第3話 逃亡
フェリエ様……今です!
「——【一筋の聖光】!」
カパンッ! 手枷と馬車の扉の錠前を小さな光が弾き飛ばす。と同時に私は馬車の扉を蹴破って、外に出た。
「——聖女が逃げたぞ!」
「なに! 【封魔の手枷】はどうした!?」
兵士たちの動揺を尻目に、一人の豪奢な服装に身を包んだ男が前に進み出た。
「はんっ、無駄なことを! 馬車の中で少し教育してやらねばならんな――『とまれっ! フェリエ!』 」
一瞬、身体が”ビクンッ”と反応してしまう。だが、
「——誰が止まるかっ! この薄汚いブタがっ!」
「……えっ??」
そのまま私は目の前の森に向けて走る。向こうには数名の騎馬隊がいる。とにかく森へ入って身を隠さなければ。
馬車の男たちは、未だに私が“止まらなかった”ことが信じられない様子だ。今のうちに距離を稼ぐ。
「…………な、な、な、何をしてる! 追えー! 逃がすな!」
豪奢な服装の男が叫び、一気に兵士たちが動き出す。一人の騎馬隊の騎士が指揮を執り始めた。
「逃がすなっ、多少の傷はかまわんっ! 捕まえろ! 騎馬隊は森の入り口に回り込め! 森に入れるな!」
さすがにお見通しか! だが、今の私は内在魔素に満ち溢れているんだ!
「……魔闘気纏装——押し通る!」
魔闘気で身体能力を向上させ、一気に加速する。
「せやぁっ!」
森の入り口に立ちはだかっていた騎馬隊の一人に飛び蹴りをくらわせる。着ている白聖衣の裾ははだけまくるが、気にしている場合じゃない。蹴られる寸前、目の前の男がニヤついていたので、力を込めた。
「何をしている! えぇい、グロムザール様、聖女への『命令権一時譲渡』を!」
「くそっ、一時だけだぞ! ……行け!」
「はっ! 足の速いヤツ数人でいい。ついてこい!」
騎馬隊の指揮官が自ら追ってくるが、もう私は森へ入っていた。
◇
「はぁはぁ、結構距離は稼いだと思うが……フェリエ様、お加減はいかがですか?」
『うん、グロムザールの奴から離れたから、多少はまともな思考力が戻ってきたみたい。でも、グルシオに少しの間、「命令権」を渡していたみたいだから、気をつけて』
グルシオ・バーチェス、騎馬隊の指揮官の男だ。あいつも、フェリエ様にねっとりした視線を送っていたクズだ。
「はい、とにかく早くどこか人里へ……ですが」
『うん、これは賭け。うまくいくとは限らない。それにリヴィア、あなたの魂を縛ることになる。だから、これからはあなた一人でも……私は“眠る”から……』
「それは何度も話し合ったでしょう! 私はあなたに恩義がある! 一生あなたに忠誠を誓うと決めたのです! それにもう私たちは二人で一つの……今さらですよ」
『……ありがとう。でも忠誠はやめて。私たちは本当の意味で「魂の友」なのだから』
「はい……」
私は懐から一枚の紙を取り出す。できれば……これを使うにふさわしい人物に出会いたいものだ。フェリエ様のためにも、私自身のためにも。
『——リヴィア! 多分、グルシオが近づいてくる……私の魂が……不安定になっていく』
「くそっ! もう来たのか!」
休み過ぎたか。魔闘気で身体能力ははるかに向上しているが、フェリエ様のこの御身体は、やはり前に比べて体力が劣る。
それでも、全力で駆ける、駆け続ける。すると、
『前方に人の気配が……』
「くそっ! 今はまずい、避けます!」
『待って、リヴィア!——「気高き魂」の気配を感じます! 向かって!』
「は、はいっ!」
しばらくすると、魔草採取をしている少女? いや少年が見えてきた。冒険者か、悪そうな人物には見えないが……木の陰に隠れて、そっとその人物を観察する。
『——【魂鑑定】……えっ!? 〈脈打つ紫紺の魂石〉!』
——えっ!? 『紫紺級』の脈打つ魂石って、かなりの『気高き魂』の持ち主!
「フェリエ様、追手が迫っています。逃げ切れる可能性も少ない。あの人物に決めましょう……」
『え、ええ、そうね……〈紫紺級〉だもの。うん、なんたって〈紫紺級〉だものね。魂が気高いから………………』
「……………………」
『…………ね、ねぇ、リヴィア?』
「な、何でしょう?」
『私たち、散々、妄想してきたじゃない? もう今さらだよね、素直に言おうよ』
「は、はい。もう散々、自らの欲望をさらけ出した仲ですからね……」
『うん、いくよ……せーのっ!』
「メッチャ好みぃーー!」
『あの男の子がいい~~!!』
「すんごくかわいい! しかも育てがいがありますよ!」
『うんうん! 今はかわいいけど、将来絶対、格好良くなるよね! 私たちで私たち好みに育てよう!!』
「はい! 今はかわいさを愛でて、成長したら格好良さを愛でて! 二度美味しいじゃないですかぁ!!」
『いや~ん! もうあの男の子と早くイチャイチャした~~い!!』
「イチャイチャしまくってやるぅ~~!!」
——ガサッ
あの少年がこちらを見ている。し、しまった、はしゃぎ過ぎた……
『——はっ! リヴィア、グルシオが迫っています! 早くっ!』
「は、はいっ!」
とにかく急いで少年に駆け寄る。少年は驚いた表情を浮かべているが……近づけば近づくほど、少年の美貌が露わになる! ヤバイ、顔が緩んでくる——が、ここは引き締めねば!!
「そこな少年! 私を君の奴隷にしてくれっ!!」
「………………は??」
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