第38話 白紋の渓谷4
「もし、俺達を心配してくれてる気持ちがあるなら、それはありがたいですけど……俺たちは大丈夫です。強いので。ちなみに俺はこの間、D級に上がりました」
「え? その歳でD級!?」
「嘘つけ! お前まだ冒険者になって1年も経ってねぇじゃねーか!」
お、さっきまで繕って“君”呼ばわりしてたけど、ついに“お前”解禁か。はやっ!
「はぁ……とにかく、俺たちはパーティー単位で行動します。運べない荷物は切り捨てる――それが冒険者の鉄則でしょう。それに【空間魔法】で物を収納するたび、俺の内在魔素は確実に削られるんです。無駄に魔素を消耗する気はありません。どうしても運べと言うのなら……それ相応の料金をいただきますが、採算は合いますか?」
まぁ、普通の【空間魔法】なら、だけど。
「え? いや、それは……」
どうせ、大した荷物はないのだろうに……
「自分の力を過信しすぎると、痛い目に遭うぞ」
「こっちは先輩として親切で付き合うと言ってやってんのに、何だその態度は!」
「たまたまD級に上がれたからって、調子に乗りすぎじゃねぇのか!?」
「……あの、こちらに対して、お願いするという立場で話しかけてこられませんでした? 依頼したいって?」
「うっ……」
「くそ、てめ……」
「ぐっ……」
おそらくリーダー格であろうブラストルさんは、顔を引き攣らせている。失敗したかな、別に怒らせるつもりはなかったんだけど、結果、煽ってしまったのか……
その時、
――バサァッ、バサバサッ……!
――ガリ、ガリガリ……ッ、ズズズ……
ヒュオオッ――岩壁を削る風切り音が、四方から迫ってくる。
「な、なんだ!」
岩翼蟲と白壁鱗蜥が十数体、空と両方の壁面から迫ってくる!
不謹慎だけど……助かった!
ブラストルさんだけは剣を抜いて臨戦態勢だけど、他の5人はあたふたしているだけで、武器すら構えていない。
「リルは岩翼蟲を! リヴィアは右壁! 俺は左壁をやる!」
「承知!」
「わかった!」
リルは右手を空に向ける。
「――【幻氷咆】!」
六匹の岩翼蟲は一瞬で凍ったかと思うと、即座に砕け散り、細かな氷の結晶に姿を変えた。
「ああ! またやりすぎちゃった!」
「今はそれでいい! リヴィアも全力を見せてやれ!」
『あ、それはダメ……!!』
「いいのか!? ならば、久々に我が最強の聖剣技の一つをお見舞いしよう――【終焉の聖域】」
リヴィアが天を突くように剣を掲げる。
すると、リヴィアを中心に周囲の空気が変わる……これはフェリエの【聖域展開】に似ているが、違う……魔獣はおろか、俺も含めこの空間にいる者は誰一人として動けない。
……ここは喜びも怒りも存在しない、ただ冷徹な神が処刑を執行するためだけに用意された空間――そんな印象を抱きながら、俺は……喉が、音もなく凍りつく。
そして、この空間の美しき女神であるリヴィアが、静かに剣を振り下ろした。
――スパンッ きれいに乾いた音があたりに響き渡り、この空間にいた残りの魔獣すべてが……同時に両断された……
「――ひぃっ!」「ひゃひ」「……」「へっ……」「……」「ほふぁ……」
周囲の空気がもとに戻る。後ろを振り返ると、ブラストルさんたち6人は腰を抜かしヘタれこんでいる。
……よかった、両断されてなくて……ああ、でも二人ほど気絶して……ああ、失禁も……
「ふはぁ〜、スッキリした! やはり、たまに全力を出すのもいいもんだな! ありがとう、我が君!」
先程までの冷徹な女神様はいなくなり、美しいリヴィアが本当にスッキリした笑顔を浮かべて近づいてくる。
「……ごめんね。俺じゃ、リヴィアをスッキリさせてあげられなくて……」
「そ、そういう意味じゃない! いつもルミスには最高の快楽を与えてもらっている! そ、それに、私なんてもっと乱雑に扱ってくれていいんだ! もう私の気分なんて気にせず、ルミスの欲望のままに、無理矢理にでも私を、もっと乱暴に……!」
『……こら、今はそういう話じゃないでしょ』
珍しくフェリエがツッコんでくれる。
「リヴィアさま〜、すごかった〜!」
リルがリヴィアに飛びついてきた。
「ああ、リルもよくやった……あ、すまない! 我が君が左壁をやると言ったのに、私が倒してしまった!」
「いや、それはいいんだけどさ……」
さて、どうしようかな。ある程度力の差を見せて、いらぬ“ちょっかい”を出させないようにと思ったのだけど……
腰を抜かしているブラストルさんに近づき、優しく声を掛ける。
「えっと、俺たちは俺たちだけで十分やっていけるので大丈夫です。それと、本当に荷物運びに困っているのなら……」
言い終えぬうちに、ブラストルさんは全力で首を横に振っていた。
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