第32話 多対一
リヴィアが俺をかばうように一歩前に出る。
「すまないが、ご婦人。あなたのような醜女がルミスに触れるなぞ、天地が割けても許されないことだ。どうだろう、あなた方は全員、醜男であり醜女だ。何より外見以上に内面が醜い。あなた方はパーティー内で勝手に慰め合っていればいい。それが一番周りに迷惑をかけないで済むことだ」
「……このクソ売女! こいつらにさんざん犯されて、狂い死ね!」
「あいにく私は売女ではない。それに私が自分を売るにしても……」
そこでリヴィアは妖艶な笑みを浮かべて、男たちを見る。
「王侯貴族ですら、買うことは出来んよ。それだけの価値があるとは思わないか?」
リヴィアのこんな表情は珍しいな。いつも俺に身を委ねるときは、愛を乞うような、少女めいた表情を見せることが多い。
しかし……リヴィアめ、あの女性に相当頭に来たのか、煽りまくってるな。
「ああ、そうだな。もうたまんねぇよ!」
「最高だ! 最高についてるぜ!」
「そっちのお姉ちゃんも楽しもうぜ!」
男どもは醜い顔をさらに歪ませて喜んでいるが、女剣士だけが顔を引き攣らせている。
「……この、クッソ売女がぁ!」
……故郷が崩壊するとき、魔物だけじゃなく、人間の醜さもだいぶん見てきた。だが、いくら見ても慣れるもんじゃないな。はぁ~、殺すか。
「殺していいなら、リルやるよ! 全然平気だし!」
リルが艶めかしい表情で、物騒なことを、かわいく元気よく言ってくれる。いやギャップが……
でも優しい子だ。なるべく俺たちに人殺しをさせないように、と考えているのだろう。まぁ、リルからしてみれば、俺たちが同族殺しをすることになるからな。幻氷聖狐は同族自体が少ないから、リルにとっては禁忌に近いことなのかもしれない。
「大丈夫だよ、リル。人間は数が多くてね。敵と味方、そしてどちらでもない人、に分かれるんだ。そしてあいつらは敵。だから俺はあいつらを殺しても平気なんだよ」
「だが、我が君、あいつらは外見こそ酷いが、腕はそこそこあるようだぞ」
戦斧の男が顔を引きつらせながら前に出る。
「……その醜男にこれからさんざん犯されるんだよ、てめぇらはな! 言っとくが俺たちはC級パーティーだ! しかも俺個人はB級だ! 死にさらせ!」
戦士風の戦斧の男、女剣士、男の剣士、もう一人は斥候職か? 一人だけ魔法職らしき男もいる。
「一人でやってみる。危なくなったら助けて」
「……わかった。危なくなる一歩手前で助ける」
『その一歩手前で、あいつらを即死させるかも……神聖魔法で』
神聖魔法で、即死って……聖女さま……
「ルミス……」
リルが不安そうな表情を見せる。うぅ、かわいい。
「終わったら、なでなでしてあげる」
「やったー!」
両こぶしを突き上げてうれしがるリル。 ……うぅ、かわいい。
◇
戦斧の男、こいつだけB級冒険者だと言っていた。B級って、あのギルメスさんと同じか。ギルメスさんとは何度も一緒に迷宮探索をしているが、あの強さはさすが、としか言いようがない。
だが、『初見殺し』の異名は伊達じゃないことを教えてやろう……言われたことないけど。だって、俺の『初見殺し』を知ってるのは俺だけだし。
おそらくA級相当の強さを持っていたであろうグルシオという近衛騎士だって、初見殺しならやれたんだ。やってやれないことはない!
「――死ね!」
男の剣士が一気に間合いを詰めてくる。俺は氷霜王剣を構え、迎撃の姿勢を見せつつ――ここだ。必殺の初見殺し!
「――〈落とし穴〉!」
「ブゴワッ!」
俺の眼前で地面が陥没し、下半身がすっぽり収まるほどの穴が口を開く。勢い余って落ちた男は、そのまま前のめりに倒れ、顔面を地面に強打した。
間髪入れず、俺は一歩踏み込み、氷霜王剣を男の首筋へ叩き込む。
「な、なんだ!?」
「……え?」
「――魔法か!?」
「――【氷礫】!」
俺は残る四人へ、間を置かず氷礫を放つ。一人につき二発――狙いは分散。
戦斧の男と魔法職の男は即座に魔壁を展開し、氷礫を弾く。だが、女剣士は一発を剣で防いだものの、もう一発は腹部に直撃した。
俺はその隙を逃さず、女剣士との距離を一気に詰める。
「くっ――舐めんなっ!」
数合、剣を交える。……我流だな。剣筋に洗練さがない。これでC級……?
――いや、それよりも。目の前の女剣士が、妙に目を引く……とても魅力的な女性に思えて……その瞬間。
『――【聖浄化】!』
「ルミス、後ろだ!」
「――っ、『大盾』!」
――キンッ!
背後からの一撃。
斥候職の男か! 振るわれた小剣を、背中に背負うように魔法空間から展開した大盾で受け止める。衝撃と同時に、大盾を即座に収納。
「な、なんだ、これは!」
振り向きざま、氷霜王剣を袈裟斬りに振り抜く。斥候職の男は後方へ跳んで躱すが――
「――【氷斬波】!」
「ぐはっ……」
袈裟斬りの軌道から放たれた氷の刃が、男の身体を切り裂いた。
「な、なんでアタシの【魅惑香】が効かないんだい!」
「俺には聖女様がついているからね!」
「くたばれっ! 【火弾】!」
魔法職の男が、人の頭ほどもある火弾を二発、連続で放ってくる。
――大盾じゃ、受け切れない。
「――【氷壁】!」
俺は氷霜王剣をかざし、火弾の前に氷の壁を生成する。
――ダンッ、ダンッ……ブワッ、ジュゥゥ……
火弾が着弾し、爆ぜた熱とともに、水蒸気が立ち上る。視界が白く覆われた、その刹那。
「腹がガラ空きだ!」
凄まじい風切り音。戦斧が、俺の胴へと迫る――
「大盾……ぐっ!」
間一髪で展開した大盾が戦斧を受け止める。だが、重い一撃に盾は歪み、俺の身体は大きく弾き飛ばされた。
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