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第9話 祖国

「二人の物語……?」


「うふふ、私、本当はもっと自由に生きたかったの。聖女様って慕われるのは嬉しかったけど……もっと、普通の女の子らしく、友達と楽しくお茶したり、恋のお話をしたり。そして話すだけじゃなくて、実際に素敵な男性に……恋をしたり……」


 少し恥じらうような表情で、視線を落とすフェリエ様は、普通のかわいい女の子に見えた。


「そんなこと思いながら、死にゆく自分を見つめていたからなのか……息を引き取る時、女神さまのお声を聞くことができたの。【次の世代(じのせだい)】に転魂する前に、思う通り自由に生きなさいって……」


 すごい、リヴィアと同じだ。やはり聖騎士と聖女……信心深く、教義に忠実に生きていたからだろう……と思っていたら。


「でも、私の魂が入ろうとした、転魂先の身体が、その、本当に失礼なのだけれど――――冴えないおっさんだったの!! いや、これじゃあ、()()()()には生きられないって! ……慌てて、神聖魔法系の最高位蘇生術【魂還の詩(アニマ・リサルクス)】を唱えたら、初めてだったんけど……上手くいっちゃって……えへっ」


「——かわいさで誤魔化さない!!」

「ひゃん!」

『ふおんっ!』


 こらっ! さらにかわいく身悶えするんじゃない!


「ルミスに怒られるのも……いいかも~」

『はい……エルザとウィルも、最終的には、責めたり責められたりの関係になりましたからね……』


「その、さっきから、エルザとウィルって……いや、それはいいや。それで、どういう状態なんですか? お二人は?」


 簡単に言うと……リヴィアは女神エルウェに【現の世代(げんのせだい)】での転魂を許され、神聖魔法を極めたいという思いから、ちょうど魂が失われた聖女フェリエの身体に入ったのだという。と同時に、蘇生魔法でフェリエの魂も元の身体に戻ってきて、一つの肉体に二つの魂を宿している状態なのだという。そして、お互いに()()()に出ることができる、要は身体に意識を宿し動かすことができる、ということらしい……

 

 うん、だよね。そうだよね、とてもじゃないが――――簡単に言っていい話じゃないよね!! もうわかんない! わかんないけど、そういうことなのね!


「はぁ~、わかんないですけど……とりあえず、わかりました。他にも聞きたいことはたくさんありますけど、とりあえず、一番重要なのは……誰に追われていて、なぜ追われているのか。そして、これからどうすればいいのか、ということです」


 少し居住まいを正し、聖女の雰囲気を再びまとったフェリエ様は俺に頭を下げた。


「まずは、巻き込んでしまって本当にごめんなさい、ルミス。そしてここに至った経緯ですが……私たちの祖国『ヴァルシア共和国連邦』が内乱により崩壊したことは、ご存じですよね」


「はい、市中に流れる噂程度ですけど」


 複数の小国家群で成り立つヴァルシア共和国連邦は、加盟国の一つ『スヴェルドニア王国』が主要構成国の『聖ヴァルシア王国』に攻め入ったことで、内乱状態となった。勢力図はスヴェルドニア王国陣営と聖ヴァルシア王国陣営にほぼ二分され、しばらく拮抗が続いた。

 その中で、スヴェルドニア王国陣営の『グロムザール大公国』が、その時ちょうどフェリエが慰問に訪れていた聖ヴァルシア王国の地方都市を陥落させ、フェリエを捕虜にするという事件が起きた。


「私はエルウェ教の聖女。いかに敵国の大公とはいえ、表立って手を出すことはできません。裏で隷属契約を無理矢理結ばせようとしましたが、神聖魔法の使い手である私に、強引な隷属魔法は通用しません。そうこうしているうちに、聖ヴァルシア王国から捕虜交換の申し出がありました。ですが、グロムザールは断るどころか、ある取引を持ち掛けたのです」


「……取引?」


「私を大公の妻として差し出すこと。そうすれば聖ヴァルシア王国陣営に就くと。その取引に際し、現在の大公の妻であるスヴェルドニア国王の第二王女を引き渡すとまで。ただし……」


「ただし……?」


「おそらくこれは聖ヴァルシア王国には伝えていないと思いますが、グロムザール大公は、私に奴隷になれと、隷属契約を迫ったのです」


「つ、妻にするんじゃないの!?」


「私を完全に自分のものにしたかったのでしょうね。そしてあの男はまったく信義の置けぬ男です。おそらく、スヴェルドニア国王だけではなく、いずれは聖ヴァルシア王国にも牙を向けるつもりだったのでしょう、私の力も使って」


『あの醜悪な豚は、とにかく聖女様の御身体おからだに執着してもいたがな。だが、フェリエ様の清らかな御身体を手に入れるだけでは飽き足らず、聖女としての力まで利用しようとしたのだ!』


 頭に直接、リヴィアの怒りの声が響いてくる。


「聖ヴァルシア王国は取引に応じました……ですが、グロムザールは私が隷属契約に応じない場合は、取引に応じると見せかけて、スヴェルドニア国王と呼応し、聖ヴァルシア王国に攻め込むと、最後の脅しをかけてきたのです……私は隷属契約に応じました」


「そう、だったんですか……」


 ……政治か。はぁ、もうそんな話は聞きたくないんだけどな。


「ですが、私たちには一縷の望みがあったのです」


「……望み?」


「はい。この身体には、()()()の魂が二つありますから」

お読みいただきありがとうございます。

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