表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

第4話 グルシオ・バーチェス

 前方から、神々しいまでに美しい少女が駆け寄ってくる。まるで聖女様がお召しになる『白聖衣』のような服を着ている。近づくにつれ、その美貌があらわになり、そのあまりの美しさに息をすることさえ忘れそうになる。

 ……だが、なぜか、まるで女神様のように美しいその顔が、にやけたり、引き締まったりを繰り返している。顔立ちが整い過ぎているだけに……なんか怖い……


 急いで駆け寄り、俺の前に立ったその少女の声は、想像通りの美しい声だった。だがなぜか、女騎士のような口調で、とんでもないことを言い放った。


「そこな少年! 私を君の奴隷にしてくれっ!!」


「………………は??」


 えーと、何を言ってるんだろうか? このは……


「あ、あの~、何かお困りごとですか? もちろんお手伝いできることがあればしますよ? だから、その、もう少し落ち着いて……」


 そう、こんな美しい少女が困っていれば、助けないという選択肢はない。少なくとも男にはない。


「この奴隷紋が描いてある『誓約の魔紙』に君の魔素を流して、私の左腕に押し付けてほしいのだ! 魔素は扱えるな?」


「え? ええ。一応、扱えますが……」


「では頼む! き、き、君ならば合格だ! 少し話しただけでも、知性や品性の高さはうかがえるし、も、もうその見た目が……これから()()()と一緒に、あんなことやこんなことや……グヘヘ……じ、じゃなくて! 悪漢に追われてるんだ! 頼む、助けてくれ!」


「えっ! 悪漢に……」


 まったく要領を得ない説明で、よくはわからないが、とにかく悪い奴に追われているらしい。とりあえず、保護して街に……


「——困りますな、聖女様……勝手にいなくなっては周りの者が迷惑しますぞ」


 白銀の豪奢な鎧を着た騎士のような男が、馬上から尊大に言い放つ。この男、森の中でも巧みに馬を扱っていた。他にも軽装の兵士が徒歩で4~5人やってきた。


「はぁはぁ、グルシオ様。あまりお一人で先に行かれては、危険ですぞ……」


「……せっかく助けてやろうと撒いてやったのに……ついてくるとは、さすがは俺の鍛錬に耐えただけのことはある」


「はっ! お褒めにあずかり……ぐはっ!」

「ぎゃぁ!」「がはっ……」


 ち、血迷ったのか! この騎士の男、馬から降りるや否や、仲間と思しき兵士たちを殺し始めた!


「ぎゃあ!」「グルシオ様、何を……」


 隣に立つ少女も、あまりの予想外の出来事に唖然としている。兵士を殺し終わった騎士は剣に着いた血を振り払い、あらためてこちらに向き直る。


「……グルシオ、あなたはいったい何を……?」


「……まさか、本当にこんな機会がやってくるとは。本当に女神には感謝したくなる。一生に一度きりの機会が巡ってきたのですよ! あなたを、『黎明の聖女』と言われ、その美貌は女神に匹敵するとまで言われた……その女を我が物に出来る……くっくっく、こんな機会を逃す馬鹿がどこにいる!」


「き、貴様は……それだけのために、部下を殺し……祖国を裏切るのか?」


「それだけ……? あなたはもっとご自身の価値というものを認識された方がいい。あなたは一国の運命を左右するほどの存在なのですぞ? ……だが、ご安心ください。別にあなたで一時の快楽を得ただけで、残りの人生を棒に振るほど馬鹿じゃありません」


 グルシオと呼ばれた男は、元はそれなりに端正であろう顔を醜く歪ませ、悦に入った表情で続けた。


「今、あなたは私の『魂の奴隷』なのです。散々犯した挙句、あなたの記憶を改ざんするなど容易なこと。なぁに、4~5日、探し回した挙句、ようやく発見したことにすればよい。その間、一生分、あなたを抱いて差し上げる。その後、何食わぬ顔で、私は帰るだけです。くっくっく……はーっはっは! グロムザールは私が散々犯した残りカスを、ありがたそうに頂けばいい! あの無能者にはそれがお似合いだ……そうだ、あなたをはらませてから、奴に渡そうか……そうすれば私とあなたの子が……っくっくっく。あなたの神聖魔法なら、処女膜なんぞいくらでも再生可能でしょう。愚かなあの男は、自分と聖女の子として我々の子を表舞台に立たせるでしょう……くっくっく、ひーっひっひ!」


 目の前の男は狂ったように腹を抱えて笑っている。なんだ、こいつ……


「狂っている……貴様には、忠誠心も、信仰心も、人としての倫理観も、何もないのか!?」


 隣の少女が吐き捨てるように言い放つ。そして俺を見つめたその瞳は、アメジストのように深い紫に輝いていた。


「突然のことで本当にすまない。だが、どうか聖女フェリエ様を目の前の男から、救っていただけまいか! 〈脈打つ紫紺しこんの魂石〉を持つ者よ」


 そう言うと俺に奴隷紋が描かれた『誓約の魔紙』を手渡し、左腕の裾を切り裂いた。細くて白い、シミ一つない美しい二の腕があらわになる。


「……聖女フェリエ様……紫紺の魂石……?」


 まったく、何一つ、全然、今の状況は理解できない。ただ……やらないといけないことはわかる。目の前の少女を救う、そのために……


 俺が『誓約の魔紙』に魔素を流すと、魔紙が美しい緑色――翠緑すいりょく色に輝き始めた。

お読みいただきありがとうございます。

面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