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ハーレム主人公の後輩


 五月の中頃、妹の結依と登校していると後ろから慎哉が走ってきた。


「おはよう二人ともー」


 そう言って、鬱陶しくなるほど手を振っている。俺は右手を挙げて同じようにおはよう、と挨拶をした。結依はいえ〜い、とピースをして、慎哉もそれに返すように笑って両手でピースをする。慎哉はそのまま自然に俺の隣に陣取って、共に歩いていく。


 この挨拶の一幕でも分かるように、どうやら慎哉と結依の仲は非常に深まっているらしい。それに清水とも。美桃の誕生日の放課後、四人で下校していると、いきなり結依が二人のことをさん付けで呼んだときは驚いた。まあ、兄として妹が友達と仲を深めることは喜ばしいことなんだが……どうしてそこまで仲良くなったのか誰も話してくれないのはおかしいと思う。


 そんなことを考えていると結依と慎哉が話し始めた。


「慎哉さんがこの時間に登校するなんて珍しいですね〜」


「たまたま寝坊しちゃったんだよ。いつもは教室に一番乗りなんだけど」


 慎哉はそう言って肩を落とす。それを苦笑いしながら見ていると、ところで、と慎哉が俺の方を見て言う。


「浩介は今日の放課後予定ある?」


「ないが……何かするのか?」


 結依とアイコンタクトをした後、うん、と頷いて慎哉は話しだす。


「二年の男子達が中心として『神崎蓮を監視する会』っていうのが組織されてるんだけど、今日放課後に近くのビッフェで集まるみたいなんだ。ここまでだと普通の話なんだけど、結依ちゃんの友達の男子生徒だけが強制的にそれに参加しないといけないらしくてね。その友達に何か危ないことがないようにって結依ちゃんに相談されて俺がそこに参加するってことになっているんだけど……もしよかったら浩介も一緒にいかない?」


 情報量が多くて圧倒されてしまう。いや、大体は分かったんだけど……それにしてもツッコミたい所が大分あるんだよな…………はあ

 そうやってため息をついて面倒くさいという気持ちを入れ替える。


「行くかどうか決める前に、気になった所を聞いていいか?」


 慎哉はもちろん、と言いながら親指を立てた。


「まず、『神崎蓮を監視する会』ってなんだよ。何する所なんだ?」


 最初に一番気になる所を聞くと、慎哉ではなく無言で話を聞いていた結依が手を挙げて答える。


「それは私が答えよ〜う。その友達に聞いた話では蓮さんの周りで起こる危険な事件を防ぐことを目的にしてるらしいよ」


 そんなことをしている奴は見たことないんだが……まあ俺が蓮を避けてるからか。そう納得して次の質問を考える。うーん、何で結依は俺に相談しなかったんだって聞くのはちょっとな……聞きたいけど、そう言って困らせるのは嫌だ。だったら——


