表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/41

第35話 白紋の渓谷

 襲ってきた冒険者、名前も分からぬ彼らの遺体を【空間魔法】で穿った地面の中に埋葬する。埋葬というか証拠隠滅だけど。当然、彼らの使えそうな武具や金品は、遺品として大切に頂くことにする。


 聖女さまや聖騎士さまが、あまりいい顔をしないかな、と思い前もってお伺いを立てようとしたところ……聖女様方は、自ら彼らの懐に手をやり、


「ちっ、たいして持ってないわね」

『最後まで使えないやつらですね』


 とおっしゃっておられた……お、おお……


 俺は武具の中でも、やはり『魔喰斧マナ・イーター』が気になる。手に取ってつぶさに観察してみるが……


「全然手入れしていないな……刃こぼれもひどいし、なにより魔導回路が切れかかっている。こんな聖魔級のいい武器を……もったいない」


 武具のランクは基本的に5つに分かれる。

 素級そきゅう、魔級、聖級、聖魔級、神威級しんいきゅう。鍛冶屋界ではもっと細分化された区分けもあるようだが、使う側としては基本この5つだ。


「リヴィアはこの武器を知っているの?」


 リヴィアが戦闘中に、この武器について叫んでいたのを思い出した。


「その武器を、というわけではないが、『A級指定魔獣・魔喰獣マナ・グラトン』という魔獣を倒したことがある。その魔獣の素材の中に『吸魔核きゅうまかく』というものがあってな。それを加工して武具に取り入れると、この武器のように相手の攻撃スキルや魔法を吸収することができるんだ」


 万が一、誰かに見られてもいいように、再びリヴィアの姿に戻っていた。


「なるほど。リヴィアも昔、これと同じような武器を使ってたの?」


「いや、私が倒した魔喰獣マナ・グラトンの『吸魔核』は騎士団長に取られたからな。それで作った彼の剣が、その武器と同じ感じだったんだ。『吸魔の聖剣』とかいってたな」


「うわ、リヴィアが倒したのに取られたの?」


「ああ、私は騎士団での序列は低かったからな。それにそんな剣がなくとも、私は騎士団長にさえ遅れは取らなかった。だから、快く献上してやったのさ」


 爽やかに微笑むリヴィア……格好いい。婦女子なら一発でオチちゃうな、これ。


 とりあえず、この『魔喰斧マナ・イーター』はいただくが、『一徹』のゲンブさんに、整備をお願いしてから使おうかな。このまま使えば、いずれ致命的に壊れるだろう。

 にしても、思ったより早く片付いて助かった。こいつらには昨日からずっと付け狙われていたから、気持ち悪かった。

 

 さて、次の狩り場に行こう。ソロじゃさすがに無理だったけど、今なら……


 ◇


 『霜牙の丘陵(そうがのきゅうりょう)』よりさらに1日、歩みを進める。丘陵を越えたその先で地面は唐突に途切れ、眼下には白い鉱脈を刻んだ断崖が連なる渓谷が口を開けていた。

 なだらかな雪原の丘陵から一転し、氷雪と岩に閉ざされた深い裂け目が、谷底へと静かに続いているのが見える……『白紋の渓谷(はくもんのけいこく)』。


 断崖の縁には、岩肌を削って造られた緩やかな下り道があり、凍結を防ぐための刻みと踏み跡が幾重にも残っていた。二人並んでも身動きが取れる幅が確保され、ここが白紋の渓谷へ降りるための“入口”であることは、一目でわかる。


「昨日の夜も話したけど、ここに現れる魔獣は飛行系の『岩翼蟲ロックウィング』と壁を這ってくる『白壁鱗蜥はくへきりんせき』。谷底の戦闘ならいざ知らず、底に降りる途中の道での戦闘では、素材の回収は諦めます。死骸は谷底に落ちちゃうので。ここのメインは『白輝石・冷晶石』の採掘となります」


「ああ、了解した。私とリルは周囲を警戒すればいいのだな?」

「うん、採取の方は任せて。ただ……本当に足を踏み外すことだけは気をつけてね」


 道幅は、一応二人が並んで歩ける程度には確保されている。ただ、慎重に歩いて下るだけなら問題はないものの、『岩翼蟲ロックウィング』が群れで襲ってきた場合、この切り立った崖から足を滑らせ、谷底へ落ちる者も少なくないらしい。


 特にこの狩り場は、近接戦闘職だけでは対応が難しい。魔法職など、遠距離から迎撃できる仲間がいなければ、ろくに稼ぐこともできず、撤退を余儀なくされるだろう。

 そして何より厄介なのは、この狩り場最大の収入源である『白輝石・冷晶石』の鉱脈が、谷底ではなく、断崖の壁面に集中している点だ。

谷底で採取できる分は、一昔前にすでに掘り尽くされたという。

 そのため、道を下る途中で鉱脈を見つけ、足場の悪い場所に留まって採掘作業を行うことになる。当然、単独行動ソロではほとんど自殺行為だ。

 なお谷底には、上から落ちてくる討伐済みの魔獣や、鉱石の欠片を狙う低級冒険者が、稀にたむろしていることもある。


 リヴィアを先頭に一列で白紋の渓谷(はくもんのけいこく)の道を進む。俺は壁面に注視しており、鉱脈の気配がないかを探っている。


 暫く進むと、谷底の方から上がってくる一行が見えてきた。


「リヴィア、上がってくる人たち優先だ。俺たちは壁を向いて武器には手を添えないように」


「随分と不用心な格好だな」


「向こうは崖から落ちるリスクがあるからね」


「わかった」


 とはいえ、いつもこの時は緊張する。ああ、知り合いならいいんだけどなぁ、と思っていたら、遠くから声をかけられた。


「お、ルミスじゃねぇーか!」


「あ、ギルメスさん!」


 よかった! 『雪原の剣』のみんなだ!


「知り合いか、我が君(マイン・リーベ)?」


「うん、バルサドで一番信用できる人たちだよ!」


 俺は慎重に、でも急ぎ足で、ギルメスさんたちのもとへ向かった。


お読みいただきありがとうございます。

面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