て話しかけてきた。


「僕も君達と話していいかい?」


「当たり前だろ。なあ」


 俺は慎哉に顔を向けて確認をとった。まあこれらはアピールみたいなもので俺も清水もokしてくれることは分かっている。


「うん、清水さんなら大歓迎だよ」


 そう慎哉が言って清水も雑談に参加する。だが、清水は周りにあるのが人の席だからか座ろうとしない。慎哉ですら断りも入れずに勝手に座っているというのに。こういうところ清水は真面目だ。


「それで、女子達はどういうものを買うことに決めたの?」


 少し考える仕草を見せてから清水は話し出した。


「聞いてただけだから間違っている所もあるかもしれないけど……確か、執事の服装だけで一万八千円近く予算を使うことになっていたはずだよ」


 聞いてただけだと、まさか清水も俺と同じでサボってたのか。そのことに気づいた俺は一人じゃなかったんだ、と少し感じていたちゃんと聞かずに大丈夫だろうかという心配がなくなり、嬉しくなる。

 だが、どうして清水は聞いていただけだったんだ?そんな疑問が新たに生まれた。慎哉が、だからあんなに議論が白熱してるんだね……なんて遠い目をしながら呟いているがそれに対して何も言わずに、清水に質問する。


「どうして何も言わなかったんだ?いつもの清水ならそんな予算ギリギリのものにするなんて決定、何か言って変えさせたと思うんだが」


 そう言うと慎哉が確かにという風に頷く。清水は多分その理由を言っておくべきなのか迷っている。手を顎に持ってきて考えていたが、俺たちを見てどうするのか決まったようだ。

 清水はゆっくりと口を開いた。


「意外かもしれないけど、僕は友達が少ないんだよ」


 急に何を言い出したんだ?俺は頭を傾けてそう思っているということを清水に伝える。それを見た清水は左手でどうどう、と動物を落ち着かせるようにしてきた。

 こういう所がいない原因なんじゃないか。それに、教室で美桃以外の女子と話してる所見たことないから全然意外じゃないぞ。

 そう言いたくなったが抑える。ここで話をこんがらがらせるのはやめておいた方がいいと思ったからだ。


「それで、前に神崎くんが女子生徒を振ってまわっていると話したことは覚えているかい」


 俺たちは頷く。約一カ月前のことだが印象深かったのではっきりと覚えている。


「今もまだ神崎くんに振られていないのは神崎くんに話しかけたことがない生徒、咲、そして僕だけなんだ。だから振られてしまった女子から憎まれていてね。咲はもともと社交的で友達も多い人気ものだったから大丈夫だったようだけれど……」


 そう言われて俺は美桃を探す。美桃は友達と一緒に楽しそうに笑いあっていた。確かに美桃は大丈夫そうだ


「僕は徹底的に無視されていてね。まぁ、一種のいじめのようなものさ。だから参加出来なかったし何も言えなかったんだよ。……ああ、咲には対象になるかもしれないから僕と関わらない方がいいと言っているから安心して——」


「人の心配じゃなくて自分の心配をしてくれ、清水は大丈夫なのか?」


 俺は立ち上がって清水の肩を掴みながら、今度は抑えきれずに言ってしまった。清水も驚いた顔をしている。いや、清水を心配しないなんてこと絶対無理だったんだからよく持った方だろう。俺はごめんな、と言って肩から手を離した。


「あ、ああ。大丈夫だよ、君達がいるからね。話し相手には困らないんだよ。……それにしてもここまで心配してくれるなんてね」


 それを聞いて安堵の息を漏らした。そして、清水の目を見て俺は微笑みながら、いや、俺には似つかわしくない優しい笑みを浮かべながら言う。


「当たり前だろ。こんなこと言ったらあれかもだけど俺は美桃より清水の方が大事って思ってるからな。それと、もし辛かったら俺たちに言えよ。話し相手ぐらいにはなるから」


———やっぱり、俺には似合ってなかったか。恥ずかしすぎる!勢いに任せて言うんじゃなかった!清水も聞いて恥ずかしくなったんだろうか、そっぽを向いている。その耳は真っ赤だ。やっぱり慣れないことはするもんじゃないな。


「羨ましいなー浩介。さらっとそんなセリフを言えてさ」


「バカにすんなよ。俺だって恥ずかしいんだぞ!」


 俺がそう反応すると慎哉はバカになんてしてないよ、なんてにやけながら言ってきた。

 そう言うならせめてにやけるのをやめろよ、嘘だってバレバレだぞ。

 恥ずかしさを誤魔化すために内心でツッコむ。——うん、大分マシになった。清水もどうやら落ち着いたらしい、赤みが引いている。


「買うものが決まったから集まってくれ!」


 そうこうしていると川崎からそう伝えられた。俺たちは話をやめて教卓の周りに集まる。左に女子が右に男子が集まっているようだ。イレギュラーは俺の隣にいる清水と女子たちに囲まれている蓮だけらしい。

