第33話 魔喰斧《マナ・イーター》
「ぐはっ……痛った……くない?」
大盾で防いだとは言え、かなりの衝撃で吹っ飛ばされた。大盾もかなり凹んでおり、使い物にならなくなっている。肋の2、3本はやられたと思ったが……
俺は軽く息を整えながら、何事もなかったかのように立ち上がり、少し離れたところにいるリヴィア、というかフェリエを見る。
『……もう、無茶しないで。身体は完全回復、ついでに内在魔素も完全に回復させておいたよ』
……あ、ありがとうございます。なんかすごい反則をしている気がするが……まぁ、いいか。ああいう奴らが相手なら!
「……な、なんで、無傷なんだよ……てめぇは!」
うん、わかるよ。あまりな理不尽に対する怒りだよね。でも、
「はっ、ざまーみろ! どうせお前らも今まで散々理不尽なことやってきたんだろうが!」
言うやいなや、【氷礫】を三人に放ちつつ、魔法職の男に向かって距離を詰める。
「させるかっ、小僧が!」
戦斧の男が割り込んでこようとするが、その進路を削る!
「――〈落とし穴〉!」
「ちっ!」 魔素の流れを検知したのか、舌打ちとともに戦斧の男は後ろに飛び退く。初見じゃないからな!
その間に俺は複数の氷礫を魔法職の男に打ち込む。
「――【氷礫連弾】!」
「ぐっ――【火壁】!」
――ダダダ、ダンッダンッ! シュゥゥゥッ!
俺の氷礫が火壁に防がれ、爆ぜた熱とともに、水蒸気が立ち上る。先ほどと同じ状況。再度、狙いを定めず氷礫をいくつも放つ。
先ほどフェリエに内在魔素を回復してもらったからこそ、できる芸当だ。
さらに水蒸気が白い靄となって広がり、視界を一気に奪う。だが、火壁だけは明らかに位置がわかる。
――シュッ、シュッ、シュッ!
魔法空間から弓を取り出し、火壁に向かって三発、続けざまに放つ。
「ぎゃあぁ!」
よしっ! 当たった! 自信なかったけど、よかった。
火壁は魔法に対する防御力は四元素魔法のうち一番高いが、物理防御力はほぼないと言っていい。特に矢は防げないと言われていた。
「なんだっ! くそ! ――【地砕震】!」
男が戦斧を地面に叩きつける。大地が砕けるような衝撃と爆風が走り、立ち込めていた白い靄は爆風と石礫ごと一気に吹き飛ばされた。ひしゃげた大盾で、俺はかろうじて石礫を防ぐ。
石礫が止んだ瞬間、目の前には女剣士が迫っていた。
「アンタはアタシの物になれってんだ!」
雑な袈裟斬りを氷霜王剣で防ぐ。――またあの甘い香りが……
「――【魅惑香】! 今度こそっ!」
『――ピュアリ……』
『待って!』
俺はフェリエに念話を送る。
『――ルミス! ……わかった』
女剣士と再び数合、剣戟を交わす。
――くそっ、意識がどうしても目の前の女性に引き寄せられる……だが。
何合目か。刃が噛み合い、鍔迫り合いになったその瞬間、俺は氷霜王剣に魔素を注いだ。
「――【王鹿の吐息】……」
――ヒュゥゥ……
氷霜王剣の刀身に霜が走り、次の瞬間、白い冷気が吐息のように溢れ出し、女剣士の全身へとまとわりつく。空気そのものが冷やされ、彼女の動きが目に見えて鈍っていく。
「はぁ……なによ……これ……やだ……死にたく……」
――ダメだ。
リルの【幻氷咆】のように、瞬時に凍てつかせたかったのだが……。
「――ダリアッ!」
戦斧の男が迫ってきている。女剣士を蹴り飛ばし、戦斧の男に対峙する。B級か……
「――【地裂刃】!」
戦斧が地面を抉った瞬間、裂け目が一直線に走り、地裂の刃となって前方の地面ごと俺に迫ってくる。
「うわっ!」と横へ跳んだものの、衝撃波までは避けきれず、身体を弾き飛ばされる。
体勢を立て直す前に奴が目の前に迫る。
「ぬあぁ!」俺は時間稼ぎも含めて、狙いも定めず【氷礫】をとりあえず五月雨にぶっ放す! が、魔素防壁であっさり防がれる。くっ、なんで魔壁があんなに持つんだ!
だが、体勢を整えることはできた。魔壁すら切り裂いてやる!
「――【氷斬波】!」
「はんっ! ――【魔喰い】!」
「なっ!」氷の刃が、奴の戦斧に吸収されるように消えていった!
「お前みたいな魔法剣士気取りが、俺は一番好物なんだよ。だが……仲間を全員やりやがって! 貴様ら全員、俺の奴隷にしてや……くそっ――【魔喰い】!」
……【王鹿の吐息】の冷気まで吸収しやがった。
「我が君! それはおそらく『A級指定魔獣・魔喰獣』の素材を使った武具だ! 魔法は無効化されるどころか吸収される!」
「ほう……よく知ってんなぁ。『魔喰斧』、こいつを手に入れてから、俺にはツキがまわってきたんだ。幸運の斧さ……しがねぇ旅の行商が、まさかこんな聖魔級の武器を持っているなんてなぁ」
「その行商から……買ったわけではなさそうだな」
男はニヤリと頬をゆがめ、「さぁな」と魔喰斧を構えなおした。
……氷霜王剣のような魔法剣は相性が悪そうだな。
「リヴィア、悪いがその剣を使わせてもらう」
「ああ、構わない」
こちらに駆け寄ろうとするリヴィアを手で止める。
「……〈回収〉」
空間魔法で剣を一瞬で取り寄せる。
「……え?」 「な……!」
まだリヴィアにも見せたことはなかったか。自分の魔素を“座標として結びつけた物体”であれば、多少距離があっても、空間転移で取り寄せることができる。あまりに距離が離れているとさすがに無理だが。
手にしたヴァイス家の家宝とされていた剣を構える。漆黒の刀身を持つ珍しい剣だが、魔法剣の類ではない。ただ、非常に高い硬度を持つ金属で作られている剣で、手入れを怠らなければ、切れ味が劣ることもない。
さて……魔法が通じない相手、か……
「ならば、本来の俺の闘い方でいかせてもらうよ。圧倒的な手数と物量でな!」
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