「ビッフェって予約とかしてるのか?」


「えーっと、どうだったっけ結依ちゃん」


 慎哉も分からなかったのか結依に聞く。結依はふふん、と口角を上げて教えてくれた。


「うん、確か個室で三十人くらい予約をとってるらしいよ〜、佐藤くんがそう言ってた」


 どうやらその佐藤くんというのが結依の友達ということらしい。まあ、そこらへんの事は後で聞くとして今は予約についてだ


「予約してるならもう俺は参加できないんじゃないか?」


「いやいや、そこはちゃんと俺が頼んで二人分余分に予約してもらってるから心配しなくて大丈夫だよ。あ、もし浩介がいかないなら俺の友達を誘ってその分は埋めるから」


 なるほど……そこらへんはきちんとしてるんだな。まあ、慎哉が一枚噛んでいる時点でそうなんじゃないかって思ってはいたが。

 そうやって話しながら俺たちは左に曲がる。少し先に校門が見えた。

 さて、気になる所は大体聞けたか……


「それで、結局どうするの?」


 考え込んでいると、もう高校が近いからか慎哉が尋ねてきた。結依も興味深々という風に俺を見てくる。


「分かった、俺も行くよ。どうせ暇だし、面白そうだしな」


 俺がそう言ってから一泊置いて二人は顔を見合わし、いえーい、とハイタッチをした。






 放課後、俺は下駄箱で慎哉と共に結依の友達である佐藤を待っていた。昼休みに結依から佐藤くんには事情を伝えておくから一緒に行って、と言われたからだ。


「そういえば、清水さんは神崎と一緒に帰るらしいよ。あ、ちなみに美桃さんは友達と帰ってたね」


「なるほどなあ」


 人間として小さいかもしれないが、美桃が蓮と下校しなかったということを聞いただけで嬉しくなる。そのせいで上がった口角を隠すためにいじっていたスマホを顔に近づけた。だが、慎哉にはバレていたようでわっかりやすいなー、と両手を頭の後ろにつけながら言われた。

 ちなみに、清水には慎哉が休み時間に事情を説明してくれた。そのときは俺たちと下校できないことを残念がってたが、それで蓮と下校するなんて本当に仲が良かったらしい。いや、まあ別に疑ってたりはしていないが。


 そんな風に適当に雑談していると身長160cmほどの男子生徒が俺たちの方に近づいてきた。


「初めまして佐藤翔と言います。今日はよろしくお願いします」


「こちらこそ初めまして、藍沢浩介って言います」


「初めまして、森慎哉です。よろしくねー」


 そうやって順番で挨拶をする。それにしても、俺は初対面の人には後輩でも敬語になってしまうんだが慎哉はすごいな、握手までしてる。いや、身長でシンパシーを感じているだけか……別に低くてもいい気がするけどな。言ったら怒られるから言わないけど

 ひとまず、佐藤が靴を履くのを待ち三人でビッフェ会場に行く。その途中で慎哉と決めた通り結依から聞いても分からなかったこと、聞けなかったことを質問し始める。


「えっと佐藤、いきなりで悪いけど質問してもいいか?」


「はい!何でも聞いてください藍沢先輩」


 佐藤がこっちをすごい見てくる。なんかとんでもなく尊敬というか期待されている様な気がする。いったい結依は俺のことをどう伝えたんだ。


「えーっと、妹の結依とは友達なんだよな」


「はい、お世話になってます」


「どうやって友達になったとか聞いてもいいか?蓮…すごいモテてる奴がいるだろ、そいつがいるのに女子と友達になるなんて珍しいなって思ってさ」


 この質問は結依にしたかったんだが、踏み込み過ぎな気がして出来なかったんだよな。でも、あんなに圧が強いというか何でも答えてくれそうな佐藤ならしてもいい気がする。でも、まあ不機嫌にさせてしまったのなら謝るが。


「うーん、どうやってって言われても困るっすね。普通に友達になったって感じなので……」


「普通?」


「はい、席が隣だったので話してるうちに友達に…っていう感じです。あっでも女子の友達がいる人は少ないですね。藍沢さんは違いますけど大体の女子が神崎先輩一筋って感じだから取っ付きにくいんだと思います。クラスで高校からの女子の友達がいる人は俺だけですもん」


 なるほど、一年も二年と大体同じ状況なのか……だったら美桃や清水の様に結依も男子と友達になれる女子だったからってことなのか?

 俺が考えている間に慎哉が佐藤に話しかける。他の質問をするつもりなのだろう。


「佐藤くん、結依ちゃんと浩介でわかりにくいから浩介の方を浩介先輩って呼べば?俺のことも慎哉先輩でいいよー」


 と思ったら呼び方の話か。さらに、慎哉がそれでいい?と尋ねてくる。まあ俺も少し気になってたしその呼び方でいいぞ、と頷くことで肯定しておく。すると、佐藤がありがとうございます!と頭を下げてきた。さっきから思ってたがthe後輩!みたいな奴だな。


