第37話 白紋の渓谷3
『白紋の渓谷』の谷底ではいくつかの冒険者パーティーが野営をしていた。顔見知りというほどではないが、ギルドで言葉を交わしたことのある相手もいる。軽く会釈を交わすだけに留め、俺たちはかなり距離を取って単独で野営することにした。
こういった場合は、魔獣に襲われた際に協力できるよう、つかず離れずの距離で、パーティー単位で野営するのが基本だが……こっちは絶世の美女級を二人も連れているからな……
先日の魔喰斧の男たちみたいに、いきなり襲い掛かってくることはないとは思うが、フェリエの姿を見られるわけにもいかない。昼はほとんどリヴィアの姿で過ごしているから、基本的に夜――誰にも見られない時間帯だけは、フェリエの姿で過ごしている。
「うふふ、私は“夜の蝶”……」
そう言って誘惑してくる聖女さま……そしてその誘惑に抗えるはずもない俺は、聖女様がご満足なさるまで、その女神級の美しさを堪能しつつ、ご奉仕に勤しむ。
心地よい疲労に包まれながら、フェリエとリルとともに、【聖風草】の上へ身を横たえる。いや、リルとはまだ、その、そういう、それは、していない。
リルは【幻影魔法】の服装を解除し、全裸で横たわっている……同じく生まれたままの姿で、女神級の美しさを誇る聖女さまが、全裸の妖艶な美女に跨り、身体を優しくなでている……な、なんという光景だ……
「うん、いい感じだよ。もう人の身体つきとして申し分ないかな。あとは……ここは、どお、リル?」
「あ、あんっ……なんだか、身体が変な感じ……気持ちいいのかな? フェリエ様に触られるの好き……ううん、フェリエさま、が……すき……もっと……」
「あらあら、イケない子……もっと、こうしてほしいの?」
「あ、あ、あんっ……ああっ!」
「うふふ、もう少しかしら……もう少ししたら、ルミスとも愛を確かめ合えるようになるわね」
「……うん、リル、頑張る……もう少し待っててね、ルミス……」
妖艶な美女が潤んだ目で俺を見つめてくる。
「え、あ、いや……まぁ……うん……」
なぜか当然のように、その方向で話が固まっていた。
「……いいわね……ルミスとリルの交わりを見ながら、ワインを嗜む……最高だわ、うふふ、うふふ……」
完全に、聖女様の趣味だった……
だが今は……フェリエがリルを優しく愛撫している姿が……聖域と聖風草以上の回復力で俺の聖剣に聖気を……!
「あら、こっちにもイケない子が……ほら、ルミスもおいで……」
「……はぅ」
冷風吹きすさむ谷底で、俺たちは心地よい朝を迎えたのだった。
◇
翌朝、食事を終えて出発の準備をする。リヴィアはリルに髪を梳いてもらっている。リルは人間らしい日常に少しでも馴染むために、積極的にフェリエやリヴィアのお世話をしている。
「だいぶん上手になったな、リル」
「ほんと! うれしい!」
リルの素直でかわいい反応。微笑ましい日常だ。このままリルには素直に元気に育ってほしい。俺が二人を見ていると、リルがこちらを向きニコッと微笑む。無邪気で可愛い表情なのだが、基が妖艶な美女だけに……ドキドキしてしまう……
『もう少し待っててね、ルミス……』
昨晩の潤んだ瞳で見上げてくるリルを思い出し……いかん、いかん。気持ちを切り替えねば。
「さて、そろそろ……」
ズサッ、ズサッ……複数人の足音が聞こえてくる。
「……どこ行ったんだ? あいつら……」
「登り口から、そんなには離れないはずだが……」
「……しっかしよ、ホント美人だったな。あの二人」
「ああ、少しでもお近づきになりたいぜ」
6人の男性だけのパーティー。皆若く、ベテランという感じはない。どうやら俺達を探しているらしいな。聖域内の物音は外には漏れない。視覚的にも俺の【空間迷彩】でよほど注意しない限り見破られることはない。このままやり過ごしてもよいが、先日の例があるからな……何もなくても、後をつけられては気分のいいもんじゃない。声をかけておくか……
「さあ、出発しよう。あ、おはようございます」
【聖域展開】と【空間迷彩】を解いて、さも今気づいたように声を掛ける。
「うおっ! びっくりした!」
「えっ!? いたのか?」
「え? さっきからいましたけど……すみません、驚かせてしまって。それでは今日もよい冒険を〜」
とりあえず、挨拶をして立ち去ろうとする。
「あ、おい! 待ってくれ!」
「え? 何でしょう?」
「お前、いや、君はE級冒険者のルミスだろう? 【空間魔法】が使えるっていう」
「ええ、ルミスですけど。あなたは?」
「俺はD級冒険者のブラストル。パーティー自体はまだE級だけど。君にお願いしたいことがあるんだ、荷物持ちとして」
「えーと、今は俺も自分のパーティーとして活動しているので、そういう依頼は受けていません。すみませんね」
と、言い残して立ち去ろうとするが、ブラストルはしつこく言い募ってくる。
「ま、待って! その、ただ、俺達の荷物を街まで運んでほしいだけなんだ。俺達のパーティーの荷物持ち役のゲイブが足をくじいてしまって」
「すみませんが、俺たちはまだ数日ここで活動する予定ですので」
「その間は俺達も付き合うよ! ここはE級冒険者にとってはかなり戦いづらい場所だろう? 戦闘も野営も人数が多いほうが安心だし。俺はこれでもD級だし、頼ってくれていい」
「ああ、低級のうちは助け合いながら活動したほうがいいぜ」
「俺たちは、おま、君より経験はあるしさ」
必死だな……まぁ、さっきチラッと聞こえたのが本音ってとこか。「少しでもお近づきになりたいぜ」って。
まぁ、気持ちはわかるが、正直……ウザい。
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