第6話 討伐
目の前では、グルシオと呼ばれた騎士と、リヴィアと名乗った少女が激しい剣戟を繰り広げている。俺だって剣に関しては全くの素人というわけではない。無論、そんじょそこらの冒険者に過ぎないが、それでも家にいた頃は、父親にみっちり仕込まれたほうだ。だがこれは……
「……もう、次元が違う。全く助けに入れそうもない」
何合目かわからぬほど繰り返し打ち合う二人。だが一方は冷静に相手を見定め、もう一方はかなり焦っているように見える。
「な、なぜ貴様が剣を使える!? いくら魔闘気で身体能力を高めたとはいえ、剣技まで習得できるはずがない! 剣を舐めるな!」
「ああ、その点は貴様に同意するよ。剣の道は一朝一夕にはいかないもの! だから私は日々……」
リヴィアが素早く一歩引いて剣先をすっと下げた。足を払うつもりだと読んだのか、グルシオもすぐさま刃を下げた——その一瞬だ。リヴィアの剣筋が弾けるように跳ね上がり、白い閃きが男の顎をかすめる。
「っ……!」
少なくない血しぶきが舞う……誘った一撃。傍から見ていた俺まで完全に引っかかった!
「くっ……なめるな! 【斬空撃】!」
グルシオが魔素を剣にまとわせ、斬撃を飛ばす剣士スキル【斬空撃】を放った。それもかなりの威力だ!
「――【神盾庇護】!」
リヴィアの前に、白亜の光が水面のように揺れながら一枚の透明な壁となって張りつき、聖紋を刻んだ盾のように展開された。
――ブファァーン!
かなりの衝撃音と砂煙が舞い上がる。
「けほっ、けほっ、なんも見えない……どうなった!?」
俺は慌てて気配を探るが、二つのスキルの衝突で周辺の魔素が乱れており、二人の位置がうまく把握できない。
「……ぐあぁー!!」
グルシオの声!? ようやく砂煙が収まり、周りが見えるようになった。そしてそこには、悠然と立っているリヴィアと地面にのたうち回るグルシオがいた。グルシオは左手の肘から下を失っている。
「……終わりだ、グルシオ。楽にしてやる」
「ふ、ふざけるな! そもそも、なぜ奴隷である貴様が俺の言うことを聞かない!? お前は私の性奴隷――あいつか!」
グルシオが憎悪に満ちた目で俺を睨んできた。いや、とばっちり! すると、あいつは血まみれの切断された左手を振りかぶり、リヴィアの顔めがけて血をぶちまけた。
「――うわっ!」
そんなことをされるなんて思ってもいなかったのだろう。顔に飛び散った血に、リヴィアはわずかにのけぞった。その隙をついて、
「小僧! お前が死ねばっ!」
グルシオが剣を右手に、俺に突っ込んでくる!
「しまった! 逃げろ少年!」
リヴィアが背後から追いかけるも間に合いそうにない。ヤバい、どうする! 負傷しているとはいえ、あいつの一撃を防げるか!?
……でもよかった。あいつと戦うの初めてで。俺は迎撃の構えを見せる。
「はっ、いい覚悟だ! 死ねぇー!」
「うおー! 来いやー!! ってね。――〈落とし穴〉」
「フングオッ!」
グルシオの足元に下半身がスッポリ入るくらいの穴が開いた。無様にその穴に落ちたグルシオは勢い余って顔面をしたたかに地面に打ち付けた。すかさず俺は奴の首に剣を突き立てる。
「ぐお……」
「必殺〈初見殺し〉……ってな。はぁ、でも怖かった……」
【空間魔法】で、地面の土をごっそり取り除き、落とし穴を作るという仕組みだけ見れば単純な技だ。だが、初めて対峙する相手にはかなり有効な技。それでも俺の【空間魔法】の有効範囲外から一気に飛び上がって斬り込まれたら、防ぎようがなかった。ヒヤヒヤだったぜ……あ、身体が熱を帯びてきた。お、これは!
「我が君……いったい……?」
「ああ、あなたは大丈夫? 怪我はない? ……って、こいつ殺して大丈夫だった!?」
「あ、ああ。それはもちろん。私が殺すつもりでしたから……しかし、今の技は?」
「【空間魔法】の応用です。まあ、それはともかく、えーと……何から聞いていいのか、わからないけど……こいつら以外に追手が来る可能性は?」
「あります」
「なら、こいつらを埋めてとにかく街へ逃げ込みましょう。見た感じ帝国兵じゃなさそうだし、街の方が安全じゃないですか?」
「はい……そうだと思います」
「じゃあ、ちゃちゃっと」
「……え、ええ」
俺は【空間魔法】で穴を掘り、死体を土に埋めた。そして、少女の白聖衣のような格好は目立つので、とりあえず外套を羽織らせ、バルサドの街へ急いだ。
◇
「粗茶ですが……」
「かたじけない……」
俺とリヴィアは俺の常宿『極寒の一息亭』の一室にて向き合っている。街に戻ってくるまでの間は、周囲の警戒もあり、会話は極力控えた。というか、聞きたいことがありすぎて、頭の中を整理することで手いっぱいだった。
リヴィアの宿泊の手続きをする際、宿屋の親父は、驚いた顔とニヤついた表情を立て続けに見せてくれた。まぁ、気持ちはわかる。何と言ってもこのリヴィアという少女……
「きれいすぎ……」
「……えっ!? い、いや、そんな……」
しまった……つい、言葉に出してしまった、しかもマジマジと見つめながら。ただのやばいヤツじゃん!
だが、それでも頬を赤らめる目の前の少女は、本当に美しい……美しいのよ……美しいのだが……
「えーと、あの、容姿が……その、最初に見たときと……変わってますよね??」
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