「それで、最後にもう一つ質問があるんだよね」


 そう慎哉が言う。佐藤はさっき俺にしたみたいになんですか慎哉先輩、とキラキラした目で慎哉に言った。慎哉も少し聞きづらそうだ。だが、意を決して質問した。


「佐藤くん、何で『神崎蓮を監視する会』の会員の中で君だけ強制的に参加しないといけないのか心当たりはある?」


 そう尋ねられた佐藤は言葉に詰まる。やっぱり何かあるのか?慎哉もそう感じたのか佐藤の顔を凝視して答えを待っている。そうして数十秒経った後、佐藤が口を開いた。


「俺、最近彼女が出来たんです。多分、そのせいかと」


「それは、まずいね……最悪命を覚悟しておいた方がいいかもしれない」


 慎哉も佐藤もとんでもなくシリアスな雰囲気で話を進める。だが、俺は納得できない。


「いやいや、確かに彼女が出来たのはすごいけどさ、そこまでのものじゃないだろ。さすがに命までは……」


「甘いよ、浩介」


 俺が喋りきる前に慎哉が真剣な顔で否定する。……うん、これ慎哉はふざけてるな


「普通の高校でも彼女が出来たことがバレたらクラスの男子全員が拘束してくるんだよ、うちの高校でバレてしまったら……最低でも監禁くらいはしてくる可能性がある」


「そんなことあるわけない。というか、お前が言ってる普通の高校ってアニメで出てくるようなやつじゃないのか、普通は拘束なんてされないだろ」


「い、いえ。もしかしたら本当にあるかもしれないです」


 そうやって佐藤が心底恐ろしいという風にほんの少し震えながら言い出す。それを見ると、本当かもと思ってしまうから恐ろしい。


「そもそも『神崎蓮を監視する会』は彼女が欲しかった会長とその友達がモテる秘訣を探るため神崎先輩をストーカーしていた所から始まったんです」


 そうやって、シリアスな顔で佐藤はツッコミどころしかない話を始めた。


「ちょっと待ってくれ、それ本当の話なのか?」


「はい、その創立メンバー全員から話を聞いて全員大体同じような話をしてくれたので間違いないと思います」


 嘘であって欲しかったなあ。というか、結依は佐藤から『神崎蓮を監視する会』は女性を危険から守る会って教えてもらったと言っていたが、佐藤が嘘をつくとは思えないし、どうやってここからそんな高尚な目的を得たんだ。


「それで、一カ月ぐらいストーキングしていた会長たちは神崎先輩の周りでは危険なことが起こると気づいたんです。そこから、神崎先輩のように女性をピンチから救えば彼女が出来るのではないかと思った会長たちは神崎先輩をまたストーキングすることに決めました。そしてある日のこと、いつものようにストーキングしていた会長は酔っ払いに絡まれていた女性を助けたんです。まあ、彼女にはならなかったそうですけど。でも、そのとき会長たちは神崎先輩にバレたらしいです。ヤバイと思った会長たちでしたが、神崎先輩は許してくれました。そして、自分の周りの女性たちを守ってほしいと会長たちにお願いをして、会長たちも了承。そこから彼女が欲しい男たちが会員になってゆき、今の形になったわけです」


 なるほど、なるほどな……


「慎哉、纏めてくれ」


「つまり、『神崎蓮を監視する会』は神崎と男子達のお互いの望みを叶えるために発足したっていうことかな。人を守りたい、モテたい、この二つを叶えるために」


 うん、大分分かりやすくなったな。それに、佐藤が何であんなにビビってるのかも少しは分かった。それにしてもビビり過ぎな気が……いや、まさか


「なあ佐藤、会員で彼女がいるのって何人くらいなんだ」


「俺だけです……だから怖いんですよぉ、それに彼女も会の活動で助けた人ですし」


 あー、そりゃやばいわ。

 やっと事態の恐ろしさを知った俺と慎哉は俯いている佐藤に安心しろだとか、なんとかなるってのような軽い言葉しかかけることが出来きず、三人とも重い足取りで進んでいった。





 ビッフェ会場の中に入ると奥に制服姿の生徒が見えた。ガラスで区切られた長方形の個室に大きなテーブルが三つ置かれている。そこにドリンクや食べ物を置いて座っている。俺たちも恐る恐る個室に向かうとトイレに行っていたのか後ろから会員と思わしき男子生徒が声をかけてきた。


