第34話 千の手
うおぉ! 漆黒の剣を袈裟斬りに振り下ろすが、魔喰斧にあっさりと弾かれる。数合打ち込むも、デカイ斧にもかかわらず対応される。伊達にB級を名乗っちゃいないか!
「はん! 所詮E級か? あの剣がなけりゃ大したことねぇな!」
「この、あいだっ! D級に、なった、ぜっと!」
――ゴンッ!
「――なんだ!」
剣で斬りつけると見せかけ、その瞬間、【空間魔法】から巨大なメイスを引き抜き、真上から叩きつける。上段からの一撃なら、俺の腕力でも十分な破壊力を乗せられる。
相手はかろうじて魔喰斧で受け止めたが、予想外の衝撃に、大きく体勢を崩した。
間髪入れず、再び漆黒の剣に切り替え、素早く相手を斬りつける。だが、奴の身体を覆う魔壁に阻まれ、傷は浅い。ならば……
俺はメイスを上段に構え、一瞬だけ溜めてから大きく振りかぶる。相手も魔喰斧を構えて防ごうとする。
――ゴンッ!
メイスと魔喰斧がぶつかる凄まじい衝撃が響いたと同時に、俺は自分の腰の位置からショートスピア二本を相手に向けて勢いよく突き出す――魔法空間から直接。
「ぐはっ……なんだ!」
やはり相手の魔壁に勢いをそがれるが、それでもスピアの先端は突き刺さったようだ。
「くそっ!――【衝撃】!」
相手が力任せに横なぎに振るった魔喰斧をメイスで防ぐが、メイスはひしゃげて弾き飛ばされ、俺も後方に吹き飛ばされた。
俺はすぐさま起き上がり、魔法空間から漆黒の剣を掴み取る。刺突の構えで奴との間合いを一気に詰め、「うおぉ!」という雄叫びとともに、剣の間合いのかなり手前から突き出す――剣ではなくロングスピアを!
「うわっ!」
完全に間合いを見誤った奴の左腕を、俺は深く突き刺した。
「何なんだ! てめぇは何なんだよ!」
右腕一本でデタラメに魔喰斧を振り回してくる。デタラメではあるが威力は馬鹿にできず、その風圧だけで体勢を崩しそうだ。だが、スキルの乗っていない片手だけの威力なら……
――ガキィンッ!
俺は横なぎに振るわれた魔喰斧を、俺には不釣り合いの大剣で防ぐ。だが、完全に体勢を崩された。奴はそのまま魔喰斧で、俺を押しつぶそうとする……それでいい。相手の武器と意識をそこに集中させる!
「……そのまま、死んどけよ!」
「お前がなっ――【虚空穿ち《こくううがち》】!」
俺は魔法空間から、スピアや剣など手持ちの武器を、次々に連続で突き出す――奴のどてっ腹に! 奴の魔壁が初撃は防ぐが、連続で突き出される武器に魔壁は砕け散り、漆黒の刀身が奴の腹から背中へと突き出た。
「ぐぶっ…………な、なん、なんだ、よ……てめ……ぇ……」
戦斧の男は俺にもたれかかるように崩れ落ちた……結局、こいつの名前、最後までわからなかったな。
◇
「ルミス!」
「ルミス〜!」
リヴィアとリルが、こちらへ駆け寄ってくる。リルは俺にもたれかかっていた戦斧の男を蹴飛ばして、俺に抱きついてくる。おお……
「ルミス、すご〜い! すごかったよ〜!! かっこよかったよ〜! さすが私の旦那さま〜〜! 早くルミスの子供を生めるようになりたーい!」
艶めかしい美人が、無邪気にすごいことを言ってくれる。
「……強いな、我が君は」
「俺というより、ヴァイス家の【空間魔法】が、かな」
「それはつまり……我が君の強さではないか」
『ルミスの「魔素調整力」……魔調力がなければ、ここまで使いこなせていないよ。こんな【空間魔法】の使い方、見たことも聞いたこともない』
遥か高みにいる二人に、そう言ってもらえると、悪い気はしない……というか、かなり嬉しい。
返り血を浴びていたので、フェリエに【聖浄化】をかけてもらう。地味に助かる。特に武具がきれいになるのが嬉しい。俺は武器をたくさん使うので、一つ一つ血糊を取るのがけっこう大変なんだよね。
だが、この戦闘で大盾とメイスが使い物にならなくなった……ひしゃげた二つにいつも通り軽く油を塗ってやり、魔法空間に収納する。
「大切な武具だったのか、我が君?」
「…………俺の命を救ってくれた兵士たちが、使っていた武具なんだ。俺が今使っている武具の大半は……そうだよ」
「…………迷宮解放の際に……か?」
「うん。兄が死んで、親父殿が大怪我を負ったから……俺が領兵を率いて、住民が避難する時間を稼ぐために、魔物の群れと闘ったんだけど……俺だけ無様に生き残った。皆が俺を庇ってくれたから……」
正直、それからの記憶は途切れ途切れだ……
「……俺は、皆の武器を一つ残らず魔法空間に取り込んで……そのまま、魔物の群れの中に飛び込んだ。手当たり次第、今みたいに武器を突き出して、振るって……もう、戦い方なんて考えられなかった……滅茶苦茶だったよ。ただ……ただ、魔物を殺すことだけ考えて……最後に覚えてるのは……ああ、もうここで死ぬんだなって……」
気づけば俺は……帝国北部軍に保護されていた。
『……帝国の「千の手」。千の手を持ち、あらゆる武器を使い、周りに殺戮の海を生み出す……そっか、ルミスのことだったんだ』
「フェリエ……知ってるの?」
『うん、帝国の噂はよく流れてきていたから。でも、噂ってすごいね。迷宮解放の唯一の生き残り……「千の手」は大鬼のように筋骨隆々で、それは恐ろしい面構えの髭モジャの大男って話だったけど……実際は、こんなに可愛くて愛おしい男の子なんだから』
淡く翠緑の光を纏うと、次の瞬間、清らかで美しい聖女様が姿を現した。クスリと、少女のような微笑を浮かべた彼女は、静かに歩み寄り、俺をそっと抱きしめてくれた。
それだけで……身体の疲れが溶けるように消え、何より、張り詰めていた心がゆるやかに鎮まっていく。
やがて彼女は、名残を惜しむように少しだけ身を離し、両手で俺の頬を包み込む。
そして、軽く触れる程度の、かすかな口づけを落とした。
「……ルミス、あなたは不思議な子。なぜだか、あなたは人を引き付ける。もちろん、そのかわいい、とってもきれいなお顔が目を引くのだけれど、それだけじゃない。あなたの魂は『脈打つ紫紺』。でも、本当にそうなのかしら……本当はもっと……」
フェリエの翠緑の瞳が、淡く揺らめいたように見えた。
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