 川崎、それと文化祭実行委員であり学級委員長の女子……名前は忘れたから委員長と呼ぶが、委員長が教壇に立つ。そして、川崎が買うものが書いてある紙を持ちながら言った。


「俺たちのクラスは予算の全てを執事服に使うことになった!」


 そう言って紙を教卓に乗せる。確かにそこにはスマホで調べたであろう値段が書かれている場所の横に執事服と大きく書かれていた。


「おかしくないか」「さすがに執事服だけはやばくね」「客に提供する飲み物とかはどうするんだ」「俺たちの話し合いはなんだったんだよ」


 これには男子たちも不満が出たようで、川崎に対してそういう風に言う。だが、川崎は落ち着けって!と場を鎮め、話し出す。


「確かに、不満を言いたくなる気持ちもよーく分かる。俺も始めはそうだった、だけど俺は女子達の言葉に納得してこうすることを選んだんだ。だから、お前らも俺の話を聞いて欲しい」


 川崎は一呼吸して、続きを言った。


「お前ら、執事喫茶で一番大事なものはなんだと思う?正解は執事だ!客は美味しい飲み物を飲みたい訳でも、お洒落な空間で一息つけたい訳でもねえ!客はカッコいい執事を見に来てんだよ!そして何よりな、俺たちがいい執事服を着て接客すると——惚れてくれる女(ひと)が出てくるかもしれないんだぞ!!文化祭は神崎蓮を知らねえやつらがくるんだからな!」


 そんな川崎の言葉に男子たちは……


「た、確かに」「やっぱ、執事服だけでいいよな!」「俺たちの話し合いなんか意味なかったんだよ」「文化祭が楽しみになってきたああ!」


 さっきまでの不満はなんだったのか鮮やかに手のひらを返していた。

 全く……でも、待てよ美桃が俺に惚れてくれるかもしれないのか…………やっぱり執事喫茶は最高だな!


「浩介、今あの男子達と同じようなこと考えてない?」


「そ、そんなことないぞ」


 いつものことながら慎哉は察しが良すぎる。でも隠す必要なかったか?……いや、慎哉に揶揄われる材料を渡せないな。誤魔化したのはナイス判断だ。

 そんなことを考えていると、清水が俺を凝視してきた。いったいどうしたんだ。


「藍沢くん、本当かい?」


「ち、違うから。そんなこと考える訳ないだろ」


 何故か揶揄ってくる慎哉より清水の方がバレたらまずいような気がしてくる。俺は冷や汗をかきながら慎重に誤魔化した。


「僕、慎哉くんのことは大分信用しているんだよね」


 だが、誤魔化しきれなかったらしい。ヤバイと思いながらも誤魔化すことはやめない。というかやめられなかった。


「お、俺のことは信用してないのか?俺がそんなことを考えない奴だってことは知ってるだろ」


「信用しているよ。藍沢くんの何かがバレそうになったときの往生際の悪さをね」


 そう言いながらまだ俺のことを凝視している。やっぱり何か嫌な予感がする。そう思った俺は慎哉に助けを求めて視線を向けた。だが慎哉は気づいてないふりをして川崎たちと話している。なんて薄情な奴なんだ。


「それで、答えてもらおうか」


 そう詰められる。誤魔化しきるのは無理だな。そう判断した俺は出来るだけ怒られないように注意して話した。


「執事服を着たら美桃が惚れてくれないかなあって思ってました」

 

「そう、……藍沢くん。君、さっき咲より僕の方が大事だって言ってたよね。嘘だったのかい?」


 清水がそう尋ねてくる。きちんと言ったというのに圧はさらに強まったように感じた。


「いや、嘘じゃないけど……そもそも、清水の方が大事なことと美桃に惚れられたいことは関係ないだろ」


「くっ」


 清水を言い負かした。いや、実質清水の自爆みたいなものだったんだけどな。あんな穴だらけの論理を使うなんて、大丈夫だって言ってたが本当は精神的に辛かったのか?

 そう心配していたが、さっきまで元気そうだったことと、慎哉が俺を見捨てた事を思い出したことから俺は慎哉に話しかけに行った。


「おい、慎哉。よくも俺を見捨て——」


「浩介、これ見てくれ!」


 俺が慎哉の肩を叩いて話しかけると、何やら興奮した様子の慎哉が紙を見せてきた。その紙はさっきの執事服の値段が書いているものだった。何を見せたいんだ?と思って慎哉の顔を見ると慎哉はここだよここ、と人差し指で指す。


 そこには『執事服は予算の都合上五着のみで身長175cmから160cmの人が着れるサイズのものになります』と書かれていた。

 慎哉が俺の肩に手を置いてくる。


「つまり、浩介は執事になれないってことだね」


「そ、そんなバカなああ!」


 俺は教卓に両手をつき、項垂れる。教室には絶望した俺の叫び声がこだましていた。

 

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