「おー、佐藤、森、あと藍沢じゃねえか」


 彼は確か川崎……宗治という名前だったはず、そして俺と同じ二年二組のクラスメイトだ。よく見ると他の生徒もほとんどが二年で2、3人一年がいるくらいだということに気づく。

 笑いあっている会員たちを見ていると佐藤がいきなり頭を下げた。


「か、会長。遅くなってすいません」


 こいつが会長!?まさかクラスメイトにストーキング野郎がいたなんて…

 

「別に遅れたわけじゃねえんだから大丈夫だって、俺達が早く着いただけなんだからよ。それに、わざわざ謝るなんて人間ができてるじゃねえか、お前ならいつか会長にもなれるかもしれないぜ」


 カ、カッコいい、そう思わせるほどのカリスマだった。なんて男なんだ川崎…

 そんな風に感動しているとドアが開かれ個室から眼鏡の長身の男子が出てくる。


「またか、いつも言ってるだろう。後輩に先輩風を吹かせるな、と」


「あー、わりぃわりぃ」


 そういいながら、川崎は頭を掻く。ん?そう疑問に思った俺は素直に慎哉に聞く。


「慎哉、どういうことだ?」


「さっきのセリフは芝居みたいなものだってことでしょ。教室での川崎の言動とか覚えてないの?」


 そういえば、そうだった。川崎はそんなカッコいいセリフを自然に言う様な奴じゃなかった。慎哉が呆れた様に俺を見てくる。俺はそれを無視して次の質問をした。


「じゃ、じゃあ、あの眼鏡の人は誰なんだ?」


「……あの人は二年四組の進藤百だよ。真面目な堅物って感じで有名なんだけど」


 まあ、この会に入ってる時点でな……


「では、中に入ってくれ。好きな場所に座ってくれて構わない」


 会話が終わったタイミングで進藤にそう言われて俺たちは入った。というか、好きな場所に座っていいと言われたけどそもそも空いている席が左の机の端から三つしかないんだけど……地面に座ってもいいって言ってるのか?

 そんなことを考えながらその空いている席に座る。俺が左端で真ん中が慎哉、右が佐藤だ。佐藤は左端がいいですって言っていたがまあ仕方ない、主役だからな。それに、この空気感じゃ佐藤が不安に思っていることも起こらないだろう。


「よーし、みんな座ったな!」


 川崎が俺たちが座っているテーブルの前で全員に聞こえるよう大声で話す。後ろにいる佐藤は青い顔をしているが、見て見ぬ振りをしているのか、本当に気づいていないのか、そのままジンジャーエールが注がれているコップを掲げて言う。


「では、佐藤に彼女が出来たことを記念して!乾杯!!」


『かんぱーい!!』


「へ?」


 盛り上がっていくこの場に佐藤の安堵と困惑の混じった声が溶けていった。





 結局杞憂だったなあと、もみくちゃにされながら楽しそうに笑っている佐藤を見ながらそう思う。俺たちがここに着いてもう一時間近く経ったが、危険なことなんか起こらなかった。まあ、最初の方は嫉妬や怒りでだる絡みしてきた奴らもいたが、もうスッキリしたのか今ではどうやって彼女をつくったのか質問している。でも普通はこんなもんだよな。

 そんなことを考えながら、取ってきた料理を食べ終えて慎哉に話しかける。


「じゃあそろそろ帰るか。あ、結依に大丈夫だったって連絡しないと……」


「俺がもうしたから大丈夫だよ。ほら」


 そう言ってスマホの画面を見せてくる。確かに、結依に連絡がされていた。だが、俺の目を引いたのはそこじゃない。結依が『ありがと♡』という文章を送っているのだ。


「どうやってお前らそこまで仲良くなったんだよ」


「はは〜、企業秘密さ」


「結依の真似して誤魔化すな。俺をからかうために結依が送ってきただけだろ」


 バレたかという風に慎哉は笑う。俺も呆れたように笑い、佐藤を尻目に一足先にビッフェ会場から出ていった。

 


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