第29話 用意周到
なるべく目立たないようにと、立ち振る舞ってきたのだけど……ハルさんの言うとおりだ。リヴィアとリルを連れて歩き、しかも『氷霜王剣』なんて、とんでもない剣を腰に提げているんだ……目立つなというほうが無理だ。
であれば、これからは舐められないように立ち振る舞うしかない。さすがにソロだと下手すればヤバかったかもしれないが、今はフェリエ、リヴィア、そしてリル……それぞれS級レベルの強さを持つ仲間たちがいる。ちょっと仲間だよりで情けない気もするけど……俺も自分の力を隠すように生きるのはやめよう。
「うわー、ビルガンの奴、相変わらずクズってんな」
「最低……見た目も中身も不細工ね」
「死ねばいいんじゃない?」
「はっは、終わってんな、ビルガンの奴」
俺の大声でギルド中の注目を集めた結果、まぁ、当然の帰結としてビルガンに非難が集まる。俺が今まで無害に、というか、周りに愛想よく振舞ってきたという積み重ねもあるが、ビルガンやサブマスの人望の無さの現れだ。
ビルガンとその仲間たちは、こんな展開になるとは欠片も思っていなかっただろうなぁ、無様なくらいにあたふたしている。
「ふ、ふざけんな! こっちはギルドに正式に訴えてんだぞ!」
「いや、訴えているだけで何も結論出てないでしょ?」
「それは……俺がサブマスに言ってとめてやってるんだろうが!」
「自分で訴えて、自分で止めてるって……頭、大丈夫か?」
周囲から、こらえきれない失笑が漏れた。ますますビルガンは顔を真っ赤にしている。
「まぁ、要は『冒険者資格はく奪』っていう脅しの道具を手に入れて、俺を手に入れたかったんでしょ? サブマスは。 頭悪いなりに色々考えたんあろうけど……実情を言うとね……お前がサブマスに訴えて、サブマスが裁定を下した結果はギルドに降りてきているけど、ギルド職員は誰もそれを真面目に取り合っていない。そもそもギルドとして正式にお前の訴えなんて受理すらしていないんだよ」
「……あ? は? お前何言って……?」
「だから、サブマスに冒険者の資格をはく奪するような権限は与えられていないんだよ。ただのお飾りだよ。」
「……だ、だが、あの人は貴族だぞ! 子爵家の人間だぞ!」
「その家から無能ゆえに追放されて、ここで面倒見てもらってるんだろ?」
「で、でも、金は結構持ってるじゃねぇか!」
「デランジュ子爵家は魔鉄鉱山を有しているからね、裕福な貴族なんだよ。それだけに家の体面も気にする。仮にも家名を有する者に、貧しい暮らしはさせられないんだろ?」
「……あ、あの人はデラーク辺境伯にかわいがってもらったって……」
「子供の頃に一回か二回あったことがある程度だろ、どうせ。それにデラーク閣下があんな剣も振れないブタをかわいがるわけないでしょ?」
「あ!? なんでてめぇが辺境伯を知ってるような口ぶりなんだよ! てめぇみてーな……」
「――俺はヴァイス男爵家の人間だったんだぞ? 本当に知らないとでも思っているのか?」
「……あ」
少し声を落として雰囲気を変える。半分は演技だが、半分は……複雑な思いが入り混じる。
すると、少し回りがざわつき始めた。
「そうだったな、ルミスの奴は……」
「え、ルミス君、貴族だったの?」
「そうか、あのヴァイス男爵領の生き残りだったな、アイツ」
「確か、ヴァイス家の……何とか、って呼ばれてたよな? なんだっけ?」
……しまったな。過去を詮索されるのは好きじゃない。話題を戻そう。
「……で、だ。ビルガン君。まずは迷宮内での出来事に白黒つけようじゃないかね!」
強引に雰囲気を変えて、話を戻す。
「……あ? 白黒って、どうやって……?」
「お前さぁ、俺がギルドに何も報告していないとでも思ってたの? 今までこの件で何も沙汰がなかったのは、ギルマスが長期療養中で、実質、ギルドを取り仕切っている統括官が州都に出張中だったからだよ。そして統括官はこの間、お戻りになった……さあ、ではご登場いただきましょう! グレン・ハルフォード統括官の、登場です!」
俺が一歩身を引き、ギルドの奥を手で示す。その先に、静かに立っていたのはグレン統括官、その人だった。そして彼は静かに言い放つ……メガネをクイッと押し上げながら。
「誰がこんな登場の演出をお願いしたのかね? ルミス君?」
「セリスさんです!」
「ち、ちょっとルミス! なんで言うのよ!」
グレン統括官の斜め前にドヤ顔で立っていたセリスさんが慌てふためく。
「これが終わったら、私の部屋に来なさい。セリス君」
「ふぇ~……」
“はぁ~”とため息をつきながら、グレンさんはこちらへと歩み寄る。
「さて、結論から言おう。C級冒険者ビルガン・ノース、及びそのパーティーメンバー。君たちの冒険者資格をはく奪する」
「――はぁぁぁ!?」
「ふざけんな!」
「……どういうことだよ!」
ビルガンたちが目に見えて狼狽する。そして、「ふざけんなー!」の大合唱を始めた。
「な、なんでだ! どんな理由でそうなるんだ!?」
「そうだな。理由はいくつかあるが、一番の理由は……お前たちが気に入らない」
「はぁぁ!? ふ、ふ、ふざけんなぁ!」
逆上したビルガンが、グレンさんに掴みかかろうとしたので、奴の眼前に氷霜王剣の切っ先を突き付ける。
「ギルド内での刃傷沙汰はさらに罪を重ねるぞ、ビルガン?」
「ぐっ……」
少しは落ち着いたものの、それでもビルガンはグレンさんに詰め寄る。
「し、証拠は!? 証拠はあるんだろうな! 冒険者資格のはく奪なんて、よっぽどのことだぞ!」
「自分たちは何の証拠もなしに、ルミス君の冒険者資格をはく奪しようと訴えておきながら……か? そこの矛盾はどう説明する?」
「うっ……」
「まぁ、いい。証拠ならここに」
グレンさんは一枚の紙を懐から取り出す。
「これはルミス君と君たちが交わした迷宮探索の契約書だ。そしてこれは『誓約の魔紙』で書かれている」
「……はぁ!?」